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転生少女、中庭のたたかい。

 わたしが感じていた違和感が全て解決したわけではなさそう、だけど、とりあえず今の自分に対する違和感の正体はわかった。

 と、すると、だ。

 わたしは日本人で水森亜里沙。

 うん。この名前はしっくりくる。

 わたしだって言われれば、すごく納得できる。

 で、この子のアリシアに転生した、と。

 失った記憶はこのアリシアとしての人生、なのだろう。

 亜里沙としての記憶は確かに曖昧で無いようなものなんだけど、亜里沙として生きたという感覚は残ってる。

 アリシアとしての記憶、これは、人生としての感覚のキオクまでもが失われている。ということみたい。


 うん。悔しいな。


 わたしとアリシアが別人だという説は無いのかもしれない。アリシアが亜里沙の記憶を持ったまま生まれ生活してきたという事は、この世界に、両親、知人すべてとの関わりの中で育んできた記しなのだから。

 それをわたしだけが忘れてしまっているという事実が、悔しい。

 母さんの記憶が無いのが、悔しい、のだ。




 お昼休み、厨房の賄いをいただくリーザと別れ、わたしは中庭でお弁当を食べる事にした。


 母さんがよういしてくれたお弁当。おにぎりが二個、おかずもちゃんとある。

 卵焼きにインゲンのお浸し、菜っ葉の炒め物。

 そんな豪華なものでは無いのだけど、嬉しい。

 中庭への扉を開け、小道を進む。ここの中庭には以前よく来ていたって、リーザから聞いて、今日はここでお弁当を食べようっておもったのだけど。

 この中庭、大学の頃よくお弁当を食べていた場所に、似てるな。わたしのお気に入り、だった場所。

 立ち入った瞬間、そんなイメージが頭の中に浮かんだ。

 そっか。アリシアも、そうだったのかも。


 そう、なんだかそれまで感じていたアリシアという別人、という、感覚、が、少し解消されたような、そんな気がした。




 中庭の小道を進むと最初のベンチには男の人が座っていた。

 背の高いすらっとした人。


 っていうか日本人?


 華奢で、綺麗な顔で。

 ジャケットにジーンズ、すごくラフな格好だ。

 足元には黒猫。かわいいな。


 なんだかこちらを見てる気がする、のですが……。


 こういう場合、あまり関わりに合わない方が吉、だと、もうちょっと奥に行けばお弁当食べれるスペースがあるはずとの予感もするし、そのままこの人はスルーする事に。


 でも……。こっちを見てる人と目があった場合は……。

 やっぱり軽く会釈して通り過ぎることにする。

 小道を少し進んだ時。


 あ、


 なんかデジャブ。


 空間が揺れたような。


 手元に、虫? カブトムシみたいなの、が、寄ってきて、わたしに手の平の上、に、留まった。


 ……この世界は、要らない。


 ……この世界、を、デリート、シマス。


 頭の中に、そう、声が響く。


 あ、ダメ。自我が、保てない……。


 目の前がクラクラ揺れる。


 体の周りが凄く熱を持つのがわかる。


 エネルギーの膜、が、全身を包み。


 そのまま、わたしの身体はふわっと浮き上がった。


 ☆☆☆


 ちっ。


 やっぱり魔王じゃないか。


 アリシアは魔王だけど、でも、あれは、違うの。


 どう違うっていうんだよ。


 まあいい。行くぞ!


 《マジカルレイヤー!》


 お前も来い、ナナコ。


 しょうがない、か。


 秋と悠、そしてナナコの存在値が重なり合わさる。


 そこにはアップデートされた魔法少女あきにゃーの姿があった。




 あきにゃーって、ふざけた名前ね。


 そう言うなって。まだ幼稚園の時だったんだ。この名前できたのは。


 そっかあきさん。幼稚園の頃から魔法少女してたんだ。


 く、いいだろそんな事!


 っていうかあきさんって、女の子、だったの?


 そ、そ、びっくりでしょ?


 あーもう、そんな事はいま関係ないだろ? 目の前の魔王をなんとかしなけりゃ、この世界が消えちまうぞ。


 あ、手荒な真似はやめてね。あれは魔王だけどアリシアなの。


 だから、魔王がアリシアなんだろうが。


 ちがうわ。アリシアは魔王だけど、だけどこの世界をデリートしようとしてるのは別なのよ。別のプログラムがいるの。


 どういう事、だ?


 見えるよね。あの子の真ん中に、魔石があるの。あれがアリシアを暴走させてる。


 ああ、あれは……。レイヤー乗算されてる。取り除くとか、難しいぞ。


 っていうか、こないだの爆発、あれのせい?


 そうだとおもう。あいつらの所為で……。


 よし。わかった。とにかくあれをあの子から取り除く方向で。




 あきにゃーの両手から光の矢が飛ぶ。

 魔王アリシアはそれを簡単に弾き、そして同じように光の矢を飛ばしてくる。

 互いの位置を高速で入れ替え、複数の光がお互いを交差し、弾き、反撃。一見一進一退に見えるも、魔王の仕草は緩慢で、それは攻撃を反射しているだけの様にも見える。


 うん。これは、ちょっとまずいか。


 中庭で異常があった事はすぐ館中に理解されて、騎士団が到着する、も、あきにゃーと魔王の対決に割って入る余裕がなかった。

 しばらく、膠着状態が続き、そして……。


 クロコがアリシアに向かって飛びついた。

 アリシアの魔力の壁を懸命にかいくぐるクロコ。

 焼ける匂い。苦しいだろうに。クロコ……。


 ああ、クロコ……。


 ごめんねこんなになって……。


 ☆☆☆


 わたしはクロコを抱きしめた。

 焔の膜からクロコを守る。

 そして。クロコがわたしの、中、に、潜る。


 ああ、クロコはわたし。わたしの一部、だったよね。




 わたしの中に、異物、があった。

 そしてそれはわたしのキオクを包んで見えなくしていた。

 でも。

 クロコが持ってきてくれた。残りのわたし。

 うん。残りのキオク。

 クロコの力を借りて、異物を制御する。





 わたしはわたしの中のキオクを解放、した。



 ☆☆☆



 アリシアの周りの光が七色になる。

 アリシアの、意識が戻った?

 でもまだあの魔石はそのままだ。


 うん。でも。


 暴走は、治った、かな。



 俺はレイヤーを解除して秋の姿に戻る。

 いつのまにか隣には公主サーラの姿があった。


「ありがとうございます。秋様」


 サーラはそれだけ言うと、七色の光に包まれたアリシアに向かって走り出した。


「亜里沙ちゃん、亜里沙ちゃん、亜里沙ちゃん!」


 サーラはそのままアリシアに抱きついた。周りの目も気にせずに。




「瑠璃ちゃん!」


「ああ、亜里沙ちゃん。良かった。良かった。戻ったのね。良かった……」


 わたしに抱きついて泣く瑠璃ちゃんの頭を撫でて。


「ごめんね。心配かけた、よね」


「いいの。亜里沙ちゃんが戻ってきてくれたのなら、いいの……」


 ああ、どうしよう。ちょっとこの衆人環視の中でこれは……。まずくない?


「いいの、そんなの。わたしの一番は亜里沙ちゃんだもん。だからいいの」


 って、もう、大げさなんだから。まるでそれじゃぁ愛の告白みたいじゃない。


「そう、だもん。わたしは亜里沙ちゃんが好き。昔も、今も」


 あうあう……。うー。どうしよう。


 うっく、ひっく、そう泣きながら抱きついて離れない瑠璃ちゃんのサーラ様。

 いいかげん空気を読んだか騎士団は引き揚げていた。


 に、しても。


 ナナコは、どこに?


 あそこにいるのはあきさんか。っていうかさっきわたしあきさんと戦ってたんだよね。気まずい、な。


「おい。そろそろ話がしたいんだがな」


 そう、あきさん。

 ちょっと呆れてる?


「話って、どういう?」


 まぁ、いろいろあるだろうけど。一応。


「お話は応接室でしましょう」


 カッサンドラ様か。泣き噦る瑠璃ちゃんから冷静な声がする。

 そうだね。ゆっくりこの先の事、話さないといけないかな……。


 そう思って皆で館内に戻ろうとした、その時。


「か、は、は。どうやら失敗した様子ね。でも、まだ、手はあるの、よ」




 空中から、あの、修道女、が、現れた。

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