人と、人ならざるもの。
一晩そうしてカイヤを抱いたままティアを見守っていたわたし。
ああ。ごめんね。
そう心の中で謝りながら。
過ぎる魔力、過ぎるマナは人を人ならざるものに変えてしまう。
それは充分すぎるほどわかっていたはずだった。
最初にレティーナとカイヤに力を授けた時は、まさか普通の人を巻き込んでしまうとは考えてなくて。
この子カイヤは元々が魔王石の分身。わたしの眷属だ。
瑠璃の神としての力を浴びて聖獣となってはいたけれど元々はわたしの眷属であった猫の従魔クロコが進化した姿のはず。
当時はまだ猫としての意識しかなかったはずだけど、レティーナと共にあることでこうしたカイヤっていう人格、(猫格?)が芽生えたのだろう。
だから。
最初っからこの子にはわたしの力龍の雫を与えても力が増しこそすれ特に副作用などは無いはずだった。
だけど。
ティアは違う。
この子はもともと本当に普通の子供だったはずで。
長い年月の間にわたしの眷属となった龍人族とは違う、本当に全くの通常の人族だった彼女。
そんな彼女にはわたしの力、魂のカケラ、龍の雫の力は身に余ったのだろう。
バルカとの戦いの果てに砕け散ったその雫だったけれど、無くなってしまったわけじゃなかった。
彼女自身の魂に溶け混ざり、こうして龍化を起こしてしまったのだ。
わたしがもう少し気を配ってあげられていれば。
わたしがもう少しだけ彼女らのそばにいてあげることができていれば。
こんなことにはならなかったのに、と、悔やんでも悔やみきれない。
あの戦いの後。
バルカの魂が無事に大霊に辿り着けるよう。
どこかに迷ってしまわないよう。
カッサンドラが本懐を遂げることができるようにと。
あたしは彼らの行く末を見守る必要があってレティーナのそばを離れた。
そのせいで。
「ティアは自ら龍として生きることを望んだのだから」
わたしの顔を覗き見るように見上げ、カイヤがそう囁いた。
「ありがとうカイヤ、慰めてくれるのね」
わたしの心を読み取るように寄り添い頭をこすりつけてくれるカイヤ。
「それでもティアはレティーナのそばにいたい、力になりたいって願ったんだよ」
そういうカイヤ。
そっか。
そうなのねティア。
人が人ならざるものと共に生きるのは難しい。
でも。
それを選んでくれたんだ。彼女は。
そっか。レティーナ。
あなたはもう1人じゃないのね。
わたしはそうしんみりと想いながら。朝日が登るのを待った。
きっとその頃には彼女は目を覚ますだろう。
龍化は順調に進んでいる。
さっきまで時折苦しそうな素振りを見せていたティアの寝顔、その表情に、今は優しい微笑みを浮かべていた。




