転生少女、名古屋へ。
ここは……。
見知らぬ天井。だ。
腕に点滴が刺さってる。病院? え?これ、現代日本?
間違いない……。
顔を動かして見える範囲だけだけど、其処にはそこここに日本語の文字が見える。
カーテンで囲われてて外は見えないけれどここは普通の病院。それも前世で見慣れた病室の風景、だ。
どうして……?
……そっか。ここが日本。か。なんだか懐かしい気がする。不思議。
ナナコ?
……何? アリシア。不思議そうにして。
っていうか今までのことは夢オチとかそんなんじゃ無かったって、そういう事だ、よね?
……あんたばか? そんな簡単に夢オチとか。それじゃ物語もバカにしてるわよ。
あはは。ナナコだ。ほんとうにナナコだ。
……何泣いてるのよ。ほんと、ばかね……。
わたしは嬉しかった。目を覚ました瞬間、今までのことは全部夢で、わたしは死んでなくて転生もして無くて、あの世界での幸せが全部無かったことになったのか、と、絶望しかけてた、から。
ナナコ。好きだよ。ほんと一緒にいてくれてありがとう。
……あたしはあんたと一心同体なんだから、ね。そう簡単に別れられると思っちゃいけないの。よ。
そうね。うん。一緒だ。ずっと一緒でいようね。
恋? わかんない。でも、愛、ではあると思う。依存? うん。そうかもしれないけど、でも、いいじゃない。だって、ナナコはナナコだもん。わたしの好きなナナコ。だ。ずっと一緒に生きて、それが当たり前になって、気心も知れて。困った時には助けてくれる。なんでも分かり合える。血の繋がった家族以上に家族な存在。わたしにとってナナコはもうそんな存在になってる。ほんと大切な、そんな存在。
からからからん
カーテンが空いて看護婦さんの顔が見えた。
「あ、起きましたね? 大丈夫? あなた、駅で倒れてここに運ばれたのよ」
駅で……。
「あの……、今は何年何月何日、ですか?」
「令和元年7月28日、よ。もうすぐ正午」
ああ、令和。そっか、令和元年って、記憶、ある。確か6月30日にならまちに遊びに行ったんだ。その後……。
記憶が飛んでる。
わたしは死んだんだって思ってた。
それで転生したんだって。
だけど、なんで?
現実世界は一ヶ月前までは確実に記憶がある。今だって、たぶんどこかに遊びに行くところだったのだろう。今日は日曜日、だ。
駅で倒れた、って。
という事は明日は普通に会社に行かなくちゃいけないんじゃない?
そんなの。どうしよう。お父さん、お母さん、サーラ様、クロコだって待ってるはず。あの世界に帰らなきゃ。
それに。
あきさんは、どうなったんだろう?
まさか、あきさんもこの世界にきてるんだろうか?
☆
結局わたしは翌日は普通に会社に出勤した。
あれから色々試してみたけどわたしは普通の人間に戻っていた。
と、いうか、もとの水森亜里沙に戻っていたって言った方が正解。
魔法は使えないし魔法少女になることも出来ない。
魔王のキオクも無いし、クロコも、居ない。繋がってもいない。
ナナコが居なければ、ほんと夢落ちだとしか思えなかった。
会社に着いて。
ほんと先週の続き、みたく普通に出社して。普通にお仕事した。
ちゃんと仕事内容まで覚えてたから不思議。わたしの中ではもう十五年も経ってるはずで、そこまで経てば忘れてることもいっぱいだろうに。
何故か、思い出せた。
ナナコは面白がってたけど、会社の仕事なんてそんなに面白いものでもない。お客さんからの電話に対応して、発注して伝票を整理して入力して、顧客台帳のメンテナンスをして、報告書を書いて、雑用をして、それで時間になったら終わり。残業とかほとんどないわりと平凡な事務職。一番大変なのがお客さん相手の電話対応だっていうくらい。だ。
ほかの記憶も、徐々に戻ってきた。この一ヶ月、わたしは何事もなく過ごしてきたらしい。ほんとうに何事も、無く、だ。
日曜日は一人でウインドウショッピングするだけの予定で、誰かと待ち合わせてとかも無かったので、迷惑かけたりしてはいなかった、と、安心した。
日記にも特に変わったことは書いて無かったから。っていうか何もなさ過ぎで、こんな人生だったかと逆に辛くなった。
彼氏も居ない、夢中になってる趣味も今は無い。予定も特に、無い、の、ナイナイ尽くし、だ。
……寂しい人生だねー。
だよねぇ。あっちの世界の方が楽しかった、かも。
……うーん。それはそれでどうかともおもうけど。ね。
うん。情けないなぁ。ほんと、情けない。
もうちょっと自分の人生を有意義に生きなくちゃ。自分で自分が嫌いになりそう。
……あたしは好きだよ。アリシア。
あはは。ありがとう。ナナコ。慰めてくれて。
……。。。
わたしも好きだよ。ナナコ。
なんだかほんわかとした温かい気持ちが、わたしの心を満たしてくれた。
に、しても。
これ、は、どういう事なんだろう?
ナナコが居る事を考えるとあれは夢では無いらしい、し、かといって現実だったと断定も出来ない。自信が無い、のだ。
あの世界の記憶。出来事。魔王のこと、ナナコのこと。全部が本当にあった出来事だったのか、それを断定出来るだけのの自信がわたしには持てなかった。
……探そう。
……藤井瑠璃を、探すの。この世界の何処かにいる筈。
え? 瑠璃ちゃん、を? 生きてるって事?




