龍化。
時間、時の流れというのもは、その世界、宇宙、そこそれぞれに別々に流れて存在している。
それはどこででも統一された時間というものがこの世には存在しないことを表していた。
わたしがその昔、前世の亜里沙の世界に帰ったとき。
そこではアリシアとして生きた15年がまるで無かったかのように、つい昨日の翌日として在った世界で。
そもそも亜里沙はちょっと気を失っていただけで全く時間が過ぎてないそんな世界に戻っていた。
よくわからないよね?
うん。わたしにもよくわからなかった。
亜里沙としてのわたしはたまたまふと意識を失って。
そうしてその心が瑠璃の世界に転生しアリシアとして15年生き。
魔王になったあと次元の壁を超え渡った世界がその気を失ったばかりの元の世界だったなんて。
マナの、エーテルの海に浮かぶ泡である世界は。
それぞれが独立した時間の流れを持っている。
だからかな。
世界を渡るということはその世界のどの時間に辿り着くかわからないしお互いの世界の時間は干渉しないから、もうこんなよくわからないことになっちゃうんだろう。
それでも。
今回のわたしたちの世界遷移はあの元の世界の元の時間に座標を固定してあるから。
(まあ、デートリンネのおかげでもあるわけだけど)
わたしは無事に、レティーナが最初にデートリンネに呼ばれたその時間その場所にたどり着いていた。
「レティーナ!」
カイヤの悲痛な叫びが聞こえてくる。
ああ、きっとレティーナがこの声を聞いていれば、あんなにのんびりあのマシンメアの世界にいられなかっただろうな。そう思う。
爆風が収まったその場所で立ち尽くすカイヤの前に、ふんわりと姿を現したわたし。
多分最初にあった時のレヴィアの姿。
カイヤ、覚えてるかな?
「レヴィアさま!」
そうすがるようにわたしのそばにきた黒猫姿のカイヤをわたしはそっと掬い上げるように抱き上げた。
「ごめんなさいね。レティーナは無事ですよ」
わたしはそう彼を抱きしめ頬擦りする。
「あ、そうなのですか! ありがとうございますレヴィア様!」
ふふ。安心してくれた様子。カイヤもわたしの頬擦りに応えるように頭を擦り付けてきて。
「ふふ。くすぐったいわカイヤ。それよりも、ティアは?」
カイヤと一緒にいるはずのティア。
2人を無事に連れ帰らないとね。
「ああ、ティアはこちらです」
わたしの腕の中をすり抜けカイヤは背後にあった小屋に入っていった。
カイヤは猫なら通れる隙間? を通って中に入っていったけど流石にわたしはそういうわけにもいかない。
玄関らしい扉を開けて中を覗く。
「こちらです、寝室です」
階段をたたっと上るカイヤの後をついて2階に上がる。
その奥に。
ああ。どうやら体調を崩し熱を出したティア。苦しそうに寝返りを打ちながらベッドで寝ている。
これくらいなら回復魔法で治りそうなものだけど?
なんでレティーナは治療をしなかったんだろう?
そう思いながら近づいてみると。
ああ。
これは。
違う。
龍化、だ。
ティアの額に手を当て感じられるのはわたしが以前与えた力のかけら。
長い間、龍の雫を使っていた後遺症か。
ティアの魂が龍のマナに染まって、人間でありながら龍人へと進化しようとしている証、か。
砕けた龍の雫が彼女の魂の奥底に溶け込んで、そしてその魂の奥底でもう一度形を成そうとしている。
「ねえカイヤ。ティアがこうなって何日経つ?」
「ああ、レヴィア様。もう3日です。レティーナも回復呪文を使ってくれていましたがどうにも治らなくて」
まあ、そうだろう。
ううん、逆に回復呪文を使ったおかげで変化が長引いてしまったといったところか。
「大丈夫よ。このままもう一晩ゆっくりねれば多分、ティアも目を覚ますわ」
わたしはそういうと心配そうにベッドを覗き込むカイヤを抱き上げて。
そしてその頭を撫でてあげた。




