転生少女、の、喪失。
ふ、と、気がつくと。
わたしは柔らかい布の上に寝かされていた。
ここは……、どこ……?
どうやら倒れたのだと思うのだけど、どうして倒れたのか覚えがない。
なんか体育館みたいだな。それが第一印象。
ただただだだっ広い場所、板張りだ。ベッドとかそういうものじゃない、か。
周りには人が数人居るけど、なんだか服装が不思議。現代日本ではあり得ない感じ。どちらかといったら中世のヨーロッパ、か?
「あ、気がついた? あなた、倒れている所発見されたのよ。大丈夫?」
流暢な日本語を話す外人の女性。
って、ちょっと不思議。
わたしは……。
「また大きな爆発があったものね。あなたも巻き込まれたのね。外傷は無かったみたいだからここに運ばれたんだけど……。最近ほんと災害が多くて困っちゃうわよね。ここ中央公民体育館よ。避難所。わかる?」
え、と、頭の中、整理、しなくちゃ、だ。
声はちゃんと聞こえてる。お礼も言わなくちゃ、なのかな? っていうかわたしどうしちゃった?
「ありがとう、ございます」
口からなんとかそれだけ絞り出した。
って、わたしの声って、こんな声だっけ?
起き上がるり、ハラリ、と目の前におちる髪。
金髪、ブロンド、だ。
どういうこと?
っていうか状況をちゃんと把握……、って……。
わたし、ばかだ。だめ。思い出せない。
自分の名前、も、キオク、も、すっぱり抜け落ちて、る………。
っていうか、身体がなんだか自分の感覚よりも一回り華奢な気もする。これ、が、自分の身体だってのにさえ、なんだか違和感、だ。
どうしよう。
夢?
じゃ、ないよ、ね。
夢の中で別人になってる事ってよくある。
でも、そういう時ってその事に違和感なんて感じてない。
起きた時にも何か夢見てた気がするんだけど……。なんだったのかな。
なんか建物の入り口がわからなくて右往左往してた気もするんだけど……。
ああ、ダメ、だ。
頭がパニックになり過ぎてこれ以上考えられない。
もう一度寝たら、起きた時にはなんとかなってたり……、するといいなぁ。
☆
残念ながら。
起きても状況は解決していなかった。
っていうか常識的な事、とか、そういう記憶がなくなったわけじゃない、と、思う。
世界の記憶がちゃんとあるからこそ今のこの世界の違和感がわかるわけだし。
そう。
あれから周りを見渡すと、何処と無く違和感を感じる。
配られたおにぎりは炊き出しなのか、美味しかった。中に入っている具は魚?シャケ? と、野沢菜? みたいなの二種類。
で、それを配ってくれたのも周りにいる避難民も皆、日本人ではなく欧米人みたいな感じで大柄な人が多かった。
わたし自身も、トイレに行って鏡を見た時驚いた。
金髪碧眼。
軽くパニックになりかけたけど、これは……。
もしかしてもしかすると、これって異世界転生とか異世界転移、憑依?とかいうものだろうか?
わたしはこの世界のこの子、たぶんまだ子供?ローティーン?そんな感じに見えるこの少女に異世界から来て憑依してるのか?
その所為で記憶が飛んだのか?
だとしたら、この少女の心は、何処に?
考えれば考えるほど混乱してくる。
周りの人に、わたしは持ち物とか持ってなかったのか尋ねたけど、わからなかった。少なくともここに連れてこられた時は無かったと。
うん。何か自分の身分証みたいのがあればなあとか思ったけれど、甘かった。
さて。
どうしよう。
せめてわたしのこの身体の持ち主を知ってる人が周りにいればよかったけど。
っていうかこんな異世界に記憶もなく放り出されても、困る、よ。
おはなしだともうちょっといろいろ便利に使える魔法とかがあったり、とか……。
って。
魔法、って、意識したとき。
わたしの右手の掌に魔法陣みたいのが浮かび上がった。
上に向けると、光の玉がぼやんと浮かび上がる。
「あは」
思わず声を漏らす。
「あーおねーちゃんライトの魔法が使えるんだいいなぁ」
隣にいた女の子、10歳くらいのがこっちを見て言う。
「わたしも早くいろんな魔法が使えるようになりたいなぁ」
無邪気にそういう彼女に、わたしも微笑み返した。




