転生少女の怒り。魔王vs魔法少女。
あいつ……。
あいつだけは、許せない!
わたしの中で、今まで感じたことのない程の感情が湧き上がる。
この世界に生きてきたキオク、大切だったもの、危うく無くしちゃうところだった。
大切なこの世界、それを、よりによってわたしのこの手で消してしまうところだった。
それに、ナナコ、どこにいったのかわからない、ナナコ。わたしの大切な、ナナコ。
みんなあいつのせい!!
「離れてて、瑠璃」
自分の周りの膜が膨らむ。わたしのパーソナルスペースが拡大していく。
心の奥にあった、異物が、また、熱く、あつく、なっていく。
「我が名はガレシア、ほら、貴女も名前がわかったほうが憎みやすいでしょう」
ガレシア、そうか、ガレシア。
両手を広げ、近づいてくるガレシア。
目の前が真っ赤になる。
自分の中から溢れてくる感情の、制御が出来なくなった。
☆☆☆
ダメ、アリシア、
のまれちゃ、感情を増幅しちゃ、だめ!!
聴こえてないな
これって、あいつの狙いそのもの? だよね。
そう。悪意や恐怖、そして、今は憎悪。こういったものを増幅させて魔王を操る。終末プログラムのやつのいつものやり方。
アリシアには、そういった悪い心、ほんと、無かったから。今まで大丈夫だった、のに。
魔王アリシアから光の、エネルギーの塊が放たれ、ガレシアに当たる。
ガレシアは大きく燃え上がりそして。
「か、は、は、は! これで、いい。これこそが、魔王。完成した!」
炎は大きくなり、人型を完全に飲み込む。その焔は悪魔の顔に見えた。
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さーて。第2弾ってか。まぁ、しゃーねーな。
ガレシアを包んだ焔はだんだんと小さくなり、そして、消えた。
あきの周りに光が走り、そして、以前のかわいい魔法少女とは違う、精悍な様相に変わる。
光の羽、光の鎧。両手には槍を持つ。
ニケ? みたい。
あー。ナナコってニケがわかるのか?
あ、うん。なんとなく。
こっちの方が戦闘力が上がるのさ。ベースは俺、ね。
とにかくあれ、を、なんとかしないとな。
魔王の目があきを捉える。
憎悪に燃えているままのその目を見据え、あきから仕掛けた。
両手の槍を交差させ、光の鞭を生み出す。
一瞬、魔王を捉えたかに見えたそれ、は、魔王に巻きつくや否や、消滅した。
魔王から光の塊が飛んでくる。
これは、まずいな。
このまま避けることは容易いが、と、一瞬躊躇し、そして切り替える。
前方に位相の壁を作り、光を上方に弾く。
見境が無くなってるか
魔王から放たれるエネルギーの奔流は、当たればこの辺り一帯を消し去るだろう。このままでは。
マギカ ディメンション!
中庭を隔離!
魔王とあき二人を狭間の世界に移行する。
ここなら!
あきのエネルギー波が魔王を包む。
ダメージ、あるのか?
そう叫び斬りかかる。
魔王は両手の先から光のヤイバを伸ばし、交差した。
ジリジリ!
うそ、だろ?
魔王のヤイバは空間の組成そのものを切り裂いた。
一瞬、外の世界が垣間見える。サーラの目が此方を見ているのが判る。
ねぇ。あたしに身体、貸してくれない?
ナナコ?
このままのあんたには任せておけない。アリシアは、わたしが守るの!
身体が破裂するように、痛む。
あきと悠は、ナナコの上書きを拒むのをやめた。
☆
あきの身体がナナコによって強制的に上書きされていく。
羽は、白く、天使の羽に。
真っ白なキトン。ヨロイの胸当て。
そして、栗毛のソバージュに幼さの残る顔。
……あたしなら、あの魔石のプログラムを止めることができるかもしれない。
……もともと、あれ、は、あたしと世界を繋ぐもの。あたしならあれを上書きできる、筈!
任せるよ。もう。アリシア倒してもこの惨状は終わりそうにないしな。
……ありが、とう。あき。
ナナコは身体のコントロールを奪うと、そのまま両手を翳した。
両手の掌にフィールドを形成すると、そのまま魔王の胸に突き出す。
魔王の表面、50センチほどでぶつかって止まる。
そこ、が、魔王との境界だった。
二人の周囲がエネルギーの渦の中心になり、周りから隔離される。
「瑠……璃……。る……り……?」
アリシアの声。掠れているけれど、確かに、そう、聞こえた。
ナナコが少しずつアリシアの境界を侵食しはじめた。
もう少し、もう少し、で、届く!
そう、全身の気力を振り絞り、手を伸ばす。
「ああ、瑠璃、ちゃん」
声が聞こえる。そう。間違いない!
☆☆☆
わたしの目の前に、瑠璃ちゃんが、いた。
今のサーラの姿じゃない。
昔の、前世の、高校生の瑠璃。
綺麗な、可愛い瑠璃。
ああ。
わたしがはじめて瑠璃を見たのは、中学に上がったばかりの頃。
入学祝いに買ってもらった小さいデジカメを持って校庭で部活の風景を撮っていた時。
バレー部のコートで球拾いをしている同級生。それが瑠璃、だった。
まだクラスのみんなの顔と名前が一致しなかったわたしは、瑠璃がクラスメイトだとも気がつかず、ひたすらそのがんばる姿を被写体にして。
ぽーん、とボールがわたしの足元まで飛んできた時、
「ねー。ボール取ってくれない?」
と。瑠璃。
うー。拾って投げてあげてもいいけどどこに飛んでいくかわかんないよおとか思いながらそれでも。
ひょっとしゃがんでボールを掴むと、えいやっとなんとか投げて。
「ありがとー」
そう、笑顔で手を振る瑠璃は、キラキラしていた。
その後。特に特別仲良くなることはなかったんだけれど。
いつしか、家庭で何かあったのか、荒んでいく様子が見えて。
その日はわたしは音楽のテストの前に放課後一人で歌の練習をしていた。
歌うのは好きだったのだけど、極度のあがり症でどうしても人前で上手く歌えなくて。
あ、ごめん、じゃましちゃった?
と。
彼女は現れた。
あは、ごめん。うるさかった?
と、わたしは返し。
なんだか恥ずかしくて。
でも。
ねえ。良かったら一緒に帰らない?
そう、きりだしていた。
瑠璃と、友達に、なりたかった。




