転生少女、と、魔法少女。
教会の裏山の段々のお墓を抜け、細い路地を歩く。ちょっと雰囲気怖いけどたぶんここが一番近道。
……前、誰か居る。
うん、なんだろうね?
前方に人が立っているのが見える。
年の頃は30歳くらいか、商人風なおじさんだ。ほんとごく普通?
じーっとこちらを見てる? ちょっと気持ち悪い。
何なんだろう? でも、一応ここは往来だ。誰でも通れるんだし、立ち止まってるからって排除するわけにもいかない。
横を素通りするしか無いんだけど……、ちょっと不安。
ジロジロ見てくるおじさんに軽く会釈して通り過ぎる。
とりあえずおじさんは何も言わずに通してくれた。顔は、もう、なんとも微妙な表情だ。敵意、とも、違う、かな。
「なんだったんだろうね?」
「うん。変なの?」
……前、もう少し先に今度は二人。
「あ、なんかこの先にもまた居るっぽい」
ナナコとリーザが同時にそう話す。わたしにはまだ見えないしわかんないんだけど、リーザも魔力で感知とか出来るの?
不安げな顔のリーザに今わざわざ聞くことじゃないかとスルーして、前方に注意して歩くと、居た。
今度は二人。それも武装してるっぽい。盗賊? 違うよね。まさか、こんな街中でそんなん居るとも思えない。
ちょっと小汚いおじさん。革の胸当てに大剣をさげてる。仰々しいけど冒険者ってこんなんだっけ?
「おい。お前ら、ちょっとつきあってくれないか」
おじさんの一人が声をかけてきた。ナンパ……じゃぁ無さそう。そんな甘い声じゃぁ無い。
身の危険を感じて二人してちょっと後ずさった。
でも。後ろからさっきのが来たみたい。囲まれた。ちょっとやばい?
前にいるおじさん二人は、どっちだ、とか、こっちじゃないか、とか、こそこそ言ってる。
で、目標をリーザに絞ったっぽい。目が完全にわたしをスルーしてる。
……あれって魔力を測ってるよね。んでアリシアの魔力は少ないから違うって判断したんじゃないかな。
うん。そうだと思う、けど。魔王目当て? どうしようそうだとしたらリーザが危険……。
「話があるんだ。そう時間は取らせない。大人しく着いてくれば手荒なこともしないですむ」
どうしよう。問答無用でというのとは違うっぽい。けど。
「話ならここで聞きます。わたし、誘拐とかしても何も出ませんよ。身寄りだって無いですから」
リーザ……。
ごめん。巻き込んだみたい。
「この先におられる方がお前に話があるらしい。俺たちは連れて来るように言われているだけだ。手荒な事は控えろとは言われているがは拒否するなら無理矢理にでも連れて行く。仕事だからな」
「じゃぁこの子は返してあげて。これからご両親に逢いに行く予定なんです。しばらく離れ離れだったんです」
リーザ……。
「そういうわけにもいかない。金髪の方は魔力が少ないから違うとは思うが、ここで解放して警備所にでも駆け込まれたら面倒だ。一緒に来てもらう」
どうしようか考えあぐねてなるべく黙ってたけど、このままじゃ二人してどっかに連れていかれるっぽい。わたしだけなら最悪どうにでもなるからて思ってたけどリーザを巻き込んで危険な目にあわせるのは嫌だ。
ここはもうしょうがないからちょっと魔法で目くらましして逃げるのが吉、かな……。この人らの親玉にはリーザを逃してから会えばいいかな。
情報は、有ったほうがいいから……。
そんな事考えてたら、周囲がいきなりグルンと切り替わった。
何、これ。
……これ、ハザマ、だ。狭間の世界。
「女の子いじめるわるいおとなは、このあきにゃーが許さないよ!」
驚愕するおじさんたち、目を白黒させてるリーザ。
「マジカルフェザー!」
赤を基調としたフリフリの魔法少女。髪はツインテールでお団子にして……ってほんと日本の魔法少女を纏めて割ったような装いの女の子。
10歳くらいにみえるその子は金色のエフェクトとともにふわっと浮かび上がった。
背中には金色の羽が羽ばたいてる。
「フェザーシュート!」
金色の羽毛が舞い、おじさん達に襲いかかる。
「ク!」
手から火を出して応戦するおじさん達。案外強いのかも。
「マジカルトルネード!」
三つ同時に竜巻がおきおじさん達を包み込む。
「うわー……」
竜巻が収まった時、おじさん達はもうそこには居なかった。消滅しちゃった? 大丈夫、かな、?
ひょこん、とわたしの前に降り立った少女。
「だいじょうぶ、だよ? この狭間の世界では肉体には損傷を与えないから。事情も知らずに殺しちゃうわけにもいかないからまず此処に連れてきたの」
グルン、と、世界が元に戻る。
と、おじさん達はその場で倒れていた。
「今は精神にダメージが来てる状態。まあ二、三時間で起きるかな」
「え、と、助けてくれてありがとう。あきにゃー、さん?」
「いいよいいよ。わたしは通りすがりの魔法少女あきにゃー。ちょっと事情があっていろいろ旅をしてるんだけど、この世界には悪い魔王が居るらしいって聞いてさ。ちょっと退治でもしようかなって」
えーーーーーー? わたし、退治されちゃう、の?
「じゃぁ」
って去ろうとする魔法少女。
いやいや。ここで逃してたまるものか。
……そそ。もっと話し聞かなくっちゃ。なんとしても引き止めるよアリシア。
うん。ナナコ。
「ちょっと待って。助けてくれたお礼に、甘いものでも奢りますよ。そこの喫茶店行きませんか?」
「うー。どうしよう。……お言葉に甘え、よっかな」
ちょっとにこにこしてる。甘いものに釣られてくれたらしい。
じゃぁちょっとこのままじゃ、とかぶつぶつ言いながら彼女、ブーンと境界がぼやけたかと思うと姿が変わった。
「こっちの姿の時は『秋』って呼んでくれ」
と、全く違う、男の子?男の人?っていうか男装の麗人? 身長もすらっと高い。18歳くらいのカッコいい人。
声は女性みたいに聞こえるけど……。雰囲気は男性、だ。
「流石にあの格好じゃ街中歩けないしな」
と、ちょっと恥ずかしそうに言った。
☆
という事で。
リーザと秋さんと三人で、路地を降りたところにあった喫茶店に入った。
テラって名前。地球?お寺?建物の形はお寺っぽいかな。
サイフォンがカウンターに並んでる。美味しいコーヒーが飲めそうだ。
メニューはコーヒーと、あとは軽食が少し。甘いものはチーズケーキとイチゴタルトだけか。
「わたしチーズケーキ」
「わたしも」
「俺はイチゴタルトがいいかな」
コーヒーホットで三つ。セットでデザート。
「あは。秋さん俺っていうんだ。なんか新鮮」
リーザはもうすっかり秋さん、だ。
「あの、あなたはいったい何処から来たんですか? っていうかさっきのって」
ここでなんとしても色々聞いておかなきゃ。この世界救うためにも情報が必要だ。
「ああ、俺はいろんな世界を渡ってる。この世界、最近できたみたいで不安定だからちょっと様子を見に来たんだけど」
え?
「元々は地球ってとこの日本って国が出身地さ」
って、この人異世界転移してきたって事、だよね?
「美味しい」
イチゴタルトをほうばりながら秋さん。顔がニコニコしてる。
あは、そうしてるとやっぱり女の子に見える。ほんと、どっちなんだろう不思議。
「さっきのあきにゃーさんと今の秋さんって、なんか同一人物に見えませんねー」
と、リーザ。
ほんと、わたしもそう思う。
「ああ、さっきは主体が悠の方だったからね」
「さっきのはわたしにあきさんが30パーセントかな。レイヤー乘算ね」
え?
いきなり口調が変わった。
「マジカルレイヤー、っていうの。元はわたしベースにあきさんがかぶってるんだけど、あ、今此処にいる姿はあきさんのみね」
「二人いるって事? それも入れ替わるの?」
瑠璃ちゃんとカッサンドラ様みたいなものかな……?
「あきさんの本体は研究所の中だから。元々のベースはわたしなんだけどね」
と、こっちは悠?
「あ、でも日本ってよく聞きますよね。この世界わりと転生者とか転移者とか話題になるけど半分は日本って国だっていいますよ」
そうなの? っていうかリーザでさえそこまで知ってるのか。日本。
「そんな感じするねー。食事とかもろ日本食だし。最初来た時びっくりだったよー」
「だけどさ、君たちが知ってる日本だって、一つじゃないかもだよ?」
え? え? こっちはあきさんのセリフ。 って、どういう事?
……言っちゃいなよアリシア。あんたも日本からの転生者、だってさ。リーザもこの調子じゃ気にしないよたぶん。
うん。ナナコの言う通りかも。
「あの……。わたしも転生者なんです。それも、日本人でした」
「え? アリシアちゃんも? 実はわたしもなんだよ」
えーーーーー?
なんだかほんとうびっくりだ。なんか、石を投げればもと日本人に当たるような気もしてきたよ。
「まぁ。みんな同郷で喜ぶのは早いかな。ほんと君たちの居た日本だって、別世界の可能性が高いからね」
「世界って、ほんとにいっぱいあるのよ。そう、それも毎日新しい世界が生まれてるの」
え?
「ここだってそうさ。まだ出来てそんなに経ってない筈。これだけ不安定なのも珍しいけど」
って、どういう事ですかー??
もう。ほんとびっくりのしっぱなしだ。
色々聞きたいけど流石にこれ以上はちょっと失礼かなぁ。初対面なのに。
「所で君たち魔王って知ってる?」
と、あきさん。
「魔王は五百年前に封印されたんですよー」
リーザは知らないから……。
「そう? 巷で聞いた噂じゃ、こないだの災害は魔王の復活によるものだってのがもっぱらだよ?」
ああ、やっぱりそういう話になってるんだ。
……ま、あながち間違っちゃいないよね。
うきゅ。
「そっかー。やっぱりこないだのはそういう話なんですねー。アリシアちゃんのおうちなんかすごい被害にあっちゃったんですよ」
「空間がねじ切られてたねー。次元断層が出来てたし」
あうあう。なんか凄いことに。
「あの……、魔王を退治しにきたって、さっき……」
不安になってちょっと聞いてみる。
「ああ。魔王がこの世界をデリートしようとするならほっておけないよね」
ああ。
「でもこの世界には大預言者様のサーラ様がいらっしゃるので大丈夫ですよー」
「公主様?」
「そうです。わたしたち、公主館で働いてるので。ほんと聡明でステキな方なんですよー」
むー。っと考えるあきさん。っていうかあきさんってフルネームなんだろう? ちょっと気になる。
「なら、君たち、俺を公主さまに紹介してくれないか? 話が聞きたい」
ああ、そっか。そうだよね。うん。それならなんとかなりそう、か。いろいろと。
「あきさんってお名前なんて紹介すればいいですかー?」
「篠宮秋。異世界から来た勇者とでも言っといて。ほんと会えればあとはなんとかするから切っ掛けだけでも、ね」
え?
じゃ、じゃ、もしかして、
「あの……、もしかして悠さんって、ともねこさん?」
「うーん、ともさんとかともちゃんとかはよばれた事あるけど、ともねこはないかなぁ」
って、それって。
「日本でお話サイト運営してた友坂さんじゃ」
「えー? 偶然? 私の名字確かに友坂だけど。おはなしサイト?っていうのは知らない、かな」
「たぶん、世界が違うんだよ。俺たちのいた世界とアリシアさんの世界。似てても、違う」
ああ。違う。たぶん。そうじゃない。
「よくわからないけどほんと違う日本なんですかねー。じゃ、公主様には話してみますから、どこに連絡すればいいですかー?」
「ありがとリーザちゃん。わたしたち、トウトって名前の宿屋に泊まってるから、そこに連絡頂戴。あ、名前は『アキ=シノミヤ』でね」




