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転生少女、連行される。

         



 というわけで。ってどういうわけだか。


 わたしは公主様のもとに連行? されることになった。


 御目通り、じゃないよ? そもそもお側にあがるわけでもない新人メイドなんて、公主さまにお会いすることも無ければ気に留めてもらえるわけもない。わたしの名前すら、知られてないと思ってた。

 だから。


 今回のこれ、ひょっとしてさっきの異変と関係あるんだろうか?

 可能性、あるなぁ。


 わたしの前には侍女長さま。わたしの両隣と後ろには護衛騎士様。さっきの人じゃないけど、三人。


 完全に囲まれたまま公主様のお住まいである最奥のエリアに差し掛かる。


 ああ。


 まずいなぁ。


 この先には魔力紋ゲートが存在するらしい。



 登録したものだけが通ることができるというゲート。

 不審者侵入者防止のため設置されていて、自分たち侍女もお側にあがる際になったら登録するのだ、と、説明で聞かされた。


 でも、たぶん、だけど、わたしって魔力紋、無いんじゃないかな……




 わたしが魔力ゼロを自覚したのは七歳のとき。


 小学校に入学し友達ができて、その子と遊んでいるときに見せてくれたおもちゃ。

 ゲームボーイみたいな小型の携帯ゲーム機みたいなそれは、画面がキラキラしててすごく綺麗だった。

 その子、アイラちゃんはそのゲーム機を上手に操り、画面の中の光るかけらを合わせていく。

 パズル? 絵合わせ? そんなゲームみたいに見え。


「アリシアちゃんは持ってないの?」


 そう、聞かれた。みんな持ってる、って言う話だ。

 どうやら子供の魔力を高める練習用の遊具で、今流行りなのだと。

 わたしもやってみたくなって、ちょっと貸してもらった。


 でも、


 なにをやっても起動すらしない。ほんと、全く。

 そこで、はじめて気がついたのだった。自分はこの世界では、普通、で、ないことに。

 自分には、魔力というものがカケラも無い、ことに。


 ☆


「そんなに気を張らなくても大丈夫ですよ。公主様はお優しい方です。それに……。もしも理不尽なことであれば……させません。その為にわたくしが同行するのです」


 侍女長さまのお言葉にちょっとうるっと来た。


 うん。でも。どうしよう。


「さあ。こちらのパネルに掌をあてなさい。認証のために登録を行います」


「魔力を出す必要があるのでしょうか?」


 わたしは念のためにそう聞く。


「そうですね。手のひらを当て、ほんの少しだけで良いので魔力を流します。登録時には必要ですが、認証には必要ありません。自動で感知しますから」


「わかりました。ありがとうございます」


 もう覚悟を決めるしかなさそうだ。


 わたしはゆっくりと左手の掌を目の前にそそりでているパネルにあてた。


 反応、ない、よね。やっぱり。


「はい。そこですこしで良いので魔力を流すのです」


 うー。


 たぶん意味ないと思うけどこっそり右手で魔力ライターの魔石を握りこむ。


 ブー


 え?


「おかしいですね。別人の魔力に反応したようです」


 そっか。登録時にもちゃんと本人かチェックが入るってことか。登録時にも認証確認をするのね。不正防止の為には必要だよね。

 変なとことに納得して。


「どうしたのでしょう。故障でしょうか」


 いつまでたっても何回やり直しても、登録完了まで進まなかった。


 隣でパネルを操作している侍女長様も、なんだか焦っている。

 その時、


「どうしました。何かありましたか?」


 そのお声に、はっと全員が振り向いた。

 なんと公主様がゲート入り口にいらっしゃったのだ。


 ☆


「あなたがアリシアですね。わたくし、貴女にお願いしたいことが御座いましたの」


 そうコロコロと響くようなお声。


 公主様は数人の側仕えを伴いそのままゲートから出てくると、スタスタと歩き出した。


「一般来客用の応接室を使いましょう」


 そう、笑顔を振りまくとそのまま先頭で歩く。

 わたしたちはその後ろをついて行くこととなった。



 普段、一般の来客は奥の間まで通す必要はない。

 公主様がこちらまでおいでになり、そこでの謁見となる。当然調度品もそれなりにすごい。

 わたしはまだこのエリアのお掃除もさせてもらっていなかった。


 ☆


 目の前に公主様。


 わたしはフカフカのソファーに座らされていた。

 何故か人払いされ、侍女長様も、だ。


 侍女長さまは最初渋っていたが、公主様がにこやかに、おはなしをするだけですよ、というのに納得して席をはずして。


 うーん。

 公主様はニコニコして、わたしのことを見てる。

 うきゅう。どうしよう。

 困惑して黙り込んでいると、


 ガチャ


 扉が突然開くと、あの時の騎士様がズカズカ入ってきた。


「まぁ。ラインハルト様。いくら貴方でもいきなりの入室はお行儀がわるいのですよ」


 ん?


「ま、そう言うな。サーラがあれと此処に居ると聞いてな」


 あれって、わたし? いや、つっこみはそこではなく……


「で、何があったのだ?」


 ん、ってこの人がこういう言い方をするって事は……あの異変と公主さまの呼び出しは関係、ないの?


 わたしは、たぶん、ものすごいビックリ目でこのシーンを見ていたのだろう。

 呆けた顔になっている自信がある。ダメダメだけど。



 ☆


 暫しの沈黙のあと。


「何からお話すれば良いのでしょうか……」


 サーラさまはそう、語りはじめ。


「アリシアさん。貴女、日本からの転生者、ですよね?」


 にゃ! え? びっくり。どうしてそこまでわかるの?


「あうあう……」


 わたしの声は言葉にならない。


「ああ、そういうことか」


 ラインハルトさまは何故か納得している感じ。


 うーん。どうしよう。どこまで話していいものか。っていうかなんだかみんなばれてそう。さっきのゲートの時も、ほんと絶妙なタイミングだったしね。


「あ、え、っと、そうでは、ありますが……。でも、わたしなんの能力もないデス……よ?」


 ダメ。とにかくそれだけの言葉を紡ぐので精一杯。


 でも。サーラさまは急に真面目なまっすぐな目で見つめて、ゆっくりと、声を出し。


「わたしも……同郷なのです。前世は岐阜の大垣で高校生してました」と。


 え?


「亜里沙ちゃん、よね?」


 ええー?


 同級生? まさか、誰?


 でも、時系列、違うし、わたし大学出てから社会人で何年かは記憶があるし。


 でも、まさか、でも、そうしたら、


「まさか、瑠璃……? ううん、そんなわけ……」


 そんなわけない、そう言いかけたわたしのセリフは、彼女の涙によってとぎれ。


「ああ、瑠璃なのね……。ほんと、会いたかった……。会って、謝りたかった、の……」


 わたしの目も涙で溢れて、世界がぼんやり包まれた。

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