転生皇女。
わたしが物心ついたのは、五歳の頃。それ以前は断片的な記憶しかない。
ほら、よく赤ちゃんの時から前世の記憶を持っていて、とかあるけれど、わたしにはそういうことは無かった。
周りのキラキラとした映像が心に残ってる。暖かい肌触り、優しい声、そして、抱きしめられる感覚。
幸せだった、と、思う。
自分の存在が姫さま的なそれなんだなぁ、と、人ごとみたいに感じたのが最初。
そこから徐々に、ぼんやり前世のことを思い出していった。
そして、たぶん、完全に自分が転生したのだと自覚したのは七歳のお披露目のときじゃなかったか。
皇帝の娘として、皇女としてのお披露目。それは帝都の人が全部集まっているんじゃないかと思うような人混みがバルコニーから見渡せる場所一面に広がっていた。
「サーラ様、お手を掲げて笑顔をおみせくださいませ」
そうお付きの侍女アスターニャが控えから囁く。
怖かった。
こんなにも多くの人が自分をみてる、注目してる、その事が。
もちろんおとうさまおかあさま兄上姉上が皆並び、わたし一人でここにいる訳ではないのだけど、それでも。
「サーラ。そう堅くならなくても良いのだぞ。彼らは皆其方を愛し慕うべくここに集ったのだ。我らは彼らを愛す。そして彼らも我らを慕う。それが皇家と民との関わりなのだ」
おとうさま。
「大丈夫。ぼくが守ってあげるからね。何も心配いらないよ」
おにいさま。
みんな、やさしい。
でも。
熱狂がすぐそこまで熱を運んでくるようで、わたしの頭の中は沸騰しそうだ。
そのまま熱中症にでもなったかのようにふらついて。
立っているのに我慢できなくてしゃがみこんでしまった。
ああ、わたしのお披露目なのに。
「皆よ。サーラの為に祝福をありがとう。これでサーラはさがらせるが、皆の温かい心は充分届いている。感謝だ」
気を失う寸前、そう、おとうさまの声が聞こえた。
☆☆☆☆☆
わたしは、地球の、日本の、地方都市に住んでいた何も取り柄のない高校生だった。
名前は藤井瑠璃。
高校2年、ほんとうだったらまだまだ人生もこれからって所で自殺したのだった。
どうして? って?
ほんと、どうしてだったんだろうなぁ。こうして生まれ変わってしまうと自ら命を絶ったことがとても悔やまれるけど……。
大好きな亜里沙ちゃんに迷惑をかけちゃいけない、ほんとそれだけ。
この、叶わない、叶うことのない恋を表に出しちゃいけない。そう思って思い詰めちゃったのかも。
あまりいい思い出のなかった前世。ひたすら本の世界に逃げていたわたしにとって、唯一の大事な人、それが水森亜里沙という少女だった。
天真爛漫で、綺麗で。純粋無垢な彼女。
そんな彼女の隣に居たくって一生懸命親友ポジを装ったわたし。
自分の気持ちも冗談で誤魔化した。
亜里沙ちゃん大好き!
事あるごとにそう、友達のスキで誤魔化した。
でも。
彼女から異性の話が出る様になった時、わたしの心は固まってしまった。
このままじゃ、いけない。
このままじゃ、亜里沙ちゃんに迷惑をかける。
ううん、このまま亜里沙ちゃんが他の男性とお付き合いをする様な事になったら! そんなの耐えられない!
そんな黒い自分の心に耐えられなかった。弱いわたしはそのまま自分の死を選んだんだ……。




