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黒焔の帝は存命中  作者: ピッコロん
一章 唯一の生き残り
9/13

9 襲い来る大蛇

「おいおい、勘弁してくれよ…。」


目の前に広がるその光景に言葉が詰まるオリントラ。


それもそのはず、目の前には掃除に飽きた子供たちが雑巾をつかってスケートをして遊ぶ姿があったからだ。


「ひゃっほーい!」


二枚の雑巾を足で踏んでつるつると滑って遊んでいる。マルクもその輪の中に加わっていた。一応床を拭いていることにはならないわけではないが適当に滑っているだけなのでそんなにきれいになるはずもない。

さっきまでいい感じの雰囲気になっていたのに、やはり所詮は子供か。がっがりしたオリントラ。しかしマルクまでもその輪に加わっていることはなぜかむかつきを覚えた。


「なにやってんだ!!まだ全然そうじおわってねぇぞ!」


すこし怒鳴ってみる。すると子供たちは


「キャー、怖いー!」


「怪獣おこりん坊だ!逃げろー!」


などと余計騒がしくなってしまった。


「もう、めんどくさ。こうなったら俺も遊んでやるよ!!」


「兄貴!?」


やけくそになったオリントラは雑巾二枚を手に取り、それを足で踏みつけて床を猛スピードで滑り出す。


「いいか!?本当の滑りっていうもんはこういうことだ!」


鮮やかに滑る。室内の中を大きく優雅に使い後ろ向きで滑ったり、片足で滑ったり、小さくジャンプしたり…。


「すごい!!」


驚く子供たちのなか、一番興奮した様子なのはマルクだ。


「どうやているの!?なんでそんなに長く勢いが続いているの?」


「さあな、これも感覚が物を言うから俺には何とも言えないな。」


「僕にもそれ、教えてー!」


「背中に乗せてよー」


結局その後はスケート遊びが続いて掃除が全然終わる気配が見えなかった。



――

「はー、やっと終わったよ。」


「もう僕くったくただ。」


倒れこむ子供たちとマルク。


「誰だろうな、掃除の途中で飽きて投げ出して遊び始めたのな。」


オリントラがあきれた様子で倒れこんだ子供たちを見つめる。


その後もスケート遊びが続いた。それによって埃が舞い上がって余計に部屋が汚れてしまい、それを掃除するのがとても大変だったのだ。


「兄貴も途中からスケートで遊んでたじゃん。」


言い返すマルク。子供たちもうんうんとうなずいている。


「さあなんのことやら俺にはわからないな。」


オリントラの、知らんぷりにはマルクも苦笑いをしてしまった。


「僕たちさあ、シフォニーお姉ちゃんと遊ぶつもりだったけど結局お掃除をして疲れただけだったなぁ。」


「そうだよ。ほんとだったら今頃シフォニーお姉ちゃんとかくれんぼでもしていたんだけどね。」


子供たちは床に大の字で転がりながら愚痴をぼやいている。


「いや、最初に掃除を手伝ってもいいと言ったのはお前たちの方だろ…。」


やれやれとため息をつくオリントラ。

しかし


「でも、お掃除頑張ったから、シフォニーお姉ちゃんに褒めてもらえるかな。」


「いっぱい手伝ったんだから今度は僕たちとたっぷり遊んでもらうからね!」


と子供たちは掃除を頑張ったことに対してはそれなりの達成感を覚えたようだ。

さらに

「お兄ちゃんたちとスケートで遊んだのも楽しかったよ!」


「そうそう、オリントラお兄ちゃんが手を引っ張ってすごいスピードで滑らしてくれたの面白かった!けどちょっと怖かったけど…。」


「おんぶして滑ってくれたの、楽しかったよ!」


「マルクお兄ちゃんが盛大に転んだの面白かった!」


子供たちはオリントラとマルクに笑顔を見せた。


「さぁな、何のことでしょうかね。」


いまだに知らないふりをするオリントラと顔を赤くしたマルク。


そんな二人に子供たちは


「一緒に遊んでくれてありがとう。また遊ぼうよー。」


と無邪気な笑顔を見せてきた。


オリントラはついに懲りたのか


「わかったよ、また今度遊んでやるよ。」


と答えたのだった。



「それにしてもシフォニーのやつはこいつらを置いて、何やってんだ?さすがにそろそろ俺たちの方に顔を出してもいいころだろ。」


オリントラはあの妖狐のことを思い出す。


「そうだね。なんかすごく大変な用事だったのかな。」


マルクも不思議そうだ。

オリントラはこれまでのことを思い返す。

ゴーストたちと戦っていた時に現れたシフォニー。戦いのさなか、助けてもらった。

そのまま成り行きでここに案内してもらい、ご飯もおごってくれた。

相当なお人好しなシフォニーは子供たちの面倒も見ていて、オリントラはそんな彼女のことを思って掃除を手伝ってあげた。でもシフォニーは子供たちを置いてどこかへ行ってしまって結局オリントラとマルクがこの子供たちの面倒も見ることとなった。


彼女と会って一日と経たないのに何か関わりすぎなのでは?

なにか、引っかかるような気がした。違和感を感じた気がした。なにか見過ごしたことはないか…。オリントラは頭を回らせる。

彼女は本当にお人よしなのか?オリントラとマルクをここに招き入れたのはお人よしだから?ご飯を食べさせてくれたのもお人よしだから?


「兄貴?大丈夫?」


途端に黙り込んだオリントラを心配したマルクが声をかけてきた。


「あ、ああ。大丈夫だ。何でもない。」


「そう。」


その時、なにやら背後、部屋の外の方から危険な気配を感じた。オリントラだけではない。マルクもなにやらソワソワしはじめた。


それと同時に何やらズルズルと引きずるような音も聞こえてくる。


「兄貴、なんかやばいものが近づいてきてない…。」


子供たちも音に気付いたのか顔を見合わせ、あたりをきょろきょろとみている。


静まり返る室内。



ドタン!!


刹那、部屋のドアである障子が勢いよく倒れるとともに奥から巨大な蛇が、大きな口を開けて飛び込んできた。





大きな音とともにそこには倒れた障子、その上に乗る巨大な大蛇がいた。


誰も動けなかった。その威圧感と恐怖の重圧からか。

その大蛇は赤い目の鋭い視線で部屋をぎろっと見渡した。オリントラは大蛇と目が合う。大蛇はオリントラのことを鋭くにらみつけ、今にもとびかかりそうな姿勢をとった。それに対してオリントラもとっさに体を身構える。

しかし大蛇の視線はその横、恐怖のあまり動けなくなっている子供とマルクの方へ泳いだ。


そして、大蛇は大きな口を開けてオリントラのもとへ…ではなく、子供たちのもとへと跳躍し、飛び掛かっていく。一瞬の出来事だった。考える暇もない。


マルクは大蛇が向かってくるのを見ると恐怖ですくみながらも、子供たちの前に出て腕を広げ守ろうとした。しかし大蛇の大きな口はそんなマルクと子供たちをも一飲みにしそうな大きさと勢いであった。口からは鋭い牙が二本見えている。

マルクはぎゅっと目をつむった。


だめだ、もう間に合わない。僕には戦う力はないし、兄貴もこの距離じゃ間に合わないだろう。


マルクはそう思った。いまだ頭は混乱したままだが確実に死が迫っていることくらいは容易にわかる。


グサ!!


あたりに何かが噛みつかれる音が響いた。そして数秒の静寂が訪れる。


マルクは訪れるはずであろう痛みと死が来ないことに困惑して、目を開けた。


そこには一人の人影…両腕で大蛇の巨大な口を受け止めるオリントラの姿があった。


「くっそ、痛ってぇ。」


腕から赤黒い血が滴っている。


「兄貴…!?だっ大丈夫!?」


「ざまないな。でもギリギリ間に合ってよかったぜ。」


オリントラそういいつつ大蛇の顎の力と格闘する。


「お前は子供たちをどっか後ろへ避難させとけ!こっちは俺に任せろ。」


「うっうん、わかった!」


マルクは大蛇のことを去り際、一瞥する。

一瞬の出来事すぎて何も理解できなかった。この大蛇は頭からしっぽまで20mほどはあり、胴回りもまるで土管のように太い。全身茶色いうろこに覆われて大きな口と噛まれたら確実に噛み千切られそうな大きな牙が目立つ。


マルクは恐怖で動けそうにない子供は肩に抱え、なんとか動ける子供たちを連れじりじりと後ろに下がった。


いったい今何が起こっているのかマルクには理解できない。ついさっきまで掃除をしていたらいきなり現れて襲ってくる巨大な蛇。その蛇を食い止めるオリントラ。この蛇はいったいどこから来たのか?もしかしてこの町この神社にまよいこんできたのか?なぜ襲ってくるのか?なにがなんだか。しかし今は考えることより子供たちを守ることが大切だ。


オリントラはマルクと子供たちがこの場から離れていくのを確認して大蛇に向き合った。


「お前、出会い頭いきなり襲ってくるなんて失礼だぞ?親にマナーを教わらなかったのか?」


大蛇はオリントラの腕にかみつく力を緩め、振りほどく。オリントラの腕からは傷口から血が噴き出した。

そしてマルクや子供たちの方へ目線を向ける。


「おいおい、お前の相手はこの俺だ!」


オリントラは大蛇の前に立ちはだかる。


「俺の大事な腕に傷をつけたんだ、片をつけてもらうぜ!」


オリントラは大蛇に向かって飛び込んだ。大蛇は向かってくるオリントラに対し鋭い牙を向けようとした。しかしそれは間に合わない。オリントラの強烈な打撃が大蛇を襲った。大蛇はそのまま部屋の奥へと吹っ飛ばされる。


大蛇は飛ばされ床に倒れたが、すぐに体制を整え、オリントラに向き合った。シューと低い音を出して威嚇している。


オリントラも目線を一切大蛇から離さない。



数秒にらみ合いの牽制が続いた後、再び大蛇がうねる体をしならせ、とびかかってきた。



「また同じ手だ。」


再び向かってくる大蛇にオリントラも今度はかがみこんで大蛇のはらわたを狙う。

しかしわずかに狙いはずれて、大蛇の体にかすり当たるのみだった。

そしてそのまま大蛇とオリントラは交差し、互いの位置が反転したところで方向転換し、再び互いに飛び込む。


「くそ、戦いにくいんだよ、ここ。」


今度は大蛇が尾を先頭にし、鞭のように動かしオリントラの体を狙う。


オリントラは鞭のように向かってくる尾を胴と両腕で抱え込み、そのまま流れるように思いっきり投げ飛ばした。


再び大蛇が飛ばされていく。


「ひとつ言っておこう。お前と俺には圧倒的な格差があるんだぜ?その程度じゃ勝てないぞ。」


土煙がたつ室内。床はボコボコになって穴も開いていた。


「それとお前はなんの目的でここに来て、なぜ俺たちに襲い掛かるんだ?単純な食欲か?それとも……誰かに命令されたのか?」


土煙の向こうに大蛇が大きな体を起き上がらせるのがぼんやりと見える。オリントラの問いに対しては何も答えない。所詮魔獣であるから言葉が通じないのは当たり前だった。

この魔獣がどこから来て何のために襲い掛かっているか、オリントラはもうなんとなくわかり始めていた。

大蛇は再び体制を立て直した。そしてまた体をうねらせオリントラの方へ向かって来ようとするのが見えた。


「何回やっても同じだってこと教えてやるよ。」


大蛇は今まで以上に体を縮ませ、思いっきり飛び込んできた。そのスピードはすさまじいものだ。瞬き一つで目の前に迫ってくる速さである。

オリントラは右手をぐっと握り締め打撃の準備をする。

そして目の前に来た瞬間、オリントラは大蛇の顔面に向かって思いっきり拳をくりだそうと…

「!!!」


しかし大蛇は突如口から紫色のブレスを噴き出した。毒霧だ。その毒霧はオリントラの全身を襲った。


「くっ」


そこに大蛇が襲い掛かっていく。

そしてそのまま大蛇もろとも毒霧にもまれ二体の姿が見えなくなった。


「あっ兄貴!?」


マルクは見えなくなるオリントラに叫ぶ。毒霧は降りかかった生物すべてを溶かしてしまう強力な酸だ。助けに行きたい気持ちでいっぱいだが自分が行ったところではなにもできないことくらいわかっていた。


その一瞬が何時間にも思えた。毒霧の中でなにやらドタバタという音が聞こえるのみ。


中から何かが出てくる。そこにはオリントラと大蛇の姿があった。オリントラがドロドロに溶けていないことにマルクは安堵した。

しかしオリントラは大蛇に巻き付かれて身動きが取れない状態だった。


オリントラは身をよじる。しかし大蛇は、無駄だ、と言うように余計に締め付けを強くしていく。


「っぐぅ」


オリントラが苦しげに声を漏らす。大蛇は勝ち誇った顔でオリントラを締め続ける。


「兄貴――!!」


マルクは今にも飛び出そうとする。しかし足が動かなかった。恐怖に体が支配されたままだった。


「くっそ!動けよ!この足!うごいてよ!今すぐ助けに行かなくちゃ!僕の唯一の兄貴を失いたくはないよ!!」


しかしマルクの叫びは通じず、足は動かなかった。オリントラが遠くでだんだんぐったりとするのが鮮明に見えた。


「ああああああああ!」


叫び声が響く。この叫び声はマルクのものである。


しかしマルクのものだけではなかった。オリントラのものでもあった。


ハッとマルクはオリントラの方を見る。


そこにはオリントラの姿が、両腕が大きな鍵爪となっているオリントラがいた。オリントラはその鍵爪で大蛇の体を切り裂いた。深い三重の傷が大蛇を襲い、痛みで大蛇は暴れ、オリントラは投げ飛ばされた。


そのままオリントラは華麗に着地し、大蛇は痛みに悶えている。鮮血が流れていた。

どうやら生きていたようだ。マルクは笑顔になった。


「はぁ、はぁ、お前もなかなかやるな。危ないところだったぜ。なにせ息ができないんだから。…あと、いきなり毒霧なんてせこいぞ?目くらましと不意打ちとしては最強だな。」


オリントラにやりと笑った。大蛇は痛みを我慢したのかオリントラの方へ冷静に向き合った。


「俺も久々に一発かましてやるよ。こちとら制約が多すぎるこんな暮らしにも飽き飽きしていたんだから。ちょっと付き合ってもらうぜ!?」


オリントラは二本の腕を広げ、足で地面を蹴り飛ばし、大蛇の方へ直行する。その速さはこれまでの中で一番速く、目でとらえることができないような速度だった。一瞬で大蛇の目の前に来たオリントラ。大蛇はその速さについていけず行動がワンテンポ遅れる。

オリントラはその隙を見逃さない。大蛇のように大きな口を広げた。そしてそのままその口から炎、ただの炎ではなく、黒い焔を吐いた。


その黒焔は大蛇を一飲みに包み込む。大蛇はその炎に悶絶する。


オリントラはそのまま大きな鍵爪を横一文字に振りかざし大蛇の体を二等分する。あっというまの出来事だった。


もう大蛇は動くことはなかった。半分に分かれた大蛇の亡骸と、それを燃き尽くす黒い炎がメラメラと残っていただけだった。


「はぁ、すっきりしたー。」


最後にオリントラは口から黒い煙を漏らしながら大きな伸びをしたのだった。


面白かったら評価よろしくお願いします。

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