ゲームの勇者。
「かんぱーい」
はう。
ビアのジョッキを持ち上げてカチンと合わせる。
完全に日本式の乾杯で盛り上がるこの人たち。っていうかここでもこれは普通なの?
今日は狩が上手くいったからその宴会だとあたしも連れてこられたこの場所山猫亭。
あたしの世界にもあったお店とおんなじ名前のこの店は、中の作りも似通ってる食堂だ。
まあ違うのが向こうの方がちょっとおしゃれ感が強く、こっちの方は粗野な大衆的な造りって感じがする所?
テーブルや椅子もこちらの方がざっくりとした丸太を削ったものだったりで彫刻とかは無い感じ。
まあそれはそれ。
今あたしの隣にはアジャンさん。タクマ、シルヴァ、そしてドワンにミケル、カミエルにジュール。他にも女性陣が居たと思ったけどその人たちは別行動らしい。
っていうかなんであたしまでここに?
って思ったけどアジャンさんに強引に連れてこられた。まあ美味しいもの食べさせてくれるっていうし、危険は無さそうだし、まあいっかって思ったのも事実。
メニューは色々有ったけど皆お肉とビアを頼んでて。あたしだけオムライスを頂いた。
お金ないよ?
そう話したけどそこも「任せとけ」の一言でおわり。
って、あたしってそんなに幼く見えるんだろうか?
もうじき18になるっていうのに見た目はまだ15歳くらいに見えるらしいとはティアに言われてたけど。
っていうか今じゃティアの方がお姉さんに見えるらしいとは言われるけど!
ほんとふにゃぁ。
だけど。
子供っぽく見えるお陰でこうしてご飯奢って貰えるのなら、まあそれはそれで良しとしよう。
ほんとこのオムライス、美味しいんだもの。
とろっとろの卵がふわふわで。中のチキンライスも絶品の美味しさだ。
ふふ。
思わず笑みが溢れるよ。
「やっと笑顔になったな」
あたしの顔を覗き込んでそう微笑むアジャンさん。
はう。このおねーさん、なんだかすごく美形だ。
粗野な口調でこの容姿。なんだかそぐわないように思えるけどそこがまた魅力になってる。そんな感じ。
「そういえばまだしっかり名前名乗って無かったっけ。あたしの名前はマハリ。マハリ・アジャン。クラン『竜血の炎』のアストリンジェン支部を任されている」
はう。偉い人?
「あたしはレティーナ。姓はありません」
とりあえずそう名乗る。
「なあ、レティーナは何処から来たんだ?」
はう!
いきなり本題に入りますか!?
「言わなきゃ、ダメ、ですか?」
異世界から転移してきましたなんて言っても信じてもらえるかどうかもわからない。ましてや神様から頼まれごとをしてるだなんてそんな事。
「まあまあねーさん。完全に警戒されてるぜ? そんな調子じゃこの子も何もしゃべれないだろうさ」
ちょっと軽めの男性。アジャンさんをねーさんって呼ぶのはこの人だけだけどもしかして兄弟?
っていうかそっちのシルヴァさんの方がアジャンさんとよく似てる。まるで男女の双子みたいに見えるくらい。
「俺はタクマ。これでも勇者タクマって通り名だったんだぜ? まあ勇者ってなんだよって感じだけどな」
へ?
勇者?
この世界、そんな勇者とかがいる世界なの?
「まあ勇者なんてのはゲームの中の設定だしな。こんな現実世界じゃ何の足しにもなんないけどさ」
んん?
「ゲーム?」
「お! 食いついてくれたか! なあ嬢ちゃん、ゲームって、わかるか?」
ええ?
「もしかして、日本って、わかるか? 地球、日本、そんな言葉、聞いたことある?」
はい!?
え?
どういう事?
「タクマさんって……、もしかして日本人?」
まさかと思いつつ、あたしはそう口走ってた。




