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心の色。

 お披露目の後、熱に浮かされわたしはかなり変な言葉を口走っていたらしい。


 この世界の言葉は日本語でもなければ前世の地球のどこの言葉とも違う。どうやらまったく違った発音なのだけれど、何故か相当する言葉のカタカナが存在する。


 ちょっとおかしな世界だ。


 カタカナを持ち込んだのは異世界人や転生人。そう。この世界にはそういった異世界人がごろごろいるのだと。そう講義で習って衝撃をうけた。


 わたしには六歳の誕生日から教師が付いた。歴史に数学に語学。皇族に相応しいマナー等、も、授業があった。


 そんな転生人であるという自覚が少しあったわたしは、それを周りに話していいものか考えあぐね。


 そして。


 この七歳の誕生日のお披露目の当日に熱に浮かされ寝込むことになったわたしは、瑠璃だった時代の夢を見て。そして、自分が瑠璃で有ると自覚するにいたったのだった。


 最初に頭に浮かんだことは、自分が皇帝の一族に生まれてしまった、ということだ。改めてそれがどんなことか、どんな大変なことか、と。


 前世の記憶からその責任と重圧とを思い浮かべると、自分に務まるのか? と、不安になる。


 こうして明確に前世を自分の事だと理解する以前は、ただただちやほやされてるのが嬉しくて、これが当たり前ならお姫様もいいなぁ、くらいにしかどうやら思っていなかった。


 なんか、すごく、恥ずかしい。


 そして。


「目が覚めたのね? サーラ」


 優しい眼差しでわたしを覗き見る、おかあさま。


「おかあさま。わたくし、どれくらい眠っていたのかしら」


 倒れたのは多分お昼。そろそろ夕方か?


「お披露目の日からずっと目を覚まさないから心配しました。可愛いサーラ。丸二日間起きないのですもの」


 おかあさまの瞳が潤んでる。ああ。この人はわたしのお母さんなのだな。前世とは違う、わたしはサーラなのだな、と。そう。


 この時、わたしの中で初めて「サーラ」が生まれたのかもしれない。


 そう、感じていた。


 そして。


 おかあさまの周りにぼんやりと光が見える。色のついた光。それはとても温かで、優しい色をしていた。



 ☆☆☆☆☆


 この光の色の変化がいつのまにか文字のように見えてくる。いつしかそれが他人の心の声だと気がついた。


「おはようございますサーラさま。朝食前にお着替えと御髪を整えますね」


 目を覚ますと待機していたアスターニャがわたしをベッドから起こし着替えをさせてくれる。


 ……サーラさまは私の思う通りに動いてくれるからほんと楽でいいわー


「ありがとうアスターニャ。わたくし、自分でお着替え出来るようにならなくちゃいけませんね」


「いえいえ。サーラさまのお世話は私にお任せください。それに、サーラさまはまだ七歳なのですもの。もっとお子様らしく甘えたりわがまま言ったりしてもよろしいのですよ。その為に私達が控えているのですから」


 にっこりと笑顔になるアスターニャ。心の色も、微笑ましいって色になっている。


 わたしのお世話は主にアスターニャがしてくれる。彼女がいないとほんと困る。わたしには自分の着替えがどこに有るのかもわからないのだ。


 ヘアメイクが一段落したあと、靴下を履き靴が合わされる。


 そしてやっとベッドから床に降りる事ができた。


 お手洗いに行くのにも手を引かれ、そして食堂へ。


 お父様の方針で、家族が揃っている時はなるべく一緒に食事をする。


 朝ごはんの時間はほんと楽しみ、だ。


「おはようございます」


「おはよう、サーラ」


「「「おはよう」」」


 おとうさまおかあさまおにいさまおねえさま。皆笑顔で綺麗な色を纏ってる。


 わたしは嬉しくなった。


 朝食はまずオニオンの入ったコンソメスープ。麦芽のパン。


 たっぷりのレタスにフレッシュなトマト。うっすら塩味だけだけど、おいしい。


 そしてゆで卵をカットしてサラダの上に盛り付けてある。


 質素? だけど、とてもヘルシーで美味しい朝食だ。


 あんまり贅沢な食事が献立に出てきたことは無い気がする。


 そう。ほんとうにこれが皇帝一家の食事なのか。そう思ったりもしたけれど、これはこれでわたしの好みにはすごく合ってて嬉しい。


 心の色が見えるようになってから。


 わたしはまだ悪意の色を見た事がなかった。


 ほんとうに、幸せ、だったのだろう。この時は。

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