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転生少女と魔王のキオク?

 城下に到着するとまずはやっぱりお城へ。

 クロコをお家に置いてこようかとも思ったけど、ここでこの子を隠蔽しちゃうと女神像が無くなった言い訳が出来ないし、しょうがない。

 幸い大人しくしててくれたから、わたしが布袋ごと胸に抱いてても周りからは何か大事なものでも抱えてるのかくらいにしか思われなかった。

 上から覗くと、おめめをまん丸にして上目遣いでわたしを見てる。ほんとかわいい。


 いいこだね。クロコは。


 そう小声で声を掛けながら大門をくぐった。


 と、門の中では大勢の騎士さま達がこちらを見て立っている。

 のんけんな雰囲気。やっぱり、素直に帰ってきたのは失敗? ちょっと怖い。

 通常門兵さまは大門より奥にある城門に詰めてるので、ここまで表に大勢の集まってくる事もない。

 ふにゃぁ。でもここで立ち止まってるわけにもいかない。わたしはその脇をすり抜け通用口に向け進もうと歩く。


「まて」


 びくっと肩を竦めるわたしに騎士様の中のたぶん偉い人。


「アリシア=レイニーウッドか?」と。


「あ、はい。そうですアリシアです。公主様のおつかいからただいま戻りました」


 騎士様がわたしの全身を上から下まで舐めるように睨め付け、そしてやがて安堵するような表情になり。


「うむ、……魔王では……無い、か。……よし。皆、解散だ!」


 と、振り返り号令する。


 ああ、そういう事か。やっぱり全部シナリオ通りという事ね。


 わたしが女神像を受け取るという事が魔王復活のキーだった、と、そういう事かぁ。


 そんな確信めいた事を思い浮かべて呆然としているわたしを尻目に、騎士様達は城門へと戻って行った。


 魔王じゃないって……わたしは今でも魔力はゼロだから? 胸の中にいるクロコの魔力は感知されてないのだろうか?


 そんな事もボンヤリ思い浮かべながら、暫くその場に佇んでいた。


 ☆


 公主館に戻ると公主様との謁見の場が既に整えられていたらしく、わたしは先日と同様応接室のソファーの上に。

 前と同じで人払いされた部屋に、公主様と二人向かい合って。


「ごめんなさいね。わたくしが『アリシアさんが帰って来たようです』と呟いた途端、騎士団長様が大騒ぎしてしまったの」


 ああ、さっきの騎士団長さまだったのね。


「心配はありませんよ、と、前もってお話しておいたのですけど……」


 サーラ様のえがおは優しい。うん。やっぱり……。


「あの、サーラさま……」


 わたしは全てを話そうと切り出したそのとき、


 にゃぁ


 クロコがもぞもぞっと顔を出した。わたしを庇うかのようにまっすぐサーラ様を見てる。


「あああ、かわいいですね」


 サーラ様はそれまでの普通の笑顔からさらに相好を崩し、クロコを見る。その目を細め、笑みを深め。


「撫でても……、良いですか?」


「ああ、はい、たぶん、大丈夫みたい、デス」


 クロコは大人しくしてるしサーラ様に敵意は無い感じ。だから、大丈夫かな。


 わたしはソファーから腰を浮かべサーラさまの近くに行くとクロコを抱えて持ち上げた。


 笑みをこぼしながらクロコを撫でるサーラ様。クロコも気持ち良さそうだ。ゴロゴロいってる。


「あの……、サーラ様はやっぱりご存知なのですか? 女神像がこの子、クロコになっちゃった事……」


 この子を見て驚きもしないサーラ様。たぶんなにもかも見透かされてそう。


「ああ、クロコちゃんって名前なのですね。かわいいね。クロコちゃん」


 サーラ様は……。やっぱり瑠璃ちゃんだ。


 サーラ様の事がちょっと怖かった。だけど、やっぱり。


 ☆


「魔王の事は……サーラ様はどこまでわかっていらっしゃるのでしょう?」


 クロコを撫でるサーラ様は優しい顔をしてて、それ以上の事を訊ねようとしなかったから……。わたしのほうからそう切り出した。


 サーラ様は、少し目を閉じ、そしてゆっくり、話しはじめた。


「わたくしには、大預言者カッサンドラ様のキオクがあるのです……」


 え? 500年前の人だよね? 生まれ変わり? でもそんな……。


「貴女と同じ、ですよ。わたくしの中に、繋がって降りて来たキオクなのですから。それを読み解くと……」


 はうう。


「わたくしが、いえ、わたくし達が真に恐るるべきは、終末プログラム、なのでしょうね」


「魔王という存在は、元々は人々から神として崇められていたのです」


 真皇真理教みたい?


「そう、彼らは間違ってはいないのですよ」


 え? 嘘、って、サーラ様ってば、もしかして


 ……うん。間違いないよ。彼女はあんたの表層意識がみえてる。


 ナナコ!


「そう。わたくしは人の意識が色彩として見えるのです。そしてそれを読み解く事である程度理解することも」


 ああ、だから。サーラ様が怖かった、の、か。


「すべてがわかっているわけでは、無いのですよ。というかこれって秘密ですよ?」


 かわいくウインクして、口元に人差し指をあてるサーラさま。


「亜里沙ちゃんだから話すんだからね」


 サーラさま、いや、瑠璃ちゃんは悪戯っぽい笑みでそう言うと、わたしにぎゅっと抱きついて。


 クロコはスッと抜け出してテーブルの上に移動した。


「わたしは……亜里沙ちゃんの味方だから。何があっても守るから。だから、安心、して。お願い」


 ああ、瑠璃ちゃん……。


 わたしの心の何処かにあったわだかまりが、溶けていった気がした。


 ☆


 侍女長様に、馬車の旅は疲れたでしょうと今日のところはもうお家に帰って休むようにと言われ、わたしはクロコと共に御屋敷を後にした。


 ……なーんか気に入らないな。


 ナナコ?


 ……あの何もかもわかってますよ感があたしだめ。


 え〜?


 ……アリシアはあたしのなのに。


 え? なにそれ? あはっ。それってなんかヤキモチみたい?


 ……わるいの?


 っていうか瑠璃ちゃんは前世のお友達だからさ。だから優しくしてくれるんだよ。それより、わたしは誰のものでも無いよ、ね? ナナコ。


 ……ううん。アリシアはあたしのなの。もうこんなに繋がった一心同体なのに、今更あたしを捨てる気?


 なにそれー、冗談ばっかり。


 ……ふん! いいよアリシアなんか。もう知らない!


 ナナコ! もう。子供みたいなんだから。


 いじけたっぽいナナコは暫く返事してくれなくて。


 まぁそのうち機嫌もなおるかなと気にするのをやめて、わたしは帰り道に道具屋さんとか寄ってくことにした。

 クロコにいろいろ買わなきゃと思ったからだ。


 この世界にはあいにく前世の様なペットショップは無かった、ので。というかそもそも小動物の生体販売という悪習は忌避されていたと言った方が正しいか。利益のためにペットを生産するって商売は、無かった。

 だから必然、犬や猫は一般家庭にそれほど飼われているわけではなくて。ほんとうに好きな人だけ家族の様に育ててる、そんな感じ。

 ご飯だって手作りするし、身の回りのものだってすべて。

 だから、今日は、クロコのためにトイレ用の木箱とお椀、水桶を探そうと思って。

 完全室内飼いとかはこの世界では必要なさそう。自動車も無いし馬車だってそこまで走って無い。毒エサ巻く大人も居ないし猫を攫う人もたぶん居ない。虐待だって無い。だって、そんなことしたら逆に動物が魔物化して襲われるよ。


 魔力は恐怖や憎しみの感情で増幅するから。人はみな、そういった感情を他人に与えることの不利益をまず教わる。この世界が優しいのは、そういった部分も大きいのじゃないのかなぁ。情けは人の為ならず、というけど、この世界ではほんと自分の為に他人に情けを与える事が善だとされている。それが他人にも、自分にも、まわり全てが平穏で居られるコツなのだ。


 ほんと、どこの誰がこんなお花畑な世界を創造してくれたのやら。そんな神様に感謝しつつ、この世界に生きる事が出来る事に、感謝した。


 ☆


 お家に帰ってクロコを離すと、そこら中探検し始めた。


 うん。いっぱい見ていっぱい気にいるといいかな。


 木箱二つ買ったけど、一個はベッド一個はトイレのつもりだけど、ちゃんとわかるかなぁ?

 古着を詰めたのをわたしのベッドの脇に、砂を詰めたのを入り口ドアの横に置いて。

 水桶とご飯お椀を猫ベッドの脇に置いた。


 ご飯は今日は鶏肉を茹でたのをほぐして入れた。あんまり味が濃いといけないと思って茹でただけだけど、白米のご飯にササミをほぐして混ぜて混ぜご飯だ。食べてくれるかなぁ? 馬車の中ではわたしのお弁当のおにぎりを少し分けてあげたら喜んで食べたし、たぶんお米も食べるっぽいねクロコさんは。自分でお外で何か食べるかもだしそんなの沢山は用意しなくてもいいかなぁとかいろいろ考えて。


「クロコーご飯だよー」


 呼んだら飛んできた。にゃふにゃふとすごい食べっぷりであっというまに空になるお椀。

 食べ終わると満足した様に右前足をペロペロしてる。


 ふふ。ほんとかわいいねクロコさん。


 幸せそうなクロコを眺め満足すると、わたしそのままベッドにゴロンと仰向けに倒れた。ぎゅーっと背伸びをして。


 きゅ。お腹の上にクロコが飛び乗って。いきなりはちょっとキツイよクロコさん。


 わたしが両手でもふもふすると、クロコは顔をこちらに向けたままお腹の上で香箱に。撫で回すわたしの両手に顔をこすりつけ目を細める。


 ……かわいいね。クロコ。


 ナナコもそう思う?


 ……それは、そうよ。当たり前じゃ無い。 こんな可愛い子を可愛くないなんて思えるわけないでしょ。


 ふふ。ナナコ機嫌治ったね。良かった。


 ……うーん、このかわいいクロコを、この絵を切り取って他の人に見せて自慢したいよね。


 あはは。写真みたいに?


 ……写真。そっか。アリシアの前世の世界にはそんなのあるんだね。あたしもアリシアが思い浮かべてくれればどんなのかわかるから。


 そっか。この世界には写真は無かったっけ。


 そう。魔力で写す映し鏡みたいなのはあるくせに、紙に残すような写真というものは無かった。

 綺麗な景色とか、写真に残したいって思うのにね。目で見るのとはまた違った写真だけにある味っていうのかな、そういうのもあるのに。


 自分で実際に体験する幸せも、キオクの中に残すのも、それはそれで大事だし素晴らしいものだと思う。だけど、写真に撮って誰かに見てもらう、そんなこともやっぱり大事な幸せだ。写真を見てそしていろいろ想像して物語を思い浮かべるのも、すっごく素敵な事だ。わたしはそうおもう。


 そっか。


 前世で高校の体育館で演劇部の練習風景を撮った。ヒロインの表情をアップで撮り、モノクロで引き伸ばして学祭で展示した。

 校庭でバスケ部が練習しているところでは、ちょうどシュートが決まった瞬間を捉え。停まったボールを写し出した。

 春の桜。秋の紅葉。冬の雪景色。

 いろんな風景を切り出すのは、楽しかった。

 お古で貰ったオリンパスの一眼レフ。モノクロのフィルムを部室で現像して自分で印画紙に焼き付けて。

 薬品は臭いし今時デジタルじゃなくてフィルムカメラなんてとか周りにはいろいろ言われたけど、子供の頃に見たお父さんのカメラ雑誌にあった写真、白と黒のコントラストがものすごく神秘的に見えたあの風景写真、それ、に、魅入られたわたしは高校では他に見向きもせずに写真部に入ったのだった。


 社会人になってからは自宅に現像できるスペースなんて無かったし機材を揃えるのは難しかったからデジタルミラーレスのカメラになったけど。近所の公園で桜の花びらを撮ったり猫を撮ったり。そんな写真をネットに載せて楽しんでたっけ。自分でホームページ作ったりも、したなぁ。




 ……アリシア。緊急事態。窓を閉めてクロコ抱いてて!


 え? 何がおきたの……?

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