第十八話 進化、進化、進化!
雪玉→氷の小人→雪狼(幼体)→雪狼(人型)。
ぼくの今までの進化は『魔人』を目指していた。人間と近いタイプの魔物のことだ。失敗すると『魔王』になってしまう。魔王はかなり厳つい見た目になるので、人間からは怖がられてしまう。
二度目のやり直しでぼくが魔王になった時は、身長八メートルだった。直前がドラゴンだったので、大きな尻尾やツノも生えていたし、手足にウロコもあった。
オルフィなら外見には構わずに接してくれる気もするけど、あのクズ王子に毎回惚れるってことは、実は面食いなのかも知れないんだよなぁ。
『見た目じゃなく中身で勝負しろ!』とか言う? そりゃあもちろんぼくだって、中身で勝負したいよ。でもぼくはペットスタートなんだよ? 成長して進化もして「ドキッ!」としてもらわないと「あら素敵!」ってならない気がするんだもん。
だから、ちょっと情けない気もするけど、切実にオルフィが『格好いい!』と思ってくれる姿に進化したい。
そして、そんなぼくの気持ちを後押ししてくれたのが、王妃さまの守護をしている春の精霊だ。ぼくの進化に可能性をくれた。精霊族はみんな、とても美しい姿をしている。
ぼくは元々氷の魔物なので、精霊の要素も持っている。けれど、今回の進化はどちらかというと獣寄りだった。雪狼(幼体)から雪狼(人型)と進化して、屋敷の人たちやオルフィには好評だったけれど、獣寄りの進化を続けた場合は、見た目が人から遠ざかってしまう。
四度目のやり直しの時は鳥系の進化が続いて、オルフィが学園に入学する頃には、ぼくは立派な翼を持つ氷雨鷲人だった。
オルフィは、ぼくと一緒に空を飛ぶのがとても好きだった。でも、人間は自分たちと姿が違うものを受け入れてはくれない。オルフィは異形の魔物と通じ合った愚か者と後ろ指を刺され続けた。
ぼくは悩みながらも、一年近くを人型の雪狼で過ごした。剣の修行も出来るし、指先を器用に使えるので、オルフィと一緒に刺繍や編み物をしたりした。ちょうど七〜八歳くらいから、貴族の女性は嗜みとやらのために、刺繍やレース編みをはじめる。
平和で、穏やかで、満ち足りた……とても幸せな時間だった。オルフィは旦那さまや屋敷のみんなに愛される幸せなお嬢さまだし、ぼくはオルフィの遊び相手兼従者だ。
今までの七回で、こんな時間を過ごせることは、ただの一度もなかった。
(もう、このままでもいいかなぁ)
春の陽だまりで目を閉じ、まぶたに暖かさを感じるような日々に流されそうになる。ぼくは氷の魔物だから、実際には春の陽だまりで気持ち良くなったりはしないんだけどね。
このままじゃ駄目だ。魔物の従者とお嬢さまは、決して結ばれることはない。安心するのはまだ早い。
ぼくはたっぷりと貯めた進化のための魔力を存分に使って、進化してみることにした。
いつも通りオルフィの部屋で雪玉に篭る。旦那さまとマーヤさんは良い顔をしなかったけれど、オルフィが泣いて「進化の時、シィはとても苦しむの! 一緒に居て励ますのが、わたしの役割なの!」と譲らなかった。
オルフィは最近自分のことを「おるふぃ」と呼ぶのをやめたらしい。すごく可愛いかったので、少し残念だ。
そうして雪玉から出てみると、ぼくは『氷結魔風』になっていた。ぼくの性質が精霊寄りになったせいだと思う。
これには少し……いやかなり困った。だって『冷たい風』だよ? 春の精霊にちょっと文句を言いに行きたくなった。
夏の間は大活躍だったけれど、涼しくなる頃にはオルフィに近づくことも出来なくなった。仕方ないので、秋から春まで大雪山に篭って修行した。ちょっと寂しくて泣いてしまった。
でもその甲斐あって、冬にはなんとか進化出来た。『凍風氷魔』! 今度はちゃんと身体があった。
精霊と魔物のちょうど中間くらいで、常に凍えるほどの冷たい風を纏った氷の塊だ。
ぼくは泣きながらまた修行を続けた。
そして春、雪解けと共に六回目の進化を遂げ、ぼくは『氷花の魔精霊』となって、大雪山を後にした。
魔精霊は魔物寄りの精霊だ。今度こそ、ちゃんと人型の身体がある。ただし、氷の花を撒き散らしながら歩く。
精霊ってよく考えたら、周りがキラキラしてたり、花びら撒き散らしてたりするよね。ぼくが目指した方向は、間違っていたのかも知れない。あ、でも女の子はお花が好きだから大丈夫なのかな?
緊張しながら屋敷へと帰ると、みんなが「お帰りシーバ!」と言って迎えてくれた。半年ぶりに会うオルフィは、わんわん泣きながら抱きついて来た。
「お、遅いのよシィ! もうオルフィのこと、忘れちゃったかと思った。ひとりで進化して、痛くて泣いてるんじゃないかって……。すごく心配したんだからね!」
バカだなぁ。ぼくはオルフィのためだけに、進化を繰り返しているんだよ? 君を忘れるなんて、あるはずないじゃないか。
耳も尻尾も、ツノも爪も翼もない、完全な人型。ぼくはこの姿が、欲しくてたまらなかった。
屋敷の人には概ね好評だった。氷の花を撒き散らすことについても、女中さんたちは「なんてロマンチックなの!」とうっとりして見ていた。
ただひとりを除いて……。
「シーバくん? この花は引っ込められないのですか? これではあなたのあとを、モップを持って着いて歩かなければなりませんよ」
マーヤさんの笑顔がちょっと怖かった。
「早急に対処して下さいな!」
「はい!!!」
ぼくはとびきりの良い返事をして、三日三晩寝ないで修行した。
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