ケンタウリ。
目の前にあるケンタウリ遺跡。
「あれ、マヤ文明のピラミッドって知ってたらそんな感じだけど、わかる?」
そう言うアジャンさん。
「知ってる。っていうかアジャンさんの居た世界って、あたしの世界と一緒?」
「ああ、それはわからないけど結構近い世界なのかもな」
「西暦で言ったら何年?」
「2020年?」
「はう。あたしの前世、2000年になっばっかりくらいだった」
そう。瑠璃の世界はそんな時代。はっきりしないけど世紀末を無事超えて二、三年過ぎてた記憶。
今のあたしの中にサーラだった時の記憶、瑠璃だった時の感情も残ってる。
アリシアから流れてきたあの世界の神様だった頃のことも、理解できる。
でも。
あたしがレティーナだっていう自我はそのまま、だ。
色んな記憶、感情は、夢で見たもう一人の自分、そんなイメージ?
寝て起きた時にみていた夢、そんな感じ。
今のあたしとは別人だ。そう認識できるのだけれど。
「まさかの年上?」
はう、
「今のあたしは生まれてから18年しか生きてないもん! アジャンさんひどい!」
あたしはほおを膨らまして抗議する。前世は前世。今のあたしはまだ若いもん。って。
あの後。
あたしとシルヴァさんがこの世界のお姫様セリーヌに会いに行くと話した時、アジャンさんは一瞬複雑な顔をして。
「あたし、いや、俺も一緒に行く」
と、口調までも完全に男の人みたいになってこちらを見た。
真剣なその目にアジャンさんにも何か譲れないものがあるんだなっていうのはわかったけど、それ以上は口をつぐむ彼女。
シルヴァさん、
「まあいいけど。会いに行くって言っても直接行っても難しいだろうしなぁ」
「え? どうするの?」
「とりあえずケンタウリの森に行く。セリーヌと俺がはじめてこの世界に来たのがあの場所だったし、何かとっかかりになるものがありそうな気がする」
「っていうかセリーヌがはじめて来た場所? セリーヌって元々この世界の人でしょう?」
「うーん、どう言ったらいいかな。この世界のセリーヌにはちょっと複雑な過去があってな。そこのアジャンと幼馴染だったのさ。地球の日本で」
はう。
あたしにはわからないような過去がアジャンさんとセリーヌにはあったのかなと、その真剣な眼差しを見つめ返すあたし。
すっと目をそらすアジャンさんにそれ以上のことを聞くことはできなかったけど。
あたし達はそうしてケンタウリの森の奥深く、遺跡がすぐ目の前に見えるそんな場所までやってきたのだった。
☆☆☆☆☆
ピラミッドの手前。森がひらけたその場所は周囲にある鬱蒼とした樹々の隙間に開いた円形な空間だった。
目の前の石段を登るシルヴァについて行くあたしとアジャン。
よっこらとその石段の頂上に着いたところで周囲の空間が歪む。
「間か」
シルヴァがそう呟いた。
空気の流れまで止まり、そうまるで時間さえも止まったかの様な灰色の空間にあたしたちは迷い込んでいた。




