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転生少女、の、たたかい。

 わたしが昔おはなしサイトに投稿した「ゼロ」。

 その時のペンネーム、篠宮亜希には元ネタがあった。

 そのサイトに載ってたお話の、まあ主人公?じゃないけど主人公っぽいヒーロー、の、篠宮秋、さん。

 主人公の友坂悠さん(お話の中の友坂さん)を助ける青年。綺麗な、男性にも女性にも見える、そんな人。

 おはなしはまだ途中だったからその後はよく知らないんだけど……。


 確か、「小説家になろう」ってタイトルのお話。秋さんが出てくるのは2話目だったか。


 そんな秋さんが気に入ったわたしはお話を投稿する際に運営の友坂さん(めんどくさいよね。こっちはおはなし作者の友坂さん)に頼み込んで、篠宮亜希のペンネームを使わさせて貰ったのだった。


 うん。


 あの、あきさんは、あの、おはなしの、秋、さんだ。

 間違いない。

 好きだった人だもん。間違えないよ……。

 世界はいっぱい有るって言ってた。どんどん生まれてるって。

 そっか。

 おはなしはどんどん生まれ、世界もどんどん生まれてるんだね。

 ほんと、それって、なんてステキな事なんだろう。





 ☆


 穴だね……。


 ……穴だね。


 地面にでっかい穴が空いている。進入禁止の黄色いテープがベタベタ貼られてる向こうは、何も無い穴、だった。

 近づくと地滑りするかもな危険な穴。落ちたら上がってこれないよね。


「魔法でも使わないと中には入れそうにないねー。これ以上先に行くのは諦める? アリシアちゃん」


「うん。そうだよねー」


 ……まぁさっきのあきさんとの会話でだいぶ解決した事あるから。これ以上奥に行かなくても良いよね?


 そだねー。


「今日は此処までにしておこっか。なんか疲れたよ……」


「驚く事いっぱいだったもんね。わたしも疲れたー」


「ごめんね今日はほんとありがとね」


「ううん。すっごく楽しかったのはほんとう。アリシアちゃんが日本人だったってのもわかったし、なんかすっごく嬉しいよ」


「うん。わたしもすっごく楽しかった。ありがとねリーザちゃん」


 かわいい笑顔がほころんで溢れる。ほんとかわいいな。リーザちゃん。


「そいえばさっきの秋さんお名前、わたしどっかで見たような気もするんだよねー。どこでだったか思い出せないんだけど」


 え?


「小説の登場人物、とか?」


「ああ、そうかもしれない。ネットで昔読んだのかなぁ? はっきり覚えてないんだけど」


 ああ。


 嬉しいな。リーザは同じ日本かも? 確証は無いけど。


「ああ、でも、わたしが読んだのはネコになっちゃうんだったかな。秋さん」


 え? うきゅ。違う、の?


「なんだっけかなぁ? 魔法少女って感じのタイトルで、なんであんたねこになってるのよーで始まるお話だったかなぁ」


 ほんと不思議。いろんなおはなしが、いろんな世界が、あるんだね……。


 ☆


 リーザとも別れた所で両親との待ち合わせに向かう。


 あと角を二つ曲がれば目的地、とか思ってた所で。


 ……囲まれた。


 もしかしてさっきの?


 ……うん。そうかも。


 どうしよう。わたしだけならいいんだけど。リーザちゃんに何かされてたら困る、な。


 ……ちょっとおとなしくしておく? 様子見で。


 そだね。




 わたしを取り囲んだ冒険者っぽい人達は五人いた。じりじりと近づいて。前の人がいきなりわっとダッシュしてくるのにびっくりして後ずさると、後ろの人に羽交い締めにされた。

 大人しくしろ、そう聞こえたかと思うと、口元に布が当てられ、わたしは意識を失った。


 ☆


 見知らぬ、壁。


 寝かされているのはソファーか? 腕は後ろで縛られてるっぽい。ちょっと痛い。

 右肩を下に横向いた状態、だ。

 目の前には壁。周りには、人の気配は無い、か。


 ……気がついたのねアリシア。


 ナナコ。状況解る?


 ……あたしはアリシアが寝てても外の様子はだいたいわかるからね。目だけが全てじゃ無いからねー。


 すごいね。


 ……馬車で郊外に運ばれた。ちょっと不味いかな。


 何かあった?


 ……リーザちゃんの事、情報がないのよ。


 う、そっかぁ。でも、しょうがないか。どうする?


 ……うん。たぶん親玉が近くに居るはず。会ってみる?


 そだね。やってみる!


「わーーーーーーーーーーー!!!」


「うるさい!」


 バタンと扉が開いて男の人が入ってきた。


「いきなり大声出すなんてどういうつもりだ!」


「あはは、聞き耳でも立ててた?」


「くそ!」


 当たりだ。多分盗聴器。このソファーに仕掛けて聞いてたっぽい。


「会わせて欲しいんだけど」


「何?」


「あんたらの親玉に」


 クソガキが、とか呟いたのが聞こえた。


 舌打ちして部屋を出てく。なんだかチンピラっぽい。こんなやつらの親玉って、一体何者だろう?


 ☆


 暫く待つとカツカツという大きめな足音と共に、一人の恰幅のいい男の人が入ってきた。

 ジロって睨めるように見る目がなんだか気持ちわるい。


 うーん。好きになれないタイプ。この人がボス? あんまり話もしたくないなぁ。


 ……そう言わないの。ここは少しでも情報欲しいんでしょ。


「お前は……違うな。こんな魔力では」


 あぁ。また。もういい加減、嫌になる。


「そうでも、ありませんわ。この子……。面白い、子」


 後ろから、ぬっと大柄の女性が現れた。黒の修道服をゆったりとかぶり、ふわっと近づくと、わたしの頬を触る。


 ゾク!


 なに、気持ち悪い。


 薄皮一枚剥がされたような、ざわっとした気持ち悪さが全身を襲う。


 う、、


 ダメ。。


 と、その時。クロコが何処からともなく現れてその女性に飛びかかった。


 女性の右手が素早く横薙ぎに振られ。


 バシ!!


 え?


 クロコがはたかれた。はたかれ、壁まですっ飛ぶクロコ。辛うじて壁には足から着いて、そのまま壁に貼り付き止まる。


 強い。クロコだって結構強くなってると思ってたのに。


 どうしよう。


 わたしもクロコも、次の一手を攻め倦んだ。





 うう、もうちょっとだけ、もうちょっとだけ、頑張る!


 わたしはこっそり魔法陣を展開して腕の結び目を切る。


 クロコも、ぎゅっとタメから弾丸のように弾けて飛びかかる。


 修道女は扇子の様なものを広げ、ふんわりとクロコ弾丸を躱す。


 反対の壁に貼り付いたクロコは歯をむき出しにしてシャーと威嚇。


 わたしはさっと飛び降りるとソファーの後ろに回り込んだ。


「逃げたぞ! ロープが外れた」


 恰幅のいい男が後ろから声をかけた。




「ねぇ、あんた達。わたしなんか攫ってどうしようっていうの?」


 そう、兎に角まずは情報収集、だ。


 ……最悪逃げればいいって思ったけど、さっきのあの女、あんたの魔法膜剥いだよね。大丈夫?


 気持ち悪かったー。ダメダメ。


 ……気持ち悪い、で、済んだのならまだマシ、か。


 うん。危害加えようと思ったらいつでも出来た、って、そんな気がする。


 ……やばいね。あいつ。


 うん。逃げるのも邪魔されたら困る、し。


「子猫ちゃん。隠れて強がってもダメよ」


 女はかなり余裕だ。悔しい。


「そうねぇ。ひとつだけ教えてあげるわ。あたし達は魔王の器を探してるの。復活した筈の魔王を下ろした器。これ、を、使った誰かをね」


 そういう女。これって……。


 両手をあげ、広げると周囲に魔王像が三体、空中に浮かび上がる。


 ああ、あの女神像の魔王像……。


 三体とも、黒いモヤを纏わり付かせ一回り大きくなったように見える。ふわふわと浮かんでる姿は不気味。


 ……そうか。役目を終えた魔王像は魔力が増えるから。


「この魔力。これこそ魔王に相応しい。それなのに。よりによってこんな魔力無しに降りた、というのか。」


 あ、そっちの男も普通じゃ無いのか。どうやらバレたっぽい?


「そういわない、の。この子、役に立ちそうだよ」


 う。もう限界、かな……。


 ……これ以上は危ない、ね。この二人、魔王像から魔力供給されてすごく強化してるっぽい。アリシアじゃ、勝てない。


 うん。


 逃げよう。


 ちょっとこの人達、怖い。


 わたしは目の前に集中し、転移の窓に手を伸ばす。意識を公主館の自分の部屋に固定。


 ……もう少しその手順が早くなるといいんだけど


 うるさいナナコ。チャチャ入れられると集中できないよ。


 もう。気を取り直して、ぎゅっと自分の部屋の空間を掴む。


 グルン


 空間を裏返す。




 え?


 失敗した。


 わたし、何処にいる? 目の前に修道女、ソファーは?


 きゅーっと広角を広く釣り上げ修道女が笑う。


「か、は、は、は。あなたの転移、見え見えで遅いわ。あたしが入れ替えてあげたわよ」


 ああ……。


 ……まずい!


 女の両手が伸びてきてわたしの顔を掴んだ。


 あー……。


 気持ち悪い、身体中が痙攣する……。


 耳元でクロコがにゃあーにゃーいってるのだけ、わかった。

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