転生少女、と、並列世界。
東京、上空、か。
俺が今いる場所。下に見えるのはビッグサイト、か。あの特徴的な建物の形。
フジテレビ、も、あるか。
遠くに見える緑は……。皇居、だろうな。
まさか、本当に東京上空に到着するとは思わなかった。
……ほんと。まさかだよね。
アリシアは、どうしただろう……。
……うん。もしここが彼女の世界なのだとしたら、だよ?
いや、普通に考えたらその確率は低い、だろ?
……だからさ。あんだけちゃんと抱いてたアリシアちゃんが消えたのが、ただ単にはぐれた、とかじゃなかった場合さ。
どういうこと、だ?
……この世界に彼女の本当の身体が有った、と、したらってこと。
ああ、そういうこと、か。
もし、俺が自分の身体との接続を切らなかったとしたら。
たぶん、元の世界へ帰ることも可能だったろう。
インナースペースでの繋がりは異世界転移をした場合でさえ、強固な繋がり、道しるべとして残ることになるのだから。
だとしたら。
水森亜里沙を探せば、いいんだな?
……それよりもまず、ごはん、たべよう。お腹すいたよ。
☆☆☆
ねえナナコ。瑠璃がこの世界でまだ生きてる可能性があるってこと?
……覚えてる、かな。あの時の瑠璃。外国から帰ってすぐ自殺して転生したって。そう言ってた事。
うん。変だなぁとは思ったんだけど。
だってその時の瑠璃は自殺未遂だったって、そう聞いた。いくらなんでも亡くなってたのならお葬式があったろうし、あの両親だって教えてくれない訳はなかっただろう。
……そうでしょ。あたしも其処のところのあんたの違和感が気になってたんだけど、この状況で確信した。瑠璃は、死んで無い。
どいう事?
……並列世界、かな。この世界とあの世界はわりと近い位置に同時に存在しているって考える方が妥当、かも。そして、時間軸はズレてるけど、ここで気を失った亜里沙が向こうのアリシアとして生まれ育ち、そんであたしと一緒にまた戻ってきた、って。そう単純に考えるのが正解だと思うよ。
そしたらまたあっちに帰ることも出来る?
……可能性、は、ゼロ、ではないとは思う。でも、普通には、無理かな。
うう。
……きっとこのままじゃ向こうに帰る道標が無い。仮に渡れたとしても、いつの時代のいつの誰になるか解らないから。
そっか。任意の時間軸の任意の身体に戻る方法は“存在しない“と、いう事、ね。
……うん。そう。
だから瑠璃を探すの?
……もしかしたら。瑠璃は向こうと繋がっている状態かも知れないから。
どうしてそう思うの?
……感、かな。瑠璃が今現在この世界に起きていたら、貴女に逢いに来ない訳が無い、もの。
……瑠璃が、亜里沙に遭わずに居られる訳が、無い、もの。
ナナコのその言葉は何故かすんなり信じられた。ナナコと瑠璃。全然違うんだけど、何処か似ている。そう。そんな気が、したのだ。
☆
わたしは藤井アキラさんを探すことにした。
瑠璃を探すといっても手掛かりはあまり無かった。ただ、彼女のお兄さんがアキラさんという名前らしいというのと、わたしたちより三つ四つ年上だ、という事は瑠璃から聞いて知っていた。
だから、ネットで調べてみよう、そう思ったのだ。
ネットで名前を引くと、結構いろんな情報が出てくる。
自分の名前とかエゴサしたり、小学校の友人を探したり、そんな事はしてみたこともあったけど、よっぽど真剣にやらないとほんとの本人には当たらなかったから今回もすぐに見つかるとはおもわなかったのだけど。
でも。やらないよりはマシだ。
結構本名で出身地まで書いてる人もいるし。
大垣出身なんてそうそうネットに居ないし。
当たればわかるかも、だしと。
まぁ現実はそんなに甘いものではなかった。
そもそも名前だけなら芸能人の有名人が先にでてくるし。
アキラの字が何かわからないし。
片っ端から当たってみたけどそれらしい人物は見当たらなかった。
そうこうしている間にどんどん日にちが過ぎる。かなり焦っていたわたしにある日、友人から連絡が。
コミケで売り子やってくれない? って。
高校の時の同級生がコミケで猫の本を頒布するのだ、と。
友人が写真担当、その彼氏が本文担当で本を作るらしいのだけど、当日彼氏がどうしても仕事で抜けられないらしくわたしに白羽の矢を立ててみた、ということらしい。
猫の写真にもコミケにもちょっと興味があったわたしは、とりあえず話を聞いてという友人栄子に夕食に誘われファミレスで待ち合わせをする事にした。
コミケ、かぁ。わたしもおはなし書いて本にしてコミケで頒布、って、憧れたなぁ。
楽しそう。今の気がかりさえ無ければほんとう二つ返事なんだけどな。
……いいじゃない。そういうのも。あっちの事も心配だけど、こっちでの生活だって充実させてもいいと思うよ。
そっか。ナナコがそう言ってくれるなら。素直に楽しもう、かな。




