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転生少女、魔法を練習する。

 それから数日は何事もなく過ぎた。

 わたしも日常業務に戻り、そしてたまに瑠璃ちゃんとお話ししたり。


 あの時の前世の話をちょっとふってみたけど、瑠璃ちゃんは黙り込んで話てはくれなかった。実際何があったのか、は、わからないけど心に傷があるのなら力になりたいとも思うけど……。やっぱり踏み込み過ぎるのはいけない、のかな、悲しそうな顔をする瑠璃ちゃんに、それ以上何も聞けなくなっちゃった。

 でもひとつだけ聞き出せたこと。

 瑠璃ちゃんはやっぱりあのステイのあと直ぐ転生したって言ってる。前世の記憶はあの時点まで、らしい。ほんと時間軸とかはおかしいけど、ここと地球の世界じゃ時間の流れが全く違う、のかな。あっちで10年以上過ごして転生したわたしの方がこちらでは瑠璃ちゃんより前に生まれてる、し。それか転生するまでにはラグがあるってだけ、かな。


 でも、いや、何か引っかかる。違和感。何か、おかしい、な……。


 ☆


 夜になって。


 わたしはある実験をする事にした。

 なんといってもこのままじゃ身の危険を守る術が無いなんていう最悪の状態なのだ。かといって四六時中護衛騎士様に護られるのもキツイ。

 自分の身くらい自分で守れるようにならなくっちゃ。ね。




 この間のゼロ空間に落ちた時、わかったことがある。

 わたし自身は魔力がゼロだけど、クロコには余りまくっている魔力が有るって事。

 それでもって、たとえ外部動力であったとしても、魔力さえあればわたしは大概の事が出来るのでは? という確信、だ。

 ナナコによって魔法術式の存在する領域とその魔法陣の理論のキオクはある程度開発された。わたし自身で検索慣れしてきた結果か、一人でもある程度理解出来るようになってきた。もともと魔力が無い状態で出来る事と言ったらキオクを検索するくらいのことで、一人で居る時にいろいろ漁ってみて。

 そう。いろいろ識るのは楽しい。




 じゃぁ先ずは浮遊から。

 わたしはクロコを抱いたまま魔法陣を両足の下に置く。と。ゆっくりと身体が持ち上がっていく。

 とりあえず50センチくらい上がった。けど、怖い。

 足元が不安定な気がするのと、高いのがいけない。目眩がする。

 ああ、魔法のスペックよりわたしの体と心のスペックの問題か……。

 そのままゆっくりと床まで戻るとしゃがみこんだ。冷や汗に動悸、ダメダメだ。ほんと、前途多難、かも。



 ⭐︎


 お昼休み。最近の食事は食堂の賄いを頂いてる。っていうか寮の朝ごはんも晩御飯もだから三食賄いご飯な訳だけど。料理長さんとも仲良くなったのでお昼の賄いご飯分は朝お弁当箱に詰めて来て。いつもの中庭でお弁当、だ。

 クロコは日中は中庭で過ごしてる。わたしの休憩時間には何処からともなくちゃんと寄ってきて膝の上にちょこんと乗る。香箱作って満足気にゴロゴロしてる。


 よし。

 今日もちょこっと魔法の練習だ。


 ……まずは守るための防御、逃げるために浮遊、何処に飛ばされても帰る為に転移。この三つは確実にマスターしなきゃね。


 そうナナコ。


 防御は身体の表面に薄く張る魔法の膜、周囲に張る防御壁。もちろんクロコの分も。これを安定して出来るように。


 あと、これも今更で気がついたのだけど、わたしとクロコは魂の奥底、インナースペースで繋がっているっぽい。っていうかほぼインナースペースを共有してる、っていうか、わたしのインナースペースがクロコを形作ってる、というか……。

 とにかく多少離れて居てもその気になれば魔力を融通してもらう事くらい余裕なのだった。


 ……盲点だったねー。抱いてなくても魔力使えるなんてね。ポンコツって言ったのは訂正させてもらうね。


 もう、ナナコ。

 最初にポンコツよばわりされてからというもの、まさか自分で任意で魔法が使えるようになるなんて、ほんと思わなかったから。

 なんか、嬉しい。


 精神を集中して身体の表面に魔力の膜を張る。これをほぼずっと続けられるようにしないと。へんなところに転移させられてもとりあえず肉体が消滅しちゃうのを防ぐ意味で。

 ループ文の魔法陣を使い自動化する。これでわたしが自分で解除しない限り継続できる。ちょっと安心、だ。

 あと、この魔法にはもう一つの利点、が、あった。

 なんと魔力紋の問題が解決した、のだ。もうこれはほんと嬉しい。

 クロコの魔力紋ではあるのだけれども、これがわたし自身の魔力紋であると誤認させる事に成功したのだ。

 これでゲートも通れるし、こっそり夜中にサーラ様に会いに行くことも可能になった。



 ☆


 夜の中庭はちょっと怖い。あんまり灯りは無いし、誰かその辺にいるんじゃないかって、そんな事も考えちゃう。

 でも、魔法の練習をするのにお部屋じゃちょっと狭いし、万が一失敗して壁とか壊しちゃってもいけないから我慢して。

 流石にお城の外まで出るのは難しい。中庭は結構広いから奥まで行けば人目も無いしなぁとか考えながら歩いてた。


 クロコは一緒についてくる。


 いい子だね。クロコ。ボディガードありがとね。


 そう言って時々撫でてあげる。かわいいなぁ。


 ……転移はそこまで難しくはないんだけど、まずはこの世界の空間の組成をちゃんと把握しないとなの。この空間の裏、ゼロ空間へ繋がる膜をちょこっとひっくり返して、そんで行きたい場所と繋げて戻す。これだけ。


 うーん、ちょっとよくわからない、かも。


 ……うーわかんないの? もう。とにかく考えるよりも感じる方が大事。あたしがちょっとクロコ使ってやってみせるから、よーくみてるのよ。


 感覚を見て覚えろ、かぁ。ふにゃぁなの。


 ……文句言わない。


 ナナコがそう言ったが早いか、クロコの境界がブーンと揺れて曖昧になったと思うと、すこし右側の位置に現れた。元の場所のクロコは消えて。


 ……こう。一瞬ひっくり返すだけだからゼロまでは落ちないし、ほぼタイムラグ無しに目的の場所に移動することが出来るよ。


 ……この転移っていうのは最初の時魔物から逃げた時のような魔法術式を組んでどうこう、じゃないの。素、で、空間を掴んで捻じ曲げる感覚? これが出来るようになれば色々と応用が効くようになるからさ。


 あうあう。でたよ。魔法じゃない、って、そんなのどうすればいいのさ。


 ……つべこべ言わない。アリシアなら出来るからさ。


 根拠は?


 ……あたしの、感?


 うきゅう。


 ま、でも、うん。練習しなくちゃ始まらないのは確か。何事もね。




 真夜中の特訓、三日目。


 あ、何か、わかった、か、も。


 自分の奥底、前ゼロ空間から脱出した時のインナースペースの奥底を意識すると、そこには出口、としか認識出来ないものがある。

 形があるわけじゃ無い。ただ、そこが、自分と世界を繋ぐ境界なのだと、そう認識できるのだ。

 その出口を目の前に捉えて心の中で手を伸ばす。

 伸ばした手が出口から出て、世界を掴もうとする。


 あ。


 ちょっと引っかかった。


 心で世界に触る感覚。これ、が、そうなのかも。


 ……そう。その感覚が大事なの。


 うん。ナナコ。


 ぎゅっと世界を掴み、引き寄せる。

 わたしの周りの空間をぐるんと裏返し、引き寄せた世界と繋げてもう一回ひっくり返す。


 そこはほんの数歩先の場所ではあったのだけど、確かに転移で移動していた。


 やった! 成功だ。


 嬉しくてついつい飛び上がって喜んだ。

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