表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

171/198

転生少女、と、冒険者。

 アリシア、そこ!


 サーラは背後に壁作って!


 コルネリア、前方薙ぎ払う!


 リーザの声に合わせてわたしたちが動く。


 的確な指示を出しながら補助呪文を唱えわたし達を援護するリーザ。


 そして、クロコは縦横無尽に飛び回り魔物を薙ぎ払っていく。




 程なくして魔物の群れのスタンピードは収束に向かった。




 魔法は主に水系を使ったのでそこまで死んでない筈。ほとんどの魔物は戦意を喪失し森へと逃げ帰っている。

 でも。

 周囲には主に同族に押しつぶされ命を落とした魔物、特に多かったのは森鼠だった。


「うーん。これは食べられないよね」

 と、リーザ。


 オークであれば猪肉だし食べられたのにな、とか、鳥系の魔物でも良かったのに、とか。

 うーん。やっぱり食べられない魔物はもったいないな、とか。

 ちょっとリーザ、少しは食べ物から離れよう。


 ちょっと森に入ると襲ってくる魔物もこんなに集団で暴れられると驚異だよね。と。しみじみ考えながら。

 でも。

 わたしたちも随分と冒険者っぽくなったよね、なんて、感慨に耽る。




 魔王石のカケラから魔王像が作られた、そしてそのうち4体が現在魔獣化して逃げている。

 その魔獣をなんとかして回収しようとわたしたちは冒険者の真似事をすることになった。


 剣士よりの魔法剣士、実力はAランクのコルネリア。

 防御と治癒が完璧なサーラ。こちらもAランク位の実力らしい。

 で、身体能力と魔力タンク頼みのわたし。剣も少しコルネリアに教えて貰ったので、今では魔法よりの魔法剣士として戦える。

 なんとかCランクオーバーの実力はあるみたい。

 そこにクロコを加え、なんとかパーティが組めるかな、そう思ってて。

 正直最初はリーザのことは戦力と思っていなかったんだけど。


 蓋を開けてみれば。


 リーザの類まれな魔力感知能力は、周囲の空間を立体的に的確に把握し。

 そしてその情報処理能力は、常に状況への最適解を導きだした。


 足りない魔力をわたしが融通することで、リーザの指揮官としての能力を充分に開花させる事に成功したのだ。


 サーラにしても、どうやらそれまでのシールドには直接打撃に弱いという弱点があったのだけど、リーザの指示のもと一点集中の魔力壁を作り出すことで的確な防御が可能となり。


 猪突猛進気味だったコルネリアに対しても的確な攻撃目標を定めることで、その能力を何倍にも高めていた。


 そして。


 わたしやクロコをも含めた連携は、並みの魔物や魔獣相手なら簡単に蹴散らせるほどの力を発揮したのだった。




 で、このスタンピードの原因は……。


 クロコ、解る?


 くーん。


 クロコが指し示す場所。漂う禍々しい魔力。間違いないか。


「この奥に最初の目標がいるみたいだよね」


 ……そうね。間違いなくあれは魔王のカケラかな。


「行きましょう。休んでるのはもったいないです」


「あんまりむちゃしないでくださいねサーラ様」


「あら、あなたが守ってくれるのでしょう? コルネリア」


「もう、じゃれてないで行くよ」


 リーザの一声にみんな真剣な顔に変わり、そして森の奥へと踏み出した。




 もうすっかりリーダーだね。リーザ。



 ☆☆☆☆☆




 城下を出てまずエイラ村を目指したわたしたち。

 移動は特注の馬車。馬を外し展開すると広々テントになるというアウトドア好きが泣いて喜ぶキャンピング馬車だ。

 で。

 引くのは馬ではなくてクロコ。

 洞窟ライオン並みに大きくなったクロコはこれくらいの馬車軽々引くから心強いかな。

 馬を買ってとかも考えたんだけど、わたしたちが戦ってる間に襲われちゃったら困るし可哀想。

 テントになってる時はクロコはちっちゃくなって中に居るからちょうどいいのもあるしね。


 荷物をインナースペースに収納する方法っていうのをあきさんが話してたのを聞いたことがあったんだけど、これが結構便利で。

 この世界の人で出来る人は聞いたことが無いってサンドラさまが言ってたんだけど、わたし、けっこうさらっと出来てしまった。

 まあ、クロコが出入りするくらいだからイメージし易かったのもあるのかも。

 あきさんが入ってきたこともあったしね。


 あんまり変なものは気持ち悪いから入れたくないけど日常の必要なものくらいならいいかと思って、今回かなり色々なもの持ってきた。

 収納する気になれば馬車だって入っちゃうからほんと便利。

 魔力で動く大型冷蔵室も持ってきちゃったから、食べ物も腐らないし。

 うーん。

 ほんとの冒険者さんだともっと苛烈な環境で戦ってるんだろうなとか思うと申し訳ないけど、最悪全員まとめて空間転移で逃げることも出来るわたしたちはかなり恵まれてるかも。だ。




 そんなこんなで最初の町に辿り着いた所で情報収集することにしたわたしたち。エイラ村はもう少し先だけどあそこはあんまり大きくないし、この手前のアウルなら冒険者組合の支部もあるらしいし。


 冒険者組合。通称ギルド。

 まあ、ありきたりだね。

 帝都に本部をおくこの世界のギルドは、冒険者として活動している人達の寄り合い所帯として発足したと聞く。

 最初は規模も小さくあったほうが便利だからって意味の組織だったのがだんだん発展して。

 今じゃ立派な利権組織だ。


 帝国軍のお偉いさんが引退後天下ったり、警護署と密接に関わったり。

 国の公的機関ではない筈なのに、もはや準公的機関並みの扱いになっている。


 で、いつの時代からか冒険者にも国家資格が出来て、ちゃんと試験を受けないと冒険者にもなれないらしい。

 資格のない冒険者は私闘やトラブルに巻き込まれた時に国の保護が受けられないし、ギルドを通した依頼も受けられない。

 素材や魔石の買取価格にも影響するから、みんな頑張って資格をとるし、それが冒険者の質の向上にも役立っている。


 わたしたちは、と、いうと。


 とりあえず出発前に資格試験に望んだ。サーラは公主だっていうのは内緒でね。

 あ、コルネリアは出自も性別も内緒で。

 というか試験申し込みには性別欄は無かったからよかったんだけど。

 発行される資格証のプレートには魔力紋が刻まれるから、この世界では唯一無二の本人にしか使えない身分証になる。

 一度登録するともう二度と別人として登録し直すとか出来ない。再発行は可能だけどどちらにしても本人以外には使えないプレートなのだ。偽造もなりすましもできないし。


 だから。

 これはギルドに登録した本人である、という証明であって、その出自を明記するものでもないので。

 身分を偽って試験を受けようがそこまではギルドは感知しないらしい。

 嘘をつくのにちょっと罪悪感を感じてたわたしは、そうサンドラ様の説明を聞いて少しほっとしてた。




 ギルドの扉を開けるとちょっと騒然としてた。

 こんなに普段から騒がしいの? って思ったけどちがったみたいで。


「東の森で大量の魔物が発生、現在いつ暴発するかわからない状態、ですって!」

 ボードのトップに書かれていた情報を読んで、リーザが叫んだ。


「魔物の暴走って、やばいですよね?」


「スタンピードっていう現象ですね」


「それってもしかして……。魔王の魔獣と関係ありそう?」


 ……ありえるよ。大きな魔力は魔物をも恐怖に落とすから。


 じゃぁ、行かなくちゃ、だよね。


 これって依頼になってるのかな?


「流石に危険すぎてここのギルドじゃ手に負えないからベルクマール城まで援軍頼んでるところみたい」

 と、カウンターに話を聞きに行ったリーザが帰ってきてそう言った。


 うー。

 時間がかかると収拾するのにも余計に時間かかるよね……。


 ……あたしたちだけで行っちゃう?


 うん。


「わたしたちだけでこれなんとかしよう」


 たぶん、なんとかなるんじゃないかな。うん。


「ええ。魔獣をなんとかするにはまずこの魔物のスタンビードを防がないとですね」


「このパーティでの初陣ですね。腕がなります」


「まあ、なんとかなりますね」


 サーラはともかくコルネリアやリーザも乗り気だ。

 えーい。やるしかないよね。




  ☆☆☆


 で。

 なんとかわりとあっさりと魔物を退けたわたしたちは、その奥の魔力溜を目指して進む。

 クロコが先頭を歩いているので心強い。

 空気までねっとりとした感じになってきて、いよいよ現場かと思った所で、それ、は、居た。


 ギロンと此方を見る目は鋭く、その真っ白な体毛がバシバシと弾けているようで。

 額にある大きな一本の角が黒く光っている。


 それ、は、クロコよりも大きな狼だった。




 グルグル!

 そう唸ったかと思うとクロコが飛びかかった。


 それを合図にわたしたちも攻撃を仕掛ける。


 その狼はまずクロコを片手で弾き飛ばすと、その大きな角から黒い稲妻を放った。


 そう。黒いとしか言いようのないその禍々しい稲妻は、わたしたちの前方で弾け。


「大丈夫ですか皆さん!」

 サーラの防御シールドがギリギリで間に合ったのか?


 ああ、あれはまずいね。


 ……うん。正面から行ったら黒焦げだった。


 じゃぁ。


 雷に水はまずい。火はこの辺り一帯が燃え上がっちゃう。


 ……風の魔法がいいのかな。


 わたしのライブラリに残っている魔法のうち風の魔法はわりと強力なものもあったきがする、よ。


「ウインドブレイカー!」


 風の壁を作る呪文。

 わりと簡易に構築できるからこれで。


 狼の周囲を風の壁が包む。

 風の壁は触れると痛いらしく、最初脱出しようともがいていた狼は、次第にあきらめたらしくその場で丸くなり、大人しくなった。


「ちょっとアリシア、それじゃぁこっちも攻撃できないじゃない」


 ああ。ごめんなさい。

 リーザに怒られたけど……、でも、どうしよう?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ