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転生少女、魔王になる。

 頭の中にナナコの声が響く。


 ……というわけで貴女は魔王の器になったわけだけど。理解してる?


 え? なにそれ。器って……


 ……でもね。うん。ダメ器?


 はい?


 ……だってせっかく魔王になったのに、魔力が無いんだもの。


 ああ、ここまできてそれか。わたしってチートとはやっぱり無縁?


 ……魔王はね、その器のデータを書き換えることで最強の能力を発揮するのだけど、それって無に新たに創造するわけじゃないの。在るものの桁を増やすことで、何千倍にも何万倍にも能力を増幅させるわけ。


 ……だから。魔力がないあんたは、ぽんこつ?


 なんか酷い言い草。ほんと、どういうことよね。

 っていうかそれよりも。


 ねぇ。それなら魔王の意識はどこにあるの? 器、は、わかったよ。でもそれならなんでわたしの意識はそのままなの?


 ……魔王はね


 ……データなの。


 ……この世界を構築するデータそのもの。


 ……遥か昔、ある時、自分自身がそういうものだと認識し、自我が生まれた。そして。マオウは自分の世界に生きる者達を愛した。


 ……でも、同時に何処かでそれは始まった。この世界を終わらせる終了のプログラム。


 ……それもまた、マオウだからデリートすることもできない。


 えー、って、と言うことはもしかしてその自我っていうのは……


 ……そ。あたし。あたしがマオウ。マオウに生まれた自我。


 ……でも、今は器のあんたが魔王。知識としてのデータは全て貴女の中にダウンロードされてる。


 え、よくわからないけど、そうなの?


 わたしがそう意識した途端、頭の中に大量のデータが蠢いた。


 あ、あ、ダメ、


 狂う、ダメ、処理しきれない。


 ……あぁあぁ。一度に全てにアクセスするから。あーあ。固まった。


 ☆☆☆☆☆


 どうやら気絶して、そして再起動したっぽい。

 ちょっと頭の中が整理された。そして、全部ではないけど、たぶんほんの一部、だけど、魔王のデータ? キオク? そんな感じのものがわたしの中に残っていた。



 今まで、魔王になったものは其の魔力とともにそのものが元々持っていた負の感情をも増幅させてしまう事が多かった。

 五百年前の魔王は終了プログラムのいいなりにこの世界を終わらせようとした。

 勇者はそれを阻止し封じ込めた。

 でも、それだけ。

 たしかに終わらせることは阻止したけれど、世界は停滞してしまった。

 停滞は、ゆっくりとした破滅。

 そこで。外部からのウイルスのようなデータを受け入れることで、やっと変化があらわれた。   それが転生者。という存在。

 それが今の状態……。


 ☆

     

 で、これからどうしよう。

 このままお城に戻ったら


 ……封印されておわり? だろうね。


 そうだよね……


 そっか。サーラさまはそこまで考えてわたしをここに寄越したのか。

 わたしの魔力がゼロである事も、当然識っていたのだろう。

 魔力が無ければたとえ魔王が復活したとしても無害。そのまま封印してしまえば、また数百年は平穏が訪れる、筈。


 そうか。わたし一人犠牲にすれば、この世界は守られる、と、そういう事か。そうか。これは、わたしに対する復讐、なのか。


 ☆


 ……んで。やっぱり帰るの?


 だってこの女神像届けなくちゃだし。


 ……封印されておしまいだって、わかってるんだよね?


 そんなの、逃げたって一緒だよ? 捕まったら。


 ……復讐だろうって、言ったじゃん、自分だって。


 そうだけど、そうだろうけど、でも、だったらしょうがないよ。


 そう。瑠璃ちゃんが望むなら、しょうがないよ……。


 帰り道の乗合馬車の中で膝を抱えて。わたしはひたすら心の奥に引きこもっていた。


 魔王のキオクにアクセスするのは怖いし難しい。

 適当にあたってもハズレも多いし意味のわからないことも多い。かと言ってすべてにあたると処理しきれなくて落ちる。

 そんな中で少しだけ残ったキオクを見ていくと、この世界の事、少しわかってきた。



 この世界の、空間のエネルギー値はゼロでは無い。

 物質が顕現する場としてのバランスがとれている、そういう状態。言わば水面の様なものだ。

 水面下にもエネルギーが存在するし、また、上にも。 

 そしてこの上にあるエネルギーが魔力とよばれるものであり、その結晶が魔石である。

 人も動物もその内に魔石を持ち、空間、物質、に、依らず、力を行使する事が出来る。そして、生き物が魔力により暴走した姿が魔物と呼ばれ、魔力が溜まり魔石が生まれるとそこに魔獣が生まれる。



 うーん。情報が少ない。

 肝心なことはよくわかんないんだけど、こんな感じの知識が浮かぶ。

 でも、それならわたしって、なんなんだろう?

 わたしの中には魔石が無いんだろうか?

 だから魔力が無いんだろうか?



 ☆


 ゴトゴトと揺られながら、わたしはいつのまにかドナドナを口ずさんでいた。

 昔音楽の授業で歌わされたっけなぁ。とか思い出しながら。

 わたしは歌うのはスキだったんだけど人前で歌うのは苦手で、どうしてもあがっちゃってしょうがなくて、ピアノの音に合わせることが出来なくて。

 よく放課後一人で練習したっけ……。そんな事も今ではいい思い出、だ。前世だけど。

 ま、ほんと、ドナドナの気分。

 あと1日で城下に到着だというのに、どうしようとか全く考えていない。

 とりあえずこの女神像を公主様にお渡しすればそれで、とか。甘い事も考えてる。


 ……バレないわけないじゃん?


 ナナコはそう言う。


 で、でもさ、わたしの仕事はこの女神像の買い付けだけだよ? 物はちゃんとあるんだし、もしかしたら大丈夫、かも?


 ……仮にも大預言者様でしょ? あんたの魔力がゼロなのだってバレてるっぽいんでしょ? だったらそれくらいわかるよね。


 っていうかさ、結局この女神像はなんだったわけ? やっぱり魔王が封印されてたのって、これだったの? それに他の九体の女神像は、なんなん?


 ……今更それを聞くー? ほんとバカね。


 どうせおバカですよ!


 ……しょうがないなぁ。教えてあげるわよ。


 ナナコ、ちょっとだけ優しい声になった。


 ……えっとね。これくらい大きな魔石になるとね、放出する魔力より吸収する魔力の方が大きくなるんだけど、それは知ってる?


 え……知らなかった。


 ……もともと魔石はどんな魔石でも、自身の中に保有する魔力回路が周囲にある魔力を吸収する様に出来てるの。だけど通常は放出する量の方が大きいから、ほかっておくといつかは魔力切れをおこすのよ。それをチャージする事で蓄積器として使ったりもするのね。


 なるほど……。


 ……でも、それがある程度の魔力の塊、事象の大きさの分岐点を超えると、吸収する魔力の方が大きくなって、それがやがて魔獣って存在になる訳。


 ……魔獣を倒して出てくる魔石は倒されたという事象で魔力が発散されてるから、この分岐点を下回るの。


 ……まぁこの大きさっていうのも見た目の大きさじゃぁないんだよ? 存在の大きさって言ったらいいのかな。だからこの世にある魔石がどんな大きさに見えようと、それが魔獣を生んでいなければ、分岐点以下だってことなのね。


 え? じゃ、どういうこと? この女神像、魔獣になってないよね?


 ……これは、真皇真理教の人間が、魔石に特殊な加工をして封印された魔王とネットワークを繋ごうと作成した言わば魔王の端末って存在なんだけど、って、要は元々はあたしと人を繋ぐ為の装置? みたいな?


 あうあう。じゃぁ他の九体も?


 ……そ。でも今のところ繋がったのはあんただけかな。たぶんあんたの血に反応したっぽいよ?


 えー。したっぽい、ってなにさ。


 ……とりあえずもう繋がっちゃったから、この女神像の役目は終わり。もうこれ、ただの魔石に戻ってる。


 ええ?


 ……特殊な加工っていうのの効果も切れてるから、だんだん魔力が集まってるんだけど……、そっか、アリシアには見えないか。


 えー? そしたらこれ、どうなっちゃうの?


 ……あ、話してる間に臨界突破したらしい。


 嘘! あ、何?


 胸に抱いてる女神像が、なんだかほんわか暖かくなって、もぞもぞ動き出した。




 そして、布の間から真っ黒な小さな顔をもぞもぞって出すと、にゃー、と鳴いた。


 ☆


 猫!?


 ……ねこだねぇ。


 可愛いけど……これってどういうこと?


 布から顔を出してこっちを見る眼はまんまるで。かわいい黒猫の子猫にしか見えない。


 な、な、って小刻みに鳴きながら頭をわたしの手にこすりつけてくる。さっき魔石は魔獣になるって言ったのにどうして?


 ……これも、あんたと繋がっちゃったからねぇ。どうやら魂の奥底で繋がって、あんたの影響をモロに受けてる感じ。たぶん、アリシアは猫度が高いんじゃないのかなぁ?


 猫度、って……。


 でも、かわいい……。かわいいは正義、かな……。


 ……うーん。完全にアリシアに従僕してるっぽいから。このままでもいっか。


 いいの?


 ……人に危害とかは加えそうにないからね。黙ってたら普通の猫にしかみえないよ。


 そっか。


 あ、でも、どうしよう……。女神像、無くなっちゃった……。


 にゃー?


 あは、かわいい。クロコ、この子はクロコでいいかな。


 ……黒猫の子猫だからクロコ? たんじゅーん。


 いいの。クロコ、響きがかわいいじゃん。


 っていうかさ。もうこうなったら全部話すしかない? よね?


 ……まぁ。公主さまっていうのが悪いやつならあたしがなんとかしてあげるよ!


 うう、公主様は……、瑠璃ちゃんは……。


「わーねこだー。おねーちゃんねこひろったの? いいなー」


 乗合馬車の隅で体育座りでじっとしてたわたしは周りから見たらちょっと異質に見えていたのかも。


「だめ、リア。おねえちゃん迷惑だから、メ!」


 興味深げにわたしの方に来ようとする子供は母親に手を引かれ戻って行った。


 わたしはちょっと苦笑し、


「ごめんね。またね」と。

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