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転生少女、と、レヴィアタン。

 

 このまま殺しちゃうことも出来る。

 風の壁で押しつぶしちゃえば、多分、魔王石だけ回収できる。

 でも。

 嫌だな。


 なんとなくのそんな気持ち。

 うーん。やっぱりわたし、冒険者向いてないか。


 どうしようかなって、試しに風の壁をちょっと小さくしてみると狼も少し小さくなる。

 うん。

 もしかして。


 少しずつ小さくしていくとそれに合わせて小さくなる狼くん。もう子犬サイズになったかな。こんだけ小さいと怖くないなとか思いながら。

 真っ白な毛が綺麗。

 くーん。

 って、弱々しく鳴いた。


 そのまま風の壁の周りを魔力膜でまあるく覆う。

 ループ文の魔法術式を使ったから魔力が供給される限りこのまま維持できる、かな。


 で。


 よっと手をかざしインナースペースに取り込んで、終了。

 この中なら魔力が尽きることはないから、このまま収容できる。

 はうー。これで大丈夫。




 わたしがやり遂げた感でほっと一息ついてると、


「あぁ。アリシアちょっと反則じゃない?」とリーザ。

「せっかく戦うの楽しみだったのに」あは。これはコルネリア。

「亜里沙ちゃんならこういうのもあり、なのですよねー」

 最後はちょっと呆れた感じのサーラ。


 ……まあこういうのもいいよね。アリシアだもん。


 あは。ナナコ。

 うん。でもね。殺しちゃうのはちょっと気が引けた。

 魔獣、って言ったって、クロコと一緒なんだもん。

 元は『わたし』の一部、でしょ?


 え?

 何?

 違うよ先代の魔王だし、何『わたし』なんて思ってるの!


 ……ああ、アリシア、貴女、魔王のキオクと融合してきてるんだ、ね。


 ああ……。


 エンジェルレイヤーで魔王石と融合したときはそこまで心の変化を感じなかった、けど。

 やっぱりわたしの心、変わってきてるのかな……。

 このままわたしが消えちゃったら嫌だな、と、ちょっと不安になる。


 ……でも、今のアリシアは元のアリシアと一緒だよ。先代の魔王なら魔獣倒すのに躊躇ったりしないもん。


 うう。ありがとうナナコ。


 そんなふうにちょっとの間、ナナコと心の奥で会話してるとわたしの腕を取る柔らかい手。


 腕に絡みつくように抱きついて、サーラが言った。


「大丈夫。亜里沙ちゃんはわたしの大好きな亜里沙ちゃんのまま、だよ」


 そう上目遣いでこちらを覗き込むように見るサーラにちょっと癒された。



 ☆☆☆




 次の目標はとりあえずエイラ村だ。

 まあ、直ぐに村に入っても何もなさそうなので、先にわたしが以前魔獣に襲われたあの湖に行ってみることにした。

 あそこの付近に目的の魔王の魔獣がいたら特別なんらかの異変が起きる可能性大だ。

 逆に何もなければ付近に魔王石はないってことかもだし。


「わあ。綺麗……」

「ここまで透き通ってると神秘的ですね……」


 湖を見てリーザとコルネリアがそう感想をもらす。


 でしょー。ねー。って、相槌を打ちながら、わたしは魔法で周囲を探ってみる。

 ほんとはリーザとかサーラの方がこういう事は得意だし、わたしの場合ただの『自分でやってみなけりゃ気が済まない』だけだけど、それでもね。

 魔王石の反応だったらわかるかも知れない。そんな気もしてるんだ。


 と。


 わたしの中にいたクロコがなぁって呼んだ。

 ふさふさの子猫サイズになってわたしの中にいるクロコ。なぁって呼ぶときは何か用事がある時かな。


 自分の中に潜ると、一角狼を閉じ込めた風の檻の前で檻をカリカリしながらクロコが待っていた。


「どうしたの? クロコ」


 そう、頭を撫でながら聞く。クロコは檻をカリカリと前足の爪で引っ掻き、なんだかこれ開けてって言ってる気がする。


 うーん。どうしよう。


 まあ、もし狼が暴れてもこの中から出さなければいいんだしなんとかなるかなぁとか思いながら、檻を解除することにする。


「よいっと」


 なんかへんな掛け声が出ちゃうけど黙って魔法を操作するよりこの方が調子がでるのだ。


 風の檻が晴れると、そこには仔犬大の狼、っていうか、仔犬?


 真っ白でふさふさな毛に覆われた仔犬。頭には一角獣みたいなツノがついてるのは変わらないけど随分小さくなって禍々しさはもう全然無い。

 真っ赤なルビーのような目が小さく覗いてる。


 くーん


 そうこちらを見る目は最初の時のような攻撃的な色はまったく無くなって、なんだか怯えてる?


 わたしは思わず手を出してその子を撫で回していた。




 最初こわごわ撫でられてたその白い子は、だんだんと気持ち良さそうな顔になり。


 しばらく撫でてる間にすっかり懐いた? かも。


 あはは。


「お前は今日から、シロ、ね。クロコと仲良くするんだよ?」


 クロコが近づいてきてシロを舐めた。

 シロも、お返しにとばかりクロコを舐める。


 にゃぁ。クーン。とじゃれ合うふたり。

 もうすっかり仲良くなってる。

 ああ、でも、兄弟みたいなもんなのかな?


 このシロ、みんなに見せてあげよう。可愛いからきっとみんなも喜ぶよね。


 ###################


「アリシア! アリシア返事して!」


「亜里沙ちゃん、大変なの!」


 え?


 どうしたの?


 ……ごめんアリシア。あたしもシロが可愛くてそっち見てて気がつかなかった。


 ああ、ナナコも。


「どうしたの? 何かあった?」


 完全にインナースペースに籠っちゃってたから表の状況わかってなかったよ。


「いきなりで対応できなくて……。コルネリアが……」


「なんかあれ、完全に魔力隠蔽してたみたいで……。わたしも気がつかなくて……」


「コルネリアが……、どうしようコルネリア……、攫われちゃった……」


「空からおっきな鷲? が急降下してきて、たぶんサーラを狙ったんだと思うけど、気がついたコルネリアがサーラを庇った所を掴まれて連れ去られたの!」


「東の方角へ飛んで行ってしまったの……、ああ、コルネリア……」


 ……魔王石の魔獣、鷲の魔獣? グリフォンかも?


 ああ、でも、どうしよう、魔力を隠蔽出来ておまけに空飛ぶ魔獣なんて、どうしたら……。


 クロコもシロも空は飛べないし、わたしの空中浮遊じゃ、そんなに遠くは無理、かな……。


 ちょっと手詰まり。

 サーラは責任を感じてか泣きそうだ。


 風がだんだん強くなり、池の周りの樹々が揺れる。雲が流れるスピードが速くなってきた。嵐の前兆?

 まだ太陽は正中にあるはずなのに、急に辺りが薄暗くなった。


 湖が……、渦を巻き始めた。


「ちょっと何あれ?」リーザが叫ぶ。


 湖面が激しく揺れる。波飛沫がここまで届くほど飛散して。


 ここの湖の名前はネス湖? じゃない、よ、ね?




 ザーン、という音とともに、巨大な竜の首がムクッと持ち上がり、こちらをギロリと見る。




 わたしの中からクロコとシロが飛び出して巨大化する。

 ふたりともその竜から私たちを庇うように前に出て威嚇するように唸った。


ドラゴン?」


 今度はドラゴンか。


 ……一度に2体も現れるなんて……。探す手間は省けるけどついてない、ね……。


 取り敢えず戦わなきゃいけない、の、かな……?


「サーラお願い魔法壁を、アリシアも攻撃魔法準備お願い!」


 リーザの掛け声に戦闘態勢を取るわたし達。サーラも取り乱してたけど落ち着いたかな。


 《其処に居るのは魔王か? 》


 ビン! と耳に響く声が聞こえる。このドラゴンが喋った?


 《魔王だけどなにか用?》


 わたしの代わりにナナコがそう答える。っていうか、これって声じゃなくて思念?


 ……そ。思念通話。それも上位魔法のね。通常の思念波とはちょっと違うよ。


 《我はレヴィア。原初の魔王より生まれし者。貴女が現在の魔王であるなら我は戦わぬ。貴女に仕えよう》


 そう言うとレヴィアは湖からその巨大な身体を浮かし、光の玉に包まれた。

 そして。

 光がだんだんと小さくなったかと思うと其処に現れたのは綺麗な人型の女性。

 耳に魚のヒレみたいのが付いていて海人の様な容姿の美人。すらっとした体型にふわっとしたキトンを着て、さながら海の神さまって感じになった。

 目の前にふんわり降り立つレヴィア。


 《ああ、レヴィアだったんだ。久しぶり》


 《貴女様は……、神様? 魔王の中にいらっしゃるのですね》


「何? 知り合い?」


 ……昔のね。


「じゃぁ戦わなくていいのね。よかった」

 と、リーザ。


「この思念通話はこの場にいる全員に通じているのですね」


 《うん。そうなの。だからねサーラ、これ使えばあたしだってみんなと話せたんだって今気がついたよ》


「あはは。そっか。今までサーラとは話せてもリーザには聴こえてなかったもんね。ナナコの声」


「そうですよー。ナナコさんと話せるなんて嬉しいです。これからもよろしくお願いしますよ?」


 《うん。よろしくねリーザ》


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