漆黒の気に包まれて。
「お前、レティーナだったか。思った以上に強いな。その強さに免じてお前も俺の一部にしてやろう」
は?
「なに勝手なこと言ってるのよ!」
炎の周りにあった薄ぼんやりした白い鎖。
それが増殖するように周囲に伸びる。
触手のようにこちらに伸びてくる鎖をドラゴンバスタードで払いつつ距離をとるあたし。
——逃げましょう! レティーナ!
え? どうしたのアリシア?
——このままじゃ危険。今ならまだきっとわたしの転移で跳べると思う。
でも……。大聖女さまがもしかしたら捕まってるのかもだよ? このまま逃げるなんて……。
——でも、だめ。このままあの鎖に捕まったら……。
あたしは降りかかる白い鎖を剣で払いつつ、なんとかバルカの方を見た。
炎の塊からまたしても人の姿に変化するバルカ。
もう一回、最初から!
何度でも戦ってあげるよ!
右手にエレメンタルドラゴン。左手にシルヴァ・ファングのヘッドを顕現させ鎖を噛み砕く!
「こんなもの! あたしは負けない!」
両手を合わせて吐き出すブレス。炎と氷のトルネードを巻き起こす!
「ブレス・バーストー!!」
そのブレスで迫る鎖を吹き飛ばし、そのままバルカに向かって跳んだあたし。
左手の掌の中に聖結界を生み出してそのままバルカの腹部に突き刺した。
外からの結界だけではだめなら、中からならどう?
バルカの身体の中で結界を増殖させる!
「いっけー!」
あたしの左手を中心に広がる聖結界。これなら!
一瞬。
ぶわっと弾けたバルカ。
そしてその弾け膨らんだバルカの気があたしの身体を包む。
しまった!
そう思った時は遅かった。
あたしはバルカの漆黒の気に包まれて。そして。
そのまま意識を失った。
※※※※※
黒くどこまでも黒く光のないそんな場所にあたしは居た。
あたし、負けちゃった?
誰も助けられないまま?
悲しい。
辛い。
あたしはどうしたらよかったの?
もっと良い方法があったの?
漆黒の空間に只々漂いながら、あたしは泣いていた。
小さいころ、まだ大聖女さまに拾われる前の惨めな孤児だった頃のようのに、泣いた。
悲しくて、悲しくて。もうどうしようもなくて。
そんなあたしに寄り添ってくれている意識。懐かしい、そんな意識を感じていた。




