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東京上空。

 ふん。ふふふん♪


 ……なんだかすごく機嫌がよさそうね。


 そ。だって今日はあたらしいおうちみにいくんだもん。


 ……あはは。単純ね。アリシアは。


 だって、嬉しいじゃない。あたらしいおうちって。




 今日はお休み。

 両親も揃ってお休みを取ったので、みんなで新しいおうち見に行くってことになった。

 いろいろ候補がある中から選んだって言ってたけど、まぁ。職場から近くて便利な場所を商業ギルドから斡旋してもらったって話だ。

 別におうちを見て決める、とかじゃなくて、もう決まったおうちを見に行くの。

 それでもって住むのに必要なあれこれ揃えてお引越し。っていってもわたしにしても両親にしても着の身着のまま被災したお陰で引越し荷物とかはそんなに無いんだけどね。


 公園の角をまがって三軒目。煉瓦造りの建物の三階。そこがあたらしいおうちになるらしい。

 階段を上がる。うん。しっかりした階段。三階はちょっと大変だけど、しょうがないなあ。

 入口ドアは……、うん。綺麗。開けるとこじんまりした玄関。靴を脱いであがる。お部屋はだいたい六畳間くらいのが三つ。真ん中にけっこう広めのリビングダイニング。ベランダも、ああ、開放感があって広いな。


 全体的に白が基調な壁。壁紙とかは無くさらっとした白の壁が多い。前のおうちもそうだったし、質素だけど綺麗。うん。いい感じです。


 あっちはわたしのお部屋、こっちはお父さんお母さん。ベッドがいるよね。お布団はふかふかのがいいな。カーテンはかわいいのがいいな。


 ……たのしい、ね。


 そうでしょう? たのしーよねー。

 うん。ナナコも楽しんでくれてるみたいでよかった。


 お昼ご飯を一緒に食べて。両親はいろいろ買い出しにでかけた。

 わたしはあらかじめかってあった布や道具を使って身の回りを少し整える。

 窓辺に小さい籠ラックを取り付けたり。クロコの寝床を作ったり。

 クロコも喜んでいろいろクンクン見て回ってた。


 そういえば。

 あのあとあきさんちょっと変だった、よね?


 ……おはなしの人っていうのが気に入らなかったのかな?


 え? わたし、あきさんがおはなしの人って言ったんじゃなくて、おはなしにも出てきたんだよって、そういう意味で話したんだけど。


 ……あきの世界があって、そこを作者が感じてお話を書いた、のか、おはなしが出来てあきの世界が出来たのか。自分のアイデンティティを否定されてもおかしくない爆弾発言だったとおもわれます、よ? アリシア、サン?


 あううあ。それ、ちょっと、困る。


 ああ、そっか。

 おはなしは、確かに、嘘、だ。ほんとう、ではない。

 そんなことはわかってる。

 この世界が嘘だったらどうしようって、わたしだって悩んだじゃないか。それなのにあんな無責任な事言っちゃった、って、いう、こと?


 ふにゃぁ。


 ごめんあきさん。たぶん、謝ってもあやまりきれない、よね……。



 ああ、自己嫌悪……。



 ☆


 とりあえず今日のところは寮に戻ることになって、わたしはとぼとぼと歩いていた。

 晩御飯は両親といっしょに食べたのに……。うう。味を覚えてない。


 ……ご両親、ずっと心配してたわよ。


 うう、だって……。


 ……うだうだ悩まないの! 言っちゃった言葉は口の中には戻らないの。大丈夫よ。あの人達、そんなに精神やわじゃ、ない、からさ。


 そっかな。すん……。




 ……ちょっと止まって。アリシア。 前方に誰か、いる。


 もう暗くなった夜道の、ちょっと前方に、人影。


 誰、か、な。


 ちょっと不気味。

 また真皇真理教の人だったら、いやだなぁ。

 そう思いつつ立ち止まると、前方の人影はぬっとこちらに近づいてきた。

 物々しい鎧、兜はつけてないから顔はわかる、けど。


 え?


「ラインハルト、さま? どうかなさったの、ですか?」


 ラインハルトさま、だった。表情は、キツイ。

 この人、サーラの事呼び捨てだし、普通の護衛騎士さまとはちょっと違うのかなぁとかおもってたけど、あまり興味がなかったのでそれ以上事情とか聞いたことなかった、けど。

 う、怖い顔して睨んでる。やだ……。


「お前、は、ジャマ、だ」


 え? なに……、それ……。


「この世界から、キエル、ト、イイ」


 ……終末プログラムに憑かれたね、こいつ。


 どうしよう、このひと、すごく強いのに……。


 ラインハルトさまが真っ赤なオーラに包まれる。影が、龍のように、も、見える、か。

 膨れ上がったオーラとともに、上空に浮かび上がると、こちらに剣を向け。


「タタカエ、マオウ、オマエヲ、タオス」


 ああ、もう。しょうがない。


 マジカルレイヤー!


 わたしは自分のインナースペースを解放し、魔法少女のレイヤーに切り替える。

 真っ白な光に包まれて、剣と盾を持った姿。額には日輪の輝きがキラリ。


「ラインハルト様! バグなんかに飲まれないで!」


 大声で叫んだ。


 ☆☆☆


 二つの光の奔流が夜空に浮かぶ。

 光の剣が交差し、まばゆい光が降り注ぐその姿は、街中で大騒ぎになった。

 そして、そこに、もう一つの光が交わろうとしていた。


 ☆☆☆


 グググ、ギギガ……


 ラインハルト様、もう完全に正気失くしてる。


 どうしよう。

 剣を受けるだけでは、もう、どうしようもない。

 周りのエネルギー値がどんどん上がって行くのがわかる。このままじゃこの空間が維持出来ない。


 ここで空間が弾けたら……。


 ……この間の爆発どころじゃないかな。


 うん。城下丸ごと消えちゃう。どうしよう……。




「ほんと、危なっかしいな。アリシアは」


「あき、さん!」


 あきさんがわたしとラインハルト様の間に割り込んだ。


 ニケあきさん。うん。かっこいい、な。


「どうしよう」


「もうこのエネルギー値だと狭間の世界にディメンション変移するのも危険、か。変移したとたん、弾けて終わる」


 うきゅう。

 もう、かなり危険になってる。のか。

 ほんとふにゃぁ、だ。


「道を、開けるしか、ない、か」


 道?


「お前、ダンバインって知ってる?」


「あ、知ってる。アニメの?」


「あれで東京上空って話があっただろ?」


「ガラリアとショウザマだっけ? オーラロード通っての東京上空?」


 しっかりは覚えてない。だけど、なんとなくはイメージしてる。


「あんな感じでこの空間に道を作ってエネルギーを逃すしかない、か」


 え? そんなこと……。


 できるの? って思う間も無く、ニケあきさんはラインハルト様の身体を貫く。


 わたしは思わず目を背けて。


 ごめん。あきさん。ラインハルト様。

 わたしは、卑怯、だ。

 この世界における責任も、人の命も、自分の手を汚す覚悟もない。ああ。ダメ。


「ごめん。あきさん……」


「気にするな。お前は、いいんだよ。それで……」


 あきさんがわたしを守るように抱きしめる。

 ラインハルト様だった物は、真っ赤に膨らみ。

 あきさんは片手に持った三又の槍を空に掲げ、たぶん、空間に小さな穴を開けた。




 そして、光の奔流が、わたしたちの周りの空間が、物凄い勢いでその穴に吸い込まれる。




 わたしはそこで意識を失った。

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