転生少女、と、夜。
その夜はまりあとありあの寝室に泊めてもらう事になった。
二人のベットの間にお布団をひいて、そこで。
「アリシアさん、ごめんね。いろいろ助けて貰ったのにあたし……」
「ううん。こっちこそごめんね。わたしちょっと不躾だったね。自分に置き換えたら、人には誰にだって他の人に知られたく無いことがあるんだって、そう気付いたの。困ってるならなんとか解決してあげよう、なんて、おこがましい事考えちゃってた」
「でもそのおかげで神様からの言葉貰えたんだし良かったよね」
「うん。まりあちゃんも心配かけてごめんね」
「そういえばあの黒猫のことは良かったの?」
「そっか。ナインの事はどうする?」
「あきさんに相談してみようかなとか思って」
「あの子はあの子でちょっとあんまり良く無い状態だよね」
「そうなんですか? アリシアさん」
「なんだかね、言うなれば浮遊霊状態? って感じがした。元の身体との接続が切れた状態っていうの? マジカルレイヤーでもいいからちゃんと肉体と結合してないと、意識が薄くなっちゃうかも?」
残ったキオクの中にあるインナースペースやレイヤーの部分にそういう記述が見えた。
あきさんとともさかさんみたくちゃんと肉体に依存してると良いんだろうけどそうじゃない精神は長く安定した状態を保ち辛いって。
あれは……。猫の身体の上っ面に入り込んでいるだけみたいだった。
だから……。
「あたしが身体あげればナインは助かるのかな……」
「ありあちゃんダメだよ! そんなこと考えたら」
「そうだよ。ありあちゃんが居なくなったらみんな悲しむ。っていうかどうしてあげるなんて考えになる訳?」
「だって、この身体、中子さんの身体だから……」
「中子さんって黒猫の子?」
「うん。中子さん。ナインの事。ほんとうはチトセさんって言うらしいけど人格が変わっちゃってるって言ってた……」
「人格が、ね……。うーん、ほんとかな?」
「え?」
「最初にこの世界に着いた時に聞いた会話。あの子がありあちゃんになりたかったって、それが悔しくて忘れられなかったって。そんなこと言ってたよ」
忘れられなかったってことは、覚えてるってことは、あの子にとってその気持ちが変わってないってこと。だからきっと。
同じようにエンジェルレイヤーを使ったわたしにはわかる気がする。心の何処かは少し変わった気がする。わたしの場合、少し勇気が持てたかな。
だけど、まったく別の人格になるっていうのはよくわからない。
そうなってたらわたしはわたしでなくなってるはずだもん。
そもそもふつうに生きてるだけでも心境の変化とかで性格変わっちゃう事だってあるしね。
大人しい子が活発になったり、その反対だってある。
エンジェルレイヤーは触媒となるものをインナースペースと融合して別の主体として吐きだす。その経緯で通常の人生経験以上の変化をその個人の心に及ぼすのだ。それは決して別人を生み出しているわけじゃ無い、連綿と繋がるその心が良い方向にも悪い方向にも変化しているというだけで。
だから……。
「だからきっとあの子はチトセなんだよ。別人格とかじゃない、チトセ本人だとわたしは思うな」
「そっか。そうかもしれない。アリシアさんの言う通りかも」
ありあちゃん、何か吹っ切れたみたいな声で。
「ありがとうアリシアさん。あたし、ナイン、ううん、チトセとちゃんと話してみる。あたしがもしこの身体チトセに渡したって、あの子があたしになれるわけじゃ無いもん。チトセはチトセ、どんな身体になっても変わらないよね。あたしも。どんな身体になってもあたしはあたし、変わらないよね……」
「そうだよありあちゃん……。ありあちゃんはありあちゃんだよ。どんな身体でもありあちゃんなんだからね」
まりあちゃん、涙声、だ。
……なんだか、よかったですね。
……うん。しんみりしちゃったね。
そうだね。
ありあちゃんとまりあちゃんか。ほんといい姉妹。うらやましいぞ。
……アリシアにはあたしがいるじゃない。
……わたしだって。亜里沙ちゃん大好き。
うん。ありがとナナコ、サーラ。わたし、幸せだよ。




