はじまりの少女。
まともに入った。
そう思った。
魔王バルカの身体を両断した。確かに。
手応え、も、あった。
しかしそこに残されていたのは二つに分かれた赤い炎。
まあ、想定していたとはいえ。しかたない? か。
「強いな。お前、レティーナ、だったか?」
そう、なんでもないようにかけられる声。
「少しは抗えたのかしら?」
そう強がって見せる。
ここが彼、魔王バルカの魂の中であり、今まで戦っていたのだって肉体を持った相手でない事は百も承知だった。
それでも、そもそも精神生命体とでも言うべき彼、魔王に対して、その精神にダメージを与える事が目的であったはず。
精神エネルギーを削れるだけ削ってそして封印する。
過去に魔王を封印した時のアリシアのキオクがそう示していた。
——そうね。たとえここでバルカの精神を散らす事が出来たとしても、またすぐ集まって再生する。魔王とはそういう存在だから。
アリシア、も?
——そう。わたしも。元の肉体なんてとうの昔に無くなってるから。
もしかして……、大聖女様、も?
——ええ。全てはこの世界そのものの分身。元を正せばこの世界そのものが、ある少女の魂の一部なのだから……。
そう。それはあたしの中に流れてきたアリシアのキオクの中にあった。
この世界の成り立ちのキオク。
でも、だったらなんで?
「なんでこの世界を破壊しなくちゃなんないのよ!」
たとえこの世界が遥か彼方昔に一人の少女の魂から生まれた世界なのだとしても、今この世界で生活している人々は皆生きている。
そりゃあ、人々の心なんて嫉妬や欲望、怒りに悲しみ、色んな感情が渦巻いてるしユートピアみたいな場所じゃない事だって事実、だけど。
でも。
壊して良いもの、じゃ、ないよ。
そんな身勝手に破壊とか再生とか、して良いものじゃないよ!
「俺の魂にそう刻まれている、としか言えないな。最早理由など必要ないのだ」
——終末プログラム。かつてこの世界が不完全だった頃、この世界を終わらせて瑠璃本体を守ろうとした「意思」があった。もしかしてそれがバルカの中に残ってるっていうの?
瑠璃って、はじまりの少女?
——そう。わたしの前世の親友だった瑠璃。この世界の最初の神となった彼女。カッサンドラの魂はその瑠璃の分身でもあったの。
ズクン
あたしの心に、その瑠璃って名前が響く。
懐かしくて、それでもって、でも、自分が嫌でたまらなくて。
亜里沙ちゃんに迷惑をかけたくない。そう思って自殺した、はずの……、あたし……。
え? なに?
このキオク!
アリシアから流れ込んできたキオクとあたしのキオクが混同してるの?
ぶんぶん、と頭を振って。
あたしはもう一度魔王バルカに向き直った。
二つに分かれたはずの彼の炎は再び一つに纏まって、そして大きな炎となって。
でも、なんだろう?
真っ赤な炎の周りに白い鎖みたいなのものがうっすらと見える。
あれは……なに……?




