転生少女、と、魔王像。
ナナコの存在が魔王のキオクと切っても切り離せない物なのだろう、とは、漠然と感じていた。
もちろん、魔王のキオクとナナコは別物で、魔王の外にだってナナコは存在出来たしたぶん今まではそうやって別れて存在してきたんだろうとも思う。
でも。
マイクロコスモスカッターを起動するため、瑠璃のインナースペースとこの世界を切り離す代償に消えた魔王のキオクの大半。
この世界から見たらそれは只々エネルギー消費の様に見えたのだけど、もしかしたらそれも。
瑠璃が起きた事で、
瑠璃のインナースペースが必要とした瑠璃のキオク。
それが向こうの世界に別れたのだとしたら?
もしかしたらナナコも、その精神エネルギーの大半が別れて向こうにいってしまったかも知れない、とか。
そんな不安がずっとわたしの中から消えなかった。
ナナコは何も言ってはくれないけど。
あれから、ナナコはいつも通りのナナコではあったけど、時々寝る様になった。
ああ、ナナコでも寝るんだ。
最初はそう思った。
でも。
嫌だ。
いつのまにかナナコがいなくなってしまったら、そう思うと心の中が張り裂けそうになる。
嫌だ。
☆
サーラとサンドラ、コルネリアとリーザとわたし。
夕食会はその五人で行われた。
「サーラ様が二人……」
と、最初驚いて固まってしまったコルネリアだったけど、
それがサーラの力で、分身の身体にはカッサンドラが居るのだと聞いて、
もう一回驚いて、なんとか納得したらしい。
「サーラ様なら……。そのお力もありなのかもですね……」
と、感慨にふけって。
……で、今のカッサンドラにもあたしの声は届くの?
「はい。ちゃんとわかりますよ。ナナコ様」
いきなり話し出したサンドラにリーザとコルネリアはちょっと驚いてた。
……じゃぁ。単刀直入に聞くわね。カッサンドラ、あなた、残りの魔王像が何処にあるのかは把握してるの?
え? 魔王像って……。
あの女神像の魔王像。全部で確か10体あったはず。
クロコになったのが一つ。わたしの中に埋め込まれたのが一つ。
真皇真理教のガレシアたちがまだ持っているだろうと思われるのが二つ。
っていうかガレシアは周囲に三つ魔王像を浮かせてたから、そのうち一個わたしに使ってのこり二つ持ってるだろうって。
それに、あのガレシア、あの時に絶対死んだりしてないって確信もある。
あれはわざと憎しみを増幅するためにわたしを煽ってたんだって、あとからナナコにそう聞いた。
そうするとのこり六体。
あの時の商人さんがまだ持ってるんだろうか?
サンドラが一呼吸置いて、口を開いた。
「実は魔王像はあのあと帝都の従者を派遣してもらい回収する予定でした。アリシアさんが使用するのは1体で良かったので」
「帝都からプブリウスに来てもらってたの。でも……」
「え? サーラ様、父上がこちらに派遣された時って……」
「ええ、コルネリア。あの魔王復活があった時の事です」
ええー? あの時の事ってそんなに知れ渡ってるの?
……空の色が変わるくらいの異変があったものねえ。そこらじゅう大騒ぎだっただろうね。
「えー、そんなに大騒ぎだったの?」
「あは。知らぬは本人ばかりなり? ってこと?」
「もう、リーザ。ってほんと知らなかったのわたしだけ?」
「ええ? 本人って?」
「ああ、コルネリアには言っておかなくちゃね。ここにいる亜里沙ちゃん、っていうかアリシア=レイニーウッドさんが魔王なのよ」
「もう、元、じゃない? 今じゃ魔王のキオクも大半無いし」
「いえ。アリシア。貴女はまだ魔王の器のままですよ。魔王は貴女の中に存在します」
……うん。そうだよアリシア。あなたは今でも魔王だよ。
うきゅう。ナナコまで……。
って、こんなポンコツ魔王、何の役にもたたないよ……。
……そんなことないよ。アリシアはアリシアで在るだけで、みんな幸せだよ。
にゅう。
「ごめんなさい。話を戻しますね」
ああ、ごめんなさい。
「実はプブリウスがエイラ村に辿り着いた時にはもう、残りの女神像は皆魔獣になり逃げた、との事で」
そっかー。そうなるよねやっぱり。
「周辺を探索してなんとか二体は倒し、魔石を確保したのですが」
すごい。そのプブリウスさん。
「分析した結果、魔王像を形造っていた魔石は魔王石のカケラだったということがわかりました」
ん?
「ですから残りの4体もなんとか回収したいですね」
「うん。なんとかしなきゃ」
え? サーラも。
っていうか魔王石って、何?
……五百年前の先代魔王の力を封じ込めた魔石、かな。あれ、かなりやばいくらい力溜めてたからね。そのまま倒してたら世界が崩壊しかねなかったんじゃないかな。
えー、そんな石がどうして?
「もう四年になりますか……。先代公主襲撃テロ事件。あのとき魔王石が弾けて飛び散ったのです……。それを真皇真理教の人間に利用されたのでしょう」
「テロ事件の時に……」
と、リーザ。
ああ、リーザも無関係じゃなかったっけ。あの時の両親亡くなったって……。
「じゃぁ探しに行きましょうサーラ様。その残りの4体の魔獣。私もあれから随分鍛錬しました。以前よりもお役にたてると思います」
「わたしも、探したい、サーラ、ナナコ、お願い」
……うん。きっとアリシアはそう言うと思った。あたしもがんばるかな。
「そうですね。今度はわたしも一緒に行きますからね。亜里沙ちゃん」
うん。きっと。わたしにとって大事な意味がある。そんな予感がする、よ。




