転生少女、の、やり直し。
「アリシアちゃん!」
「アリシア!」
栗色の巻き毛が可愛い女の子、と、鏡で見たわたしにそっくりな大人の女の人。
アリシアって名前なんだ。この子の名前。そんな思いと、アリシアって名前に何故かしっくりくる自分がいた。
栗毛の子がすっ飛んできて抱きつかれた。
「もう。攫われたって聞いた時はほんとどうしようって思ったよ……。もしかしてわたしのせい? とか考えちゃったし。ほんと無事で良かった」
抱きついて、泣きながらそう喋る女の子を見て。わたし、なんでこんなに心が動かないんだろう……。そんな風に思っていた。
「アリシア……。無事で良かった。待ち合わせの場所に来ないから心配して公主館まで訪ねたの。でも……」
女の人も泣いている。
たぶん。彼女はこの子のお母さんかも。ほんとそっくりの美人、だ。
「ごめんなさい。そして、ありがとうございます。……でも、わたし、記憶が、無くって……。わからないんです何もかも……」
心苦しいけど、とにかくこれだけは伝えなくちゃ。そう思い。
二人は、呆然と立ち尽くした。
☆
街が落ち着いたのか避難所からは人が居なくなり、只一人残ったわたしを見かねたボランティアの人が警備の人に相談したらしい。
それで、捜索願が出されてたらしいわたしを迎えに来た二人を前に、記憶喪失であることを伝えた、のだけど。
取り敢えず病院に連れていかれる事になった。
巻き毛の子、リーザは仕事があるからと戻って行った。職場の同僚、なのだと。っていうかこの世界はローティーンに働かせるのか?
わたしより幼く見えるリーザ。中学生にしか見えないのに。
まぁ、でも、という事はわたしも働かなきゃ、なのかな。
ってっきり剣と魔法の世界で待ってるのは冒険者、とか、そんななのだと思ってた。
魔法だって使えるし。
あれから夜中にこっそり魔法の練習をした。
ファイア、アイス、ウインド、ランス、こんなありきたりの呪文でそれなりの魔法が出た。
全力で撃てばけっこうな威力が出そう、だ。
魔物とかいるのかな? でも、魔物殺さなきゃ、とか、なんか嫌だな。
そもそもゲームだって、ハンター系のゲームは苦手だったし、経験値上げの為に魔物倒すのでさえ嫌だったってそういう記憶は浮かんでくるくらい。
わたし、冒険者、とか、無理……。
そんな風に思ってたから、普通の仕事があるっていうのは逆に良いこと? かもね。
うん。戦う、とか、チート、とか、そういうの、ダメ。なんだか、ダメだ。性に合わない、みたい。
☆
お母さんに付き添われて病院に行くと、先生は、
特に異常は見当たりません。記憶の喪失も一時的なものかも知れませんから、様子をみてください。
そう言うだけで。
お母さんは心配そうに何度も声をかけてくれていたけどあんまり頭に入って来なかった。
というか、この世界はおかしい。
違和感だらけ、だ。
異世界だから、では無い。
異世界だから、こそ、おかしい、と感じているのだ。
何がおかしいっていってもそう、想定内に収まりすぎている。っていう所だ。
異世界なら異世界らしく、もう少しわたしをびっくりさせるようなそんな目新しい事実があってもいいんじゃないだろうか。
衣食住にしても、何故か現代日本で知られているようなものしか無い。
まるでこの世界を創世した神様が居るとしたら、その神様は日本人か?って思うような。そんな感じ。
箱庭に創られた小さな世界。そんなイメージが拭えない。
病院からの帰り道。
「ねえ、どうするアリシア。もう少し落ち着くまでお仕事はお休みしてもいいのよ。私とお父さんの住んでる騎士様のお宅は手狭だから、そろそろ新しいおうちに移ろうかとも思ってるの。そこで一緒に暮らそうか」
元々のお家は前回の災害でなくなっちゃったらしい。新しいおうちかぁ。それもいいかなぁ。
「取り敢えず身体は何ともなかったんだし、わたし、働きます。わからないことはリーザさんが教えてくれるって言ってましたし」
「そう? 大丈夫かしら。でも、リーザさん頼りになりそうだし。いいのかも? どちらにしてもお家は早く決めて迎えに行くわね。いつまでも寮で一人暮らしもさせておけないわ」
心配なのかな。お母さん……。ごめんね……。




