ナナコ、と、瑠璃。
手持ちの日本円は普通に使えた。
……ほんと、この世界って標準日本のある世界、みたい、ね。
俺たちはとりあえずこの世界の情報収集をし、そして分かった事。
まぁ、とりあえず俺たちの元の世界では無いって事が一つ。
そして、この世界が今まで何種類も訪れたのと同じ、元世界のパラレルワールドだろうって事。
それも、元世界とかなり似てる。俺たちが標準日本、って呼んでる世界のレベル。
何で元世界じゃないって解ったか?
天城製薬が無かったから、かな。過去から、そんなもの、存在すらしなかった。
ネットで検索しても、全然知らない漫画やドラマしか引っかからない。フィクションなのだ。この名前。
他の知ってる企業とかは大体似通ってるのにな。
さて。水森亜里沙ってのもネットではヒットしなかった。
……地方の小都市、としか聞いてなかったっけ。
まぁ。しょうがない。地道に探すとする、か。
……近くに居れば、インナースペースに引っかかるかも。わたしたちが入った時の痕跡がまだ残ってそうだしね。
とりあえずは東海道線、その後西日本に向かってみるか。って、そうするとまずはお金稼がなきゃ、かなぁ。
手持ちはもう底を尽きそうだ。
☆☆☆
待ち合わせたのは国道沿いのファミレス。この街は車がないと不便。わたしは今日だけお父さんの車を借りてきた。
駐車場で待ってるとスマホに着信。栄子が到着したようだ。
車を降りて入り口までいくと彼氏と仲良く待っている栄子が居た。
「ありさー。久しぶりー」
「ひさしぶりー。と、水森亜里沙です。よろしくお願いします」
わたしは彼氏に挨拶を、と、彼氏も会釈で返してくれて。
と。なかなかのイケメンな彼氏だ。
……おにいちゃん……
え? ナナコ? どういう事?
……おにいちゃん、だ。アキラおにいちゃん、、
キオク、が、降ってきた。
ナナコ、いや、子供の頃の瑠璃とアキラの幸せだった頃の、そんなイメージ。
ああ。
同時に、ナナコが瑠璃から解離した時の、苦しいイメージも。
そうか。そうだったんだ。
何、が、わかったってわけじゃない。
ただ、わたしがナナコをこんなにも簡単に受け入れる事が出来たのも、ナナコが好きなのも、理解、できたってこと。
ナナコは、瑠璃、だったんだ。そう、納得できたのだ。
そしてナナコが瑠璃ならば、あの世界を創造したのも、また、瑠璃である、と。
☆
ナナコは自分が創造神だと言った。だとしたら……あの世界はナナコ、瑠璃、の、インナースペース?
……そうなのかな……。わかんない……。
ああ、ナナコ。ごめん。わたし勝手に今考えちゃってた。
……ううん。でも、どうしよう。目の前のおにいちゃん。もうずっと会ってなかった。なんだか不思議。
瑠璃の記憶、戻ったの? ナナコ。
……なんだかおかしいの。あたしはナナコって自我を持ってもう何千年と過ごしてきた筈。それなのに、瑠璃のキオクが溢れてきて。
……あたしはあたし。瑠璃じゃない。よ。ねぇアリシア。あたしが瑠璃じゃなきゃ、アリシアはあたしの事好きでいてくれない?
そんな事! そんな事無い!
……あは。ありがとうアリシア。だいすきだよ。
それから、しばらくナナコは出てこなかった。
栄子とアキラさんとの打ち合わせは無事終わった。アキラさんは今井彰さん、と名乗った。藤井では無く。
両親の離婚で苗字が変わったのかな。
栄子とは名古屋の大学のサークルで知り合ったのだとか。すごく感じのいい、好青年だ。
現在東京で働いているらしい彰さんは、コミケの当日は日曜日であるにもかかわらず午前中はどうしても抜けられないお仕事があるらしい。
夕方撤収前に合流するのが精一杯なのだとか。
アフターで食事でもと誘われたけど、わたし、お邪魔じゃない?
それでなくとも前日夜も泊めて貰うのだ。ほんといいのかな。
流石に会ったばかりの今日、瑠璃の事を聞くことは躊躇われた。そもそも瑠璃のお兄さんだって事も、向こうにとっては知られる筈の無い事柄だ。
チャンスはコミケの日、かな。
なんとか会話のきっかけを見つけよう。




