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第十三話 三度目の進化 ②

 せっかく人間に近い姿へと進化したのに、ぼくの頭には狼の耳が、おしりには尻尾が生えていた。


(うーん、なんでこんな中途半端に残っちゃったんだろう?)


 確かに狼の耳は遠くの音を拾ってくれるし、尻尾は走るときに身体のバランスを取ってくれた。便利な機能が残ったの?


 オルフィが嬉しそうに、ぼくの尻尾のブラッシングをしている。なんだか恥ずかしい。


 この羞恥心というのは、なかなか厄介なシロモノだ。毎回、人型に近く進化をすると、突然降って湧いたように芽生える感情だ。


「おるふぃ、このふく、おるふぃが着せてくるゅ……くりぇたの?」


 ああ、進化したてで舌が上手く動かない。狼や氷の小人のときは、声帯と舌を使って喋っていたんじゃないからなぁ。過去の七回のときは、魔物としてもっと成長してから人型になったし……。


 ちょっと急ぎ過ぎたかなぁ。


「そうよ、おるふぃが着せたの。シィ、はだかんぼだったから。いけなかった?」


 いけなくはないけれど、恥ずかしいよ!


 はだかをオルフィに見られたことも、女の子の服を着ていることも恥ずかしい。


 羞恥心は、本来魔物は持ち合わせていない感情だ。ぼくも人型にならない限り、ほとんど感じない。けれど今は、狼の姿で仰向けになってオルフィにお腹を撫でてもらっていたことまで、思い出すと恥ずかしくて堪らない。


 でも……!


 近い目線でオルフィを見つめることが出来る。手を伸ばしても、爪で傷つける心配をしなくていい。隣を同じ速さで歩くことが出来る。


「へへへ……」


 照れ臭くて、くすぐったくて、嬉しい。


 言葉にしなくても、そんな複雑な気持ちが顔に出てしまう。人型の顔は感情表現に特化している。表情筋がこんなにも発達している生き物は他にはいない。


 オルフィに背中を向けているからと、安心してニヤニヤ笑っていたら、後ろから「ふふふ、シィ、ごきげんなのね。しんか、うまく出来てよかったね!」と声をかけられた。見ると、尻尾がパタパタと振れてしまっている。


「えっ……?」


 狼の時は、人に感情を伝えるのに便利だった尻尾。これって隠しごとが出来ないんじゃない⁉︎


 慌てて尻尾を押さえていたら、ドアをノックする音が聞こえて来た。


「お嬢さま、おはようございます。朝のお支度をするお時間ですよ」


 ぼくは急いでベッドから降りてドアを開けた。


「マーヤさん、おはようごじゃりましゅ。シーバです。ゆうべ、このしゅ……すがたに進化しまちた」


 ああ、くそ! 舌が回らない! 赤ちゃんみたいで恥ずかしいぃぃ!


「シーバくん……ですか? ……よう頑張りましたね。素敵ですよ」


 マーヤさんが、驚きながらも褒めてくれた。なんだろう、すごく嬉しい。涙が出そうだ。オルフィ以外にこんな言葉をかけてもらえる日が来るなんて。

 あの日、ホウキを持って追いかけられても、諦めないで良かった。


「あ、あの、服を……。ヒラヒラがみゅ……ちゅいてない服を、持ってきてくらしゃい」


「ええ、お安い御用ですよ! でもシーバくん、男の子が朝からレディの部屋にいるのは感心しませんよ!」


 それを言うなら、ぼくはレディの部屋で夜を明かしてしまった。ゆうべは狼の姿だったからセーフ?


 マーヤさんはすぐに、男の子の服を一式揃えて持って来てくれた。ジェフさんの息子さんが小さい時のものらしい。

 マーヤさんに手伝ってもらって着替える。おしりに手早く尻尾用の穴も作ってくれた。


「さあさ、お嬢さまのお着替えをしますよ! シーバくんは出て行って下さいましね!」


 追い立てられるように廊下へと出ると、お屋敷の人たちが待ち構えていた。


「ジーバ、うちの坊主の古着で悪りぃな。でも似合うじゃねぇか。格好いいぞ!」


「お耳……! お尻尾……!」


「ジーバちゃんなの? なんてきれいなお顔……!」


 みんなすごく褒めてくれた。気味悪いって言われなくて良かった!



 そのあと、旦那さまに挨拶に行く前に、マーヤさんがもう少し身嗜みを整えてくれた。改めて鏡を覗き込む。


 髪の毛は氷の魔物らしく銀色だ。これは動物の姿の時も、鳥になった時も、魔王の時も変わらない。瞳の色は琥珀色がかった金色。狼の目だ。

 額に宝石のように冴え冴えとした氷の塊りがはまっている。手の甲と足のくるぶし部分にも。耳と尻尾も、どう頑張っても引っ込めることが出来ない。


(人型にはなったけど……。これじゃあ魔物だって一目でバレてしまう。まだまだ先は長いなぁ……)


 ぼくはその日は一日中、オルフィと一緒に早口言葉の練習をして過ごした。




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