6 妖狐シフォニー
「うーん…。」
気絶していたマルクが目を覚す。マルクは地面からゆっくりと起き上がった。
「…?なんか最後空中を浮遊してたような…、あっゴースト!ボーっとしている場合じゃない!戦わないと!」
マルクは慌てて周りを見渡した。しかしもうゴーストの姿はどこにもない。そこには何もなかったようにしているオリントラともう一人、見かけない姿があっただけだった。
「よ、妖狐?いったい誰?」
もちろん関心はその妖狐に向けられた。
その妖狐は身長は150㎝くらいで黄色い長い髪からもふもふの耳が二つ生えている。
薄い肌色の肌に赤い瞳、赤と白の巫女服を着てこれもまたふさふさの長い尻尾が一つ生えていた。すらっとした体格はとても美しかった。
「お、眠り王子マルクやっと目覚めたか。安心しろ。もうゴーストは倒されたぞ。」
オリントラが頭上から声をかけてくる。
「お前が気絶している間にこの妖狐が俺たちを助けてくれたんだ。」
オリントラは妖狐を目で指さす。
「あなたは誰…?」
マルクは妖狐にむけて声をかけた。
その妖狐は小さくコホンと咳払いすると、
「わたしは妖狐のシフォニー、あなたの敵ではないから安心して。」
と笑顔で言った。
マルクはその透き通るような笑顔に思わず見とれてしまう。
「あっそうだ、僕の名前はマルク、エルフだ。助けてくれたんだって?あっありがとう。」
マルクは照れ隠しをしながら言う。ぎこちない動作は異性に慣れていないところもあるかもしれない。
「俺はオリントラ、こいつと冒険者やっているものだ。俺からも礼を言っておこう。」
「礼には及ばないわ。いつものことだもの。」
シフォニーは小さく微笑んだ。
「いつものことって?」
マルクが聞く。
「私はねここポイポイ地区に迷い込む旅人とか小さな子供とかをこうやって駆けつけて助けてるの。今までに何回もここで人助けをしてきたから慣れちゃったわ。今日もこの騒ぎを聞きつけて飛んできたわ。すごく外まで響いていたわよ。来てみたらなんか空で戦ってておどろいたわ。」
シフォニーはオリントラとマルクの戦いに気付いて助けに来てくれた。しかしあの女ゴーストはオリントラ一人で倒せた。多分騒ぎを聞きつけて来て、女ゴーストがオリントラに向かっていくのを見てオリントラが劣勢に見えたのだろう。
とっさに魔法を放ってオリントラを助けたのだ。
できれば自分の手でスカッと倒したかったのがオリントラの本心だが、良心から助けてくれたことには感謝しようと思った。
「でもなんで僕たち助けに来てくれたの?」
マルクが不思議そうに聞く。
「なぜってそれは人が空中で襲われていたり小さい子がおそわれているのなんて見るに堪えないもの。」
小さい子と聞いてオリントラはすこしおかしくなった。
「知らない人なのに?」
「知るも知らないも関係ないでしょ。」
どうやらこの妖狐は相当なお人よしであるようだとオリントラは思う。自分の身を危険にさらしてまで他人を助けようとする、ここにもそういう他人のことを考える人間がいたようだ。
マルクはそんなシフォニーに感激したのか目を輝かせている。
「でもあなたたちに怪我がなくてよかったわ。」
シフォニーは今更ながらほっと安心したようだ。
「それと疑問なんだがあの黄色い光はなんだ?あとそれによってゴーストたちが消滅したってことはあいつらは死んだのか?」
オリントラが先ほどから気になってたことを聞く。ゴーストが消滅するなんて聞いたことがなかったからだ。
「あれは妖術の一種よ。詳しいことは教えられないけど太陽の光が源になっていてゴーストたちにはよく効くの。あとあいつらは死んでないわ。仮死状態に入ったのよ。ゴーストは己の体力が減ると体が消滅して仮死状態になるの。大体三日ほど経って体力が戻ったらその体は回復するわ。」
「ひぇ、じゃあ三日たったらまた復活するってこと?復讐されに来そうでこわいよ。」
顔を青ざめ、割と本気で怖がるマルク。
「お前のところによるにやってきて襲われるかもよ?」
「うひゃー!!」
マルクが怖がるのをみて笑うオリントラ。
「ともかく、あなたたちはなんであんな危険なところにわざわざ近づいていったの?自殺行為よ。」
シフォニーが怒った口調で言ってきた。前に何人も人助けをしたことがあるからそのポイポイ地区の危険さが身に染みてわかっているのだ。
「俺もできれば行きたくなかったさ。でも仕方なかったんだ、仕事の関係上な。」
「何の仕事よ?」
シフォニーが根掘り葉掘り聞いてくる。
オリントラとマルクは顔を見合わす。まぁ少しくらいなら話しても大丈夫かと二人はアイコンタクトをとった。
「俺たちは15年前の出来事について、なにか知っている人がここにいると聞いてきたんだ。」
とオリントラは端的に言う。
するとシフォニーは
「15年前って、それは竜戦のこと?」
と驚いた顔で言った。
「そうだ。その顔、まさかその情報をもった人があんたってことはないよな?」
その顔を見てオリントラは聞く。
「いや、申し訳ないけどその期待には応えられないわ。15年前、私はまだ幼かったもの。」
とシフォニーは申し訳なさそうに言った。
「そうか、別に大丈夫だ。」
「結局あのゴーストたちも何も知らなかったわけだし。ということはこの鏡は僕たちに嘘を教えていたのかな?いやでもそんなはずはない!でもこれはデスサンダーが手掛けた逸品には間違いないのに。」
マルクがうさんくさい鏡を見てうーんと悩む。
「どっちにしろ無謀な捜索だったんだよ、これは。また一からやりなおそうぜ。」
最初から10万人の町から一人を探すなんて無謀だったのだ。大きな池に落とした指輪を見つけることぐらい難しいだろう。
次はどうすればいいのか何も考えが浮かばないなとオリントラは内心ため息をつく。
するとその時
グーー
と誰かのお腹からはしたない音がした。もちろんその音の主はもちろんマルクに決まっている。
「僕そろそろお腹すいたよ…。体をたくさん動かしたからエネルギーが足りないみたい。」
「ああ、そうだな。そろそろ昼飯にしてもいいころか。でも今あまりお金持ってないんだよな…。」
とオリントラは困ったように言う。
マルクはなぜかお腹が減るととてつもなく体力や知力もろもろが落ちてしまう。ただでさえ子供っぽい知性がこれ以上低下したら大変なのだ。
「ええー、もう我慢できないよ。」
マルクは両手でお腹をさすった。
「ちょっと待って。」
その時なにやらさっきから考え込んでいたシフォニーがいきなり口をはさんだ。
「もしかしたら私の仲間の中にその情報を知っている人がいるかもしれない。よかったら協力してあげるわよ?」
「本当か?」
「ええ、それとあなたたちとても疲れているようね。まぁ、あんな輩と戦ったら無理もないわね…。だからついでにちょっと食べてに来てよ。なあに、袖振り合うも他生の縁だわ!」
と笑顔で言うシフォニー。
それを聞いてお腹がすいたマルクはもちろん、その話に食いつかないはずがない。
オリントラもそこまでしてくれるのは少し気が引けたが情報を持っている人がいるかもしれないなら、とその話に乗ることにする。
しかしその二人どちらもそのシフォニーの顔に走る鋭い笑みに気づくことはなかった。
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