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転生少女、の、帰還。

「ああ、亜里沙ちゃん。目が覚めた。良かった」


 目が醒めるとそこにはサーラの瑠璃。


「ここ、は……。どこ?」


 目に映るのは見たこともないような綺麗な寝具。天蓋付きのベッド。


「わたくしのお部屋です」


 え? サーラの部屋? どういうこと?


「町中が光に包まれたあの夜、貴女は騒ぎの中心地で倒れているのが発見されました。サーラのたっての希望でここに運び込んだのです」


 カッサンドラ様。だ。


「丸一日目を覚まさないから心配で……。お医者様は気を失っているだけだというし……」


「心配かけて、ごめんね。瑠璃」


 でも。


 戻ってきたんだ。嬉しい。


 にゃぁ


 あ、クロコ。


 わたしはベッドの脇で頭をすりすりしてくるクロコを両手でもふもふして。


 うん。よかった。


 ……うん。よかった。まだ何も解決したわけじゃ、ないけど。


 うん。そうだ、ね……。




 わたしはあったこと、思ったこと、ちゃんと話せたかどうかわからないけど、とにかく話した。

 ラインハルト様のことを話すときはちょっと心が傷んだけどそれでもありのままに。

 そして、瑠璃の命が危ないこと。

 瑠璃がもし死んでしまえば、この世界のがどうなるかわからないこと。

 それら、全て。


「有難うございます。アリシア。貴女をここに寄越してくれた事こそが、神様の思し召しだったのかも、知れません」


 カッサンドラ様のサーラは、両手をわたしに差し出し、そう言った。


「貴女が、この世界を救う術を、与えてくれました」


 え? 救えるの?


「何か、方法があるのですか? この世界を救うために出来ることが、あるのですか?」


 わたしはカッサンドラ様の両手にすがりついた。




 ☆☆☆



 世界を切り離すことが出来れば、と。

 そして、その方法は貴女の魔王のキオクにあるのでは、と。

 そうカッサンドラ様は言う。


 ……インナースペースを切り離す、かあ。確かにそうすればここはそのまま存在出来るかもしれない。


 でも。どうやって……。



「インナースペースを切り離す、と、いったら、マイクロコスモスカッターですよね?」


 あ、瑠璃。

 そっか。


 瑠璃がお話好きで古今東西のいろんなSFにも詳しいって、忘れてた。いっつも本、読んでたじゃない。知ってるわけだよね。





 そっか。マイクロコスモスカッター、だよ。それしか無い!



 マイクロ・コスモス・カッター とは

 事故で流出したインナースペースを素子さん本人から分離する為の道具、使用には高額の費用がかかるらしい。

 新井素子さんの小説、絶句に出てくる道具、だ。

 確かに、インナースペースを分離する為の道具ではあるけれどこの世界に存在するものでもない。


 でも。


 わたしは自分の中奥底にあるキオクを検索する。

 確かに、其処にはマイクロコスモスカッターの理論が存在した。

 そう、このキオクは、瑠璃の読書の賜物であったのだ。彼女が読んだ本のキオク。彼女が思い描いた世界のキオク。


 そして。


 ……だいじょうぶ、かな。


 ナナコ、心配?


 ……この世界ごと、壊れてしまわないか。心配。


 うん。わたしも。


 だけど。このままじゃだめなのも確かだし。


 ……うん。そうだね。


 それに。


 ……うん。元の前世の世界に、二度と戻れなくなる、よ。


 そう。でも。


 わたしは選んだのだ。この世界を。この世界の存続を。この世界でアリシアとして生きていくこと、を。




 マイクロコスモスカッターを使用するにはもう一つ代償があった。


 わたしの中に存在する魔王という存在値をかなり消費する事になる、と、いうことだ。

 計算の結果は、キオクのある領域でさえ、かなり失われるかも知れない、と。


 ナナコは、大丈夫、だろうか……。

 それだけが心配。


 ……ま、あたしは魔王の領域とは違ったとこに居るから。大丈夫。いざとなったらクロコに逃げるよ。


 うん。


 じゃぁ。やってみる。よ!




 わたしはマイクロコスモスカッターの理論を魔法術式に書き換え、多重魔法陣をサーラの周囲に張り巡らせた。

 本当は向こうの世界の瑠璃にかけるべきだったのだろうけど、あちらでは魔法が使えなかったのでしょうがない。

 これでもなんとかなる筈。

 そう、計算では……。



 そして。瑠璃を通して世界の分離が行われた。


 これで、完全に新しい世界が生まれたのだった。

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