転生少女、お仕事初め?
夢を、見ていた。
一瞬、起きた時には夢と現実の狭間が理解できず。
ここのところの出来事がすべて夢だったのでは無いか。
そんな希望は、叶えられなかった。
結局夕べはお母さんと一緒のベットで寝た。
なんだかすごくくすぐったいような恥ずかしいような、そんな気持ちが湧いてきて。
ああ、これはこのアリシアの心なのかな。そう、感じてた。
すごく甘えたい気持ち。でも、恥ずかしい、そんな背反する感情。この人は、本当に“わたし”のお母さんなのだな。そう信じられた。
わたしが起き出した時にはもうお母さんは起きていて、朝ごはんを運んできてくれた。
「アリシア、朝よ。今日はお仕事に行くんでしょう? 支度して朝ごはん食べましょう」
ベッドの脇の小さいテーブルに朝ごはんを置いて、お母さんはわたしに着替えと歯ブラシとタオルを寄越す。
「洗面は共同だから、廊下に出て右に行った端ね」
もぞもぞっと着替え、
「おはよう、ありがとうお母さん」
それだけ言うとタオルと歯ブラシを持って廊下小走りに出て、洗面所に向かった。
☆
大門をくぐるとリーザが待ってくれてた。
嬉しい。
「おはようございます」
「おはようアリシアちゃん」
こちらを見る目が測ってるように見えるのは、気のせいじゃないだろう。
リーザは手を伸ばしわたしの手を掴むと、
「こっちね。広いと迷うから」
手を繋いであるく。ちょっと恥ずかしいけどまだ子供だから、いいのか?
っていうか記憶をなくす前のわたしは少なくとも子供、では、なかったはず。
うん。思い出せないけど感覚的に、そう思う。
更衣室のロッカーにはアリシアってちゃんと書いてあった。
日本語、カタカナ、で。
あはは。もう笑うしかない。
難しいことは考えても無駄だと思うけど、この世界はやっぱり何かの箱庭なのか? VR? 仮想現実? そんな可能性も拭いきれない。
周りの人が皆NPCとも思えないし、プレイヤー?でも、違うな。
すごくにんげんくさい。当たり前に生きてる、ふつうの人間。作り物だと思うのは、うがちすぎ、か?
制服は黒のシックなメイド服だった。
ふーん。お仕事ってメイドさんだったのかな。
「アリシアはとりあえずわたしの後をついてきて。順番に説明していくよ」
お掃除洗濯厨房のお手伝い。それがここでの仕事だった。
どれもとっても面白い。
ルンバみたいなのに三本の可愛い足が生えてるお掃除ロボットトロ。
上面に目みたいのがついてるんだけど、それがコロコロ動いて可愛いの。
壁も歩けるんだって。すごいなぁ。
魔法で起動っていうからやってみた。簡単に起動したからいいのかなこれで。
「よしトロ。がんばっておいで」
わたしは抱えてたトロをお掃除する予定の部屋に放り込む。
終わったら隣の部屋に順番に移動って追加指示も出しておいたから、午前中は安心だ。
これで次は厨房かな。
魔道具を使ってお仕事するって面白い。
なんか三つ四つ同時起動で同時に操るくらいはできそうだから、すごく効率よくお仕事できそう。
「なんかアリシア、記憶ないなんておもえないほど手際いいけど」
「あは、そう?」
「うー。前よりいいくらい?」
良いならいいか。って、わたしたちは笑いながら厨房に向かった。
厨房で皮むきや下拵えを魔道具を駆使して同時進行して見せたら驚かれた。
っていうか魔道具にもどうやら色々あるらしい。
家電のように誰でも使える仕様のもあれば、扱うのに魔力や操作力がそれなりに必要なものも。
厨房にある魔道具は、普段料理人さん達が自身の魔力と経験と熟練した技でコントロールする系の魔道具であって、素人には使えない、のだと。
あっさり扱ってみせると、驚愕と賞賛の嵐で。料理長にはなんで今まで隠してたんだと逆に怒られ、そして弟子にならないかとスカウトされる始末。
この世界であっても一定の魔力以上を常に使用できる人材はそれほど多くはなく、貴重な才能なのだ、と。
スカウトは……。ちょっと考えさせてくださいと時間を稼ぐ事にした。
まだ、この子の意思がわからない状態で返事が出来る事じゃない。
この世界にこのままわたしが止まるのかどうかさえ、はっきりしない、のに。
リーザにも驚かれたけど……。まぁこっちは頭でも打ったから魔力増えた? みたいな感じで受け取ってるっぽい。チートが出来て良かったね見たいなことをさらっと冗談ぽく言われたけど、あれ? なんだか、おかしい?
ぽかんとしてるわたしに、
「ああ、やっぱり。自分が転生者だったって事も、忘れちゃった?」
と、リーザ。
え?
え?
その話詳しく!!
「え? どう言う事?」
「うーん。記憶戻るきっかけになればいいか。わたしが知ってる事話しても」
「うんうん。お願い教えて」
「あのね。アリシアは生まれる前、前世は日本人で水森亜里沙って名前の女性だったんだって。何してた人かまでは詳しくまだ聞いて無かったけど……」
「それ、日本って、この世界では知られてる、の?」
「え、くいつくの、そこ?」
「で、日本って……」
「知ってるも何も、わたしも日本人だったし。前世」
「え?」
「うーっ、この世界はね、異世界転生とか異世界転移とかわりと頻繁にあるみたいでね。この世界の食生活にも影響与えてるくらい。文化だって、かなり持ち込まれてるんだよ」
「あああ、それで……」
「この間だって異世界転移してきた人とお茶したばっかりだし」
なんだかすごいな。だからこの世界、普通に異世界って感じじゃないのか。
「だけど、アリシア? 貴女、日本人だったって記憶はあるって事?」
「えと、うん。日本の事はわりかし覚えてるっぽいの。自分の事の記憶はまだ戻らないんだけど……」
「そっか。良かった。それならそこから記憶戻る手掛かりになるかもだよね」
リーザは笑顔になった。うん。この子の心、綺麗だな。ほんと、かわいい。
にしても。記憶が戻る手掛かり、か。
うん。だと、いいなぁ。




