転生少女とお仕事改革。
魔王VS魔王編開始します。
わたしが魔王のキオクの大半を失って、半年が過ぎた。
ナナコは相変わらずだしクロコもかわいい。サーラももうすっかり友達ポジションになってて、リーザと三人でよく遊びに行ってる。
もとの世界がどうなったのかとか、瑠璃と亜里沙がどうなったのか、とか、それはもうたぶんわからないんだけど、
わたしがこの世界を選んだことでたぶんわたしは亜里沙とは別の人生を歩むことになったんだろうなっていうのだけは、なんとなく確信してる。
ひょっとしたらわたしがこの世界で死んだ後元の世界の亜里沙の人生の続きをするのかもしれないし、そうでないかもしれないし。
だけど、それはもう今となってはどうでもいいことだ。
いまのわたしはアリシア=レイニーウッド。
まずはこの人生をめいっぱい楽しむんだ。うん。
まあ、一旦とはいえ魔王になって魔法少女になって変わったことといえば、
まず、
運動機能がすごく上がった、ことかな?
昔は走ると転ぶ鉄棒はぶら下がるだけ逆上がりもろくに出来ない運動オンチだったんだけど、今じゃ少々走っても疲れないし最高速でかなりの距離を走れる。
多分、前世のマラソン大会でも上位に入れるんじゃないかっておもうくらい。
本気で走ればオリンピックでも勝てるかも? なんてね。
まあ、この世界にはそんな能力の人はけっこう山ほど居るらしいので、やっとふつうの冒険者や戦士並み? らしい。
とはいえ、わたしはメイドで冒険者じゃないので関係ないけどね。
次に。
魔法が少し使えるようになったこと。
魔王のキオクの中にあったライブラリはほとんど使えないからそんな大層な魔法は使えないけど、日常に困らない程度なら問題なくできる。
これも、そうだよね、Cランクハンターのテストなら通りそうなくらいの能力だって言われた。
って、カッサンドラ様にね。
とはいえCランクってハンターランクとしてはほんとう真ん中くらいであんまり強くもないらしいんだけね。
カッサンドラ様、と、言えば。
実は今、カッサンドラ様とサーラはどうやったのかわからないけど二人に分裂してる。
多重存在だのなんだの言われたけどよくわからない。
どうやら本体はサーラで分身にカッサンドラ様が入ってるっぽいけど、ちゃんと繋がっててお互いに離れてても会話ができるらしい。
便利だよね。
わたしとナナコもやってみる? って聞かれたけど、
……あたしはアリシアと一緒がいい。
っていうナナコにちょっとサーラが嫉妬してた。
はは。
どちらにしてもサーラとサンドラ(カッサンドラ様のことね)が二人になったことで、
公務はサンドラ、外はサーラ、って、住み分けができたっぽい。
サーラ様が二人っていうのは公主館の中では公然の秘密になってるけど、外の世界には内緒なので、
サーラはもっぱらメガネをかけて変装してる。
普段はわたしたちと同じような格好でうろついてるし、ね。
なんだか、平和。
こんな平和な人生が続いてくれるといいなぁ。
そんな風に考えてた。
まあ。
いくらサーラと友達でもお仕事はちゃんとやらなきゃお給料分は働かなきゃとかそう思ってるんだけど、 サーラが一緒に行動するようになってから
ちょっと調子が狂うようには、なった。
まず、魔道具への命令文を魔紙に書いて読み込ませる技術を使ってお仕事の効率化を図るんだって、サーラが言い出した。
帝都では結構当たり前にある技術らしいけど、ほら、魔紙ってちょっとお高いし。
それに。
ここって今でも思いっきりホワイトな職場なのだ。
人手はたんまりお仕事はそんなに、って状態なので、下手に効率化とか言っちゃうとお仕事にあぶれる人も出てきちゃうかもしれなくて。
でも働いてる人数を減らすとか、そういうのもちょっと……。
もともと公主様騎士様お側仕え様、これらの人のお世話とお屋敷の維持管理を行うのがわたしたちの仕事。
普段から二人一組で守備範囲をまかない、緊急事で一人休んでもどうとでもなるようシフトが組んである。
また、公主館にはそれなりに人数が詰めている、っていう状況が対外的にも重要で、経費節減だの人減らしだのはイメージダウンにしかならないのも確かな事で。
だから。
もしお仕事効率化とかしたところでわたしたちがお役御免になるわけでもないんだろうけど、それでもね。
結局、侍女長ファミール様が、
「サーラ様が仰るなら……」
と、効率化を推し進めることにokを出したので、それ以来サーラとリーザの二人でお仕事改革だ、と、盛り上がってる。
とりあえずお掃除ゴーレムのトロを群体で運用する方法とか、厨房の下ごしらえの自動化、とか、お洗濯の乾燥の自動化、取り込みたたみまでトロを使ってこなす迄になったのだけど……。
みんなのお仕事奪っちゃうとそれなりに問題が出るかとも思ってたんだけど、そこはそれ、まったくそんなこともなくって。
考えてみれば、すごい高倍率を突破してこの公主館に勤めている侍従侍女の人達は人間的にもちゃんとしてる人が多くって。
少々ひまな時間ができたからといってさぼろうとか働いたら負けとかそんな発想をする人は皆無だったのだ。
手が空けば空いたなりに繕い物とか刺繍とか織物とかに精を出すし、お掃除にしても魔道具じゃ目の届かないような違和感に気づき、いろんなところをチェックして作業したりしている。
あは。
完全にわたしの気にしすぎ、だったかも。
サーラやリーザは空いた時間で新開発のお菓子の研究にも忙しい。
美味しいお菓子は大歓迎だし綺麗な刺繍や綺麗な布で生活も潤うし。そういう意味でもほんとQOLの向上は嬉しい。
できたお菓子の試食も兼ねて、休憩時間にはお茶会になる事も多くなった。
ああ。幸せだ。




