正い物語を。
開いた指先に光弾を五つ浮かべ、そのままはじく。漆黒の化け物たちにぶちあたり次々とそれの機能を止めていくその光。
空間がまるで液体のようにねっとりと感じるせいか声が出にくい。
「これでおわりだ!」
シルヴァが最後の一体を薙ぎ倒したところで聞こえてきたこの声も、音として聞こえてきたのかそれとも魂に直接響いてきたのかわからない。念話みたいに聴こえてきてる? そんな気もしないでもないけど。
全ての夢奴が沈黙した後、シルヴァは空に向かって叫ぶ。
「見ているんだろう? 出てきたらどうだ、管理者よ!」
「ワタシは管理者、じゃ、有りませんよ? 魔・ギア シルヴァガント」
「じゃぁなんだっていうんだ? 俺がこの世界に生まれた時もここに居ただろう? そうして俺がこの姿に進化したことだってお前の差金ではないのか?」
「ワタシの、といえばそうですね。記憶のないセリーヌは危険でしたから、あの子の記憶にあったあなたの姿を魔・ギアに植え付けたのは間違いないのですが」
空間にぼんやりと少女の姿が浮かび上がった。
「お前は敵、なのか? それとも」
「ふふ。ワタシの名前はマリン。この電脳の海に浮かぶ意思。敵かと問われれば違うとお答えしますが、味方かと聞かれるなら返事はノーです」
「まあ、いい。セリーヌの命を狙った事故、あれはお前の仕業か?」
「この世界は現在マザーの管理下にありますからね。あれは彼女の導き出した答えの一つではあったようです」
「あの事故の結果、ここにはラギレスの干渉が始まった。それは把握しているんだろう? 魔・ギア フニウの姿をして現れた彼女を」
「ええ。なかなか興味深い邂逅でしたわね。あのような上位者の存在は想定はしていましたが実際にああして確認できるなんて。至福な時間でした」
「だったら」
「ああ、お待ちくださいなシルヴァガント。ワタシ自身は今のこの結果にも満足しているのです。ですからあなたの希望にはお答え出来ませんしそういった意味であなた達の味方ではあり得ないとお答えしたのですわ」
「お前、わかっているのか? 今のこの世界が書き変わってしまっていると」
「であればその象徴があなたでしょう? 本来のストーリーではあなたは存在しなかった。ラギレスの干渉があなたを産んだのではなくて?」
はう。なんだか難しい話になってるけど。
——ラギレスを救うのがデートリンネの希望だった、よね? 彼女を本来の姿に戻すってことは……
うん、アリシア。この世界から彼女が干渉したことで起こった結果を無くすっていうことになるのかな……
それって、ちょっと。
「ねえシルヴァ? あなたの希望って」
あたしは横から口を挟む。シルヴァが一体どうしたいっていうのかを確認したくって。
「俺の希望はセリーヌの幸せだ。彼女が本来の人生を送って欲しい、それだけだよ。たとえその結果が俺自身を犠牲にすることとなっても」
そう優しい笑顔をこちらに向けたシルヴァ。その瞳には何事にも揺らがない決意の色が垣間見えた。
申し訳ありません。
今のこのお話は「三度目の転生は猫でした」第三部、マシンメア=ハーツの世界の時間軸、悠希ちゃんマシンメアとマシンメア本編の間の世界になります。
ラギレスが「どんな犠牲を払っても」との決意のもとマシンメアの世界に干渉した結果変わってしまった世界。
世界に散ったラギレスのレイスのカケラ。
このお話はそのラギレスの救出をデートリンネに依頼されたレティーナのお話、なのでした。
ちなみに「転生したら悪役令嬢だったので〜」の終盤にもこのお話は関わってきます。
お話の枠を超えて繋がっているこの「あたしの内なる世界」ワールドなのです。とっ散らかっててごめんなさい。




