転生少女、と、真皇の光。
「ここまで追ってくるとはな」
グリフォンが喋った!
まあそういう可能性も考えてはいたんだけど、いざ目の前で魔獣が喋るとやっぱりちょっと違和感。
「コルネリアを返して下さい」
サーラの体から金色のオーラが滲み出す。そしてその金色の光は辺りにみちて。
ああ、なんか凄く心地よい。って、もしかしてこれ全方位治癒魔法?
……コントロール出来てないんだ。それだけコルネリアが心配なんだねサーラ。
「うう……、サーラ、さま……」
ああ、コルネリア無事だった……。
「ああ、もともとあたしはあんたを攫おうとしたんだし。間違っちゃったけど」
え?
「わたくしを攫ってどうしようというおつもりだったのです?」
「覚えてるよ。あたしが生まれた時、あんたはそこに居た。あたしは魔王石のキオク。あんたがいればきっと残りのカケラも取り戻せる、そんな力を感じてた。だからさ、あたしのものになりな」
《じゃぁ貴女の中には先代魔王のキオクの一部があるってこと? グリフォン》
先代魔王のキオク……そんなものが……。
「ああ、その声……。神さま今は其処に居るんだ。っていうかそんな程度の魔力しかないポンコツ? の中に居ないでこっちにおいでよ。そのサーラの身体と神さまがいれば魔王様も復活できるに違いないさ」
あ、ひっどい。そりゃぁわたしのなかの魔王のキオクは大部分が失われてるけど……。
……大丈夫。アリシアはもうポンコツなんかじゃないよ。
「わたくしは亜里沙ちゃんのものですからね。貴女の自由になんてなりません!」
《もう魔王はここに復活しているのようだぞ。ぬしもこの魔王の僕となるといい》
「あんた、リヴァイアサン? あんたも魔王の力から生まれてるみたいだね。同じ匂いがする。っていうかそこのポンコツを魔王って認めるの?」
「ぽんこつぽんこつってひどい! いいかげんわたしだって怒るよ!」
わたしの中からクロコとシロが飛び出してグリフォンの目の前に降りて威嚇する。フー、ウーってわたしの感情に同調してる?
「ああ、お前たちはあたしの兄弟か。そのぽんこつに染まったのか? 情けない」
あ、ダメ。
クロコがまずグリフォンに飛びかかった。
前足にかぶりついたクロコを余裕で払おうとするグリフォン。
足元のコルネリアが消える。
サーラがこの一瞬を逃さずコルネリアをこちらに転移させ、抱きついた。
「ごめんなさいコルネリア……、わたしの為に……」
「ああ、サーラさま。すみません……」
真っ赤になって恐縮するコルネリア。でも、なんだかんだでこの子もサーラにとって大事な子になってるんだなって。それがなんとなく嬉しかった。
シロは相変わらずウーと唸って威嚇して、クロコもグリフォンの前足から離れ、こちらに飛び退る。
《さあ、どうする? このまま我らと闘い石となるか、それとも……》
レヴィアがそう言う中、グリフォンは苦々しく顔を歪めた。
「あたしの魔王様はそんなポンコツじゃ、なかった。あたしの自我は生まれてまだ僅かしか経っていないけれど、あたしのキオクが違うと言ってる。あたしは魔王様を復活させるんだ!」
グリフォンの周囲に魔法陣が浮かぶ。
二重、三重に重なるそれは、だんだんと周りに広がり……。
……まずい! あれは危険!
「みんな! わたしにくっついて!」
サーラの魔法幕がみんなを覆うけど、それだけじゃ無理。
直感でそう感じたわたしは全員分まとめてこの空間毎公主館の最奥の間に転移した。
爆裂魔法。周囲を纏めて爆発させる究極魔法が発動したのは転移が完了した直後だった。
☆☆☆
転移が終わった瞬間、ドーンという音がして、しばらくして建物が揺れた。
「みなさん、よくご無事で……」
サンドラさまに出迎えられほっとする。
って、みんな、居る? 無事?
周囲を見渡すわたし。
そこにはいつのまにか人型になったレヴィアをはじめ、クロコもシロもちゃんといる。
もちろん、サーラもリーザもコルネリアもみんな無事、だ。
ああ、よかった……。
《ああ、カッサンドラか。久しいな》
「レヴィア様もお変わりなく」
《先代魔王はどうしてこう、我らを悩ませるのだろうな》
「ええ。もう、本当に……。それだけお力の強いお方でしたから……」
って。二人も知り合いなのか……。
……先代魔王の封印は大変だったから、ね。大勢の協力者がいないと無理だったから。
そういえばあの山は?
どうなったのか?と、考える前に、
「あれだけの衝撃がここまで届くくらいですから……。山一つは消滅したかもしれません。追って眼から連絡が入るでしょう。この城下からも爆炎が見えた様ですし……」
ひっきりなしに報告に出入りする侍従。その報告を捌きながらサンドラさまはそう答えてくれた。
「アリシアありがとう、みんなが助かったのはアリシアのおかげだよー」
……うん。よくやったよアリシア。
ありがとう、リーザ、ナナコ。
そう言ってもらえると嬉しい。
「……ごめんなさい、ありがとう、亜里沙ちゃん……。あんな事になるなんて……。わたし、自分の力を過信してた……」
ちょっと呆然としながらサーラ。
「なんとかなるだろうって……。コルネリアさえ取り返せばあとは何とかなるだろうって……。ごめんなさい!」
泣きそうになってそう話すサーラ。
ううん。瑠璃ちゃん。貴女は頑張ったよ。思わず抱きしめて、わたしはそう呟いていた。
「貴女たちが出発すると同時に帝都からプブリウスが派遣されて来て、やはり現在残りのカケラの捜索を開始しています。そして……」
サンドラさまが手を広げると、そこに光の塊が浮き出た。広げた掌の上に浮かぶ虹色の光の塊。
「これが、現在回収されたカケラの全てです。これを、貴女に託しても良いでしょうか? アリシアさん」
……うん。これを扱えるのはアリシアだけ、だし、あのグリフォンに対抗するには力は必要、だよ。
ああ。そうか。そうだよね。
もう甘えていられる時期はとうに過ぎたのかも。
わたしは魔王。
真皇。
この世界に対する責任を取らなきゃいけない、んだよね。
この世界を選んだ責任を……。
わたしはサンドラさまから光の塊を受け取ると、てのひらからそれを自分のインナースペースに収容した。
と、同時に。
心の奥に。何か、が、生まれた気がした。




