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黒焔の帝は存命中  作者: ピッコロん
一章 唯一の生き残り
4/13

4 ポイポイ地区へ

「いやー、久しぶりの調査だなんてもう体が震えそうになるよ。なんだか吹く風が気持ちいいな。」


二人は屋敷を飛び出し道なりに歩いていた。周りはたくさんの店が立ち並び、買い物に来た主婦と売り手の会話で騒がしい。


「ああ、そうだな。でも気を締めとくんだぜ。これから向かうのはポイポイ地区周辺だからな。ちょっとでも油断してたら身に着けてるもの全部はがされてすっぽんぽんにされるんだぜ?」


「ひい!恐ろしい!」


オリントラのからかいに相当ビビるマルク。それを見てオリントラはゲラゲラと笑う。


「ま、俺がついている限りなんも起こらないけどな。」


「なっ何か起こらないように祈っておくよ…。」


マルクは両手を合わせ祈りをささげる。何に祈りをささげているのか知らないが、どうせ神だのなんのに向けてだろう。いるわけないのに、とオリントラは思った。


「そんでどうやって探そうか。単純に聞きこみで探すんじゃ効率悪いぞ。二手に分かれようにも、絶対お前が何か事件に巻き込まれるってことはもうわかっているからな。」


オリントラはマルクを横目に見る。マルクはエルフの16歳だ。もういい年しているがまだ心は幼いみたいで後先考えずに突っ走るところがある。なのでよく事件に巻き込まれる。それだけでは問題ではないが、彼は中二病っぽいところがあるのだ。ただのオカルト好きということもできるが、たまに破壊神デストロイド、とか諜報組織デスサンダーとかよくわからないことを言うときがある。そういうときのマルクはいつもと違って考えが短絡的になるのだ。

今日も変なことを言いださないか少し心配になるオリントラ。


「じゃあ兄貴の能力でさ、千里眼!みたいなのないの?一発で見つけることができるとか。」


「あほか、そんなことしたら魔力がもったいないじゃないか。まあ、そういう手もありだがこの体じゃ全力をだせないから難しいな。」


「それなら仕方ないかも。」


いっそのこと高いとこから探すのもありかとも思ったがそれはリスクがありすぎるのでオリントラは心の中で却下する。


「結局のところ地道に探すことしか道はないかもな。」


あまりにも大変だがリスクを見るとそれが最善策であることには変わりない。


「そうだね。僕もそう賛成したいところだったけど。でもね、喜べ兄貴!実は秘密兵器があるのだ!」


「うん?」


これは、とオリントラはすべてを察した。


「ジャーン、この人探し検知鏡があれば一発だ!」

大声を上げてマルクがバックから取り出したのは皿一枚分くらいの大きさの鏡だった。


「なんだそれ。」


その鏡は鏡面なめらかで傷一切く、周りの景色をきれいに映し出している。土台は茶色っぽい陶器でできており、幾何学的できれいな模様が刻まれている。落としたら粉々に割れてしまいそうだ。


「これはね、かの有名な諜報組織デスサンダーが作った魔法の鏡なんだ。すごい貴重なものなんだよ。いやー、手に入れるのがとても大変だったよ。これを使えば探し物がどこにあるか鏡に映し出されるんだ。」


デスサンダー?胡散臭いオカルトだ、諜報組織という名目がさらに怪しさを増しているとオリントラは思う。しかしマルクは本気で信じているようなのであまり核心には触れないで置いた。


「ふうん、ちょっと見せてみろ。」


「壊さないようにね。」


オリントラはマルクから鏡を受け取った。見た目通りずっしりとした重さをした鏡だ。しかし作りは単純でただ陶器に鏡を張り付けただけだと見てわかる。こんながらくたを騙されて買わされたと思うとマルクの幼稚さにオリントラは切なくなる。


しかしこんな鏡をマルクが買っているなんて把握していなかったことが問題じゃないか!?とオリントラは気づく。

どうせこの鏡はぼったくり価格なのだ。マルクがほかにも同じようなのを普段からたくさん買っているとなると道理でお金が全然たまらなかったわけだと今更ながら気づいた。


オリントラは手に魔力を込める。この鏡にかけられた術式を確認して本当に探し物ができるのかを確かめるのだ。


「ふうん、なるほど。子供のお遊び程度の術式がかけられているだけだ。」


オリントラは小さな声でつぶやく。

この瞬間、この鏡ががらくたであることが確定された。


オリントラはあえてマルクにこの鏡はただのがらくたであることは言わないでおいた。哀れなマルクを少しでも傷つけないためだ。その代わり、勝手にいらんものを買い込むことに対して、


「おいお前、次俺かデニスに内緒でそんなもん勝手に買ってきたらぐちゃぐちゃに引き裂いて骨ごと残さず食っちまうからな??」


とすごい形相をして上からマルクをにらめつけた。


「!!?、あ、あ、ははい、わかりました…。み、ミンチにはしないで!」


マルクは突然のことに驚き恐怖で腰を抜かしてしまった。また自分がなぜいきなり怒られたのかわからないみたいでポカーンとしてる。


それから10分ほどしてマルクはようやく立ち上がることに成功した。


「普通の人間なら、そんな脅し方はしないって…。」


「そうなのか?これが普通なんだが。」

ミンチうんぬんと勝手に拡大解釈していたのはマルクの方だが。


「恐ろしすぎるよ…。それじゃこの鏡を使って探そうよ。」


マルクは恐る恐る鏡をオリントラに見せる。


オリントラはもういいよと小さくいった。


その鏡が単なるがらくたあることはオリントラにはわかっていた。

だからそれを使ったとしても見つけられるわけがない。だからその案は却下するつもりだった。


しかしだからといって聞き込みだけで探すのも非常に難しいだろう。ポイポイ地区の人々ならうそを平気でつき、さらに情報料と言ってお金を請求されるかもしれない。


またその鏡には子供のお遊び程度の術式しかかけられていないと言ったが魔術とは不思議なもので、術式の形式なんて単なる表面上の情報にすぎないのだ。


例えば見たところ水を出す術式であるものが実際にはダイヤモンドを生成するものであったりする。だからもしかしたらその術式にもとんでもないものが隠されているのかもしれない。

またマルクが選んだものなら少しぐらい信じてみてもいいんじゃないかと心の隅で思う自分がいたからだ。

オリントラはその少なからずの可能性にかけてみることにした。



「そうだな、その鏡にかけてみるか。そんでどうやって使うんだ?」


マルクはオリントラが肯定してくれたことに笑顔になる。


「呪文を言うんだ。探す対象は心の中で考えるだけでいい。じゃあ早速いくよ?」


マルクが呪文を唱える。と同時に鏡が光りだした。




――


マルクとオリントラは薄暗い道を歩いていた。地面は黒く薄汚れ、周りはゴミが散乱し、強烈なにおいを放っているものもちらほらと見かける。


ここはポイポイ地区のとある一角の道であった。ここポイポイ地区はほかの場所とは大きく違った印象を持ち、塗装が剥がれたり壁に穴が開いているボロ家が立ち並び、みすぼらしい姿の野犬が走り回っていた。よほど部外者が立ち寄らないのかオリントラとマルクは路上ですれ違う人や家の中からににらまれつづけている。


「やっぱり恐ろしい街だ、ビビッておしりから尻子玉がぬけそうだ。ブルブル」


「尻子玉が抜けるとどうなると教えてやろうか?」


マルクとオリントラは小声でひそひそと話す。マルクは雰囲気に耐えられなくて今にもにげだしそうな様子だ。しかし光って方向を示す鏡を頼りに何とか歩けているようだった。


「ポイポイとかいう名前と真反対な感じなところだぜ。ま、俺は嫌いじゃないけどな。」


「うう、さすが兄貴、って素直に感激する余裕がもう僕にはないよ…。」


オリントラとマルクは鏡が指す方向へと進んでいた。

初めオリントラは鏡が本当に道を示したことに驚きが隠せなかったが、本心、適当な方向を指しているだけだろうなと思っていた。でも一応デニスの情報通りポイポイ地区の中に反応があるようだった。


一行はポイポイ地区のさらに奥深くまで進む。


マルクははじめ

「早くしないとおいてっちゃうよー。」


と張り切っていたがポイポイ地区に入ってからすっかりオリントラの後ろに入って引き腰になってしまった。


「お前きょろきょろするなって。余計怪しまれるぞ。お前の態度を見て変に絡んでくる奴がでてくるんだから。」


とオリントラは落ち着きのないマルクを見ていう。

道中何人かのチンピラに絡まれたが、オリントラの一発の拳で黙らせてきた。

しかしあまり挑発するのはよくないとオリントラは思っていた。こういうチンピラは性格は最悪だが仲間意識はものすごく強い。住んでいる地域が同じだとみんな仲間なのだ。



「お前、ここを通るには通行料はらいな。」



建物の陰から小さな子供が出てきた。10歳前後だろうか。手にはナイフを握っている。こんな小さい子供でもナイフを持って脅してくる。生きるのに必死なのだ、とオリントラは思った。ここポイポイ地区は貧困層の集まりでもある。食料を確保するのもままならない人がたくさんいて、生きるために悪事を働いている。


「実に立派だぜ、お前。力がないと生きられない。この世界の鉄則だ。でも俺に怠慢申し込むのはちょっと幼すぎるんじゃないのか?これやるから、とっととうせろ。」


そういいオリントラはポケットから適当に20Gを投げつける。子供はお金に気付くとすぐに反応し、手ですべてキャッチした。そして小さく悪態をつくとその場からどいた。

そのやり取りをマルクはオリントラの後ろで恐る恐るじっと見守っていた。



オリントラとマルクは進みだす。すると


「おい、そっから先はボスのお宅だ。あんま近づかないほうがいい。痛い目見るぞ。」


と子供は一言残し去っていった。


見ると遠くに大きなお屋敷が見える。きっとあれがボスの家だろうとオリントラは思った。


「ポイポイ地区にもやはりリーダー的存在がいるのか。できればあまり近づきたくないな。」


無駄な争いは避けたい本心のオリントラ。しかし


「でも、鏡はそっちに行けっていってるよ…。」


鏡はそのボスの家があるの方角を指し続けていた。


「まじかよ。うん?もしやこの鏡、そのボスの家をさしてんじゃないか?」


鏡が指す方向とその屋敷の位置がぴったり重なっていた。


「ええ、そんな!ボスの家に僕たちが探している人がいるの?絶対近づいたらまずいって。にじみ出るオーラからもうやばいってことがわかるよ!。」


みじめな住宅の中に目立つ人とても大きくとてもきれいな家。まさしくそれは大豪邸だった。周りとのあまりの差に、近づきがたい雰囲気を誰もが感じるだろう。


「でもこの鏡を信じるのならあの屋敷に尋ねてみるしかない。ま、変なことしなければ大丈夫だろう。」


「うう、そうだね…。今初めてこの鏡を頼ったことを後悔したよ…。」


もっと初めから気づけとオリントラは思いつつ、逃げ腰マルクを連れ、その屋敷へと向かった。



「やっぱりここを指してるみたいだな。」


鏡を見て言うオリントラ。彼らは鏡を持って屋敷の周りを歩いたががやはりこの鏡は屋敷の中心部を指し続けていた。


「表札は、ないんだ。これじゃあいったい誰が住んでいるのかわからないよ。」


マルクは飾り気のない玄関を見て言う。

この家自体は豪華だが無駄に飾り付けてあるようではなかった。何一つかけてない煉瓦造りの屋敷でいくつかのきれいな窓が取り付けてあり、それ以外は何もない。大きく豪華だが無機質だった。


「なんて尋ねればいいんだ?マーズについてよく知っている者がいると聞いて尋ねてきました。とでも言うのか?怪しすぎるぜ。らしく、例のものを買いに来た、とか言ってみるか?」


ここにきてどう怪しまれずに聴くかに悩むオリントラ。


「もう、正直にいこう。普通にここに情報を持った人がいると聞きつけてきました。その人を紹介してください。嘘ついたら余計ややこしくなっちゃうよ。」


「それもそうだな。」


その時


「そこでなにやってんだ?」


突然後ろから声をかけられた二人、と同時に首元に何かを突き付けられた。

オリントラはその固く冷たい感触からナイフみたいなものを突きつけられているのだろうな。と判断する。

とりあえずオリントラは勘違いを避けるためにその場から振り返りもせずに動くのをやめた。

マルクは恐怖のあまり指先一つ動かせなかった。


「お前ら、わざわざボスの家の前でなにやらコソコソしているなんて怪しすぎるんだよ。目的はなんだ?」

後ろから声が降りかかり続ける。相手の声色から相当警戒しているようだ。


「コソコソしていたことは謝ろう。目的地がここであってるか確認していただけだ。敵意はない。こっちの目的はここの住民がある情報を持っていると聞きつけてやってきただけだ。それ以外何でもない。」


オリントラは前を向いたまま低い声で言う。なにか動きがあった時に即座に対応できるように後ろと首周りの気配を最大限警戒していた。


「なんだそれ。そんな怪しい者をボスに合わせるわけにはいかねえ。とっととうせな。」


肩をつかまれ引き寄せられた二人。そこで初めてオリントラはその者の顔を見た。彼らは4人でオリントラとマルクの後ろをとっていたみたいだ。

普通何か近づいたら気配で気づくはずだったがオリントラは彼らを見て納得する。彼らはゴーストなのだ。体の下半身が透明で足先はほとんど見えない。だから足音はしないし気配も全くない。気配に気づけないはずだ。


二人は囲まれながらボスの家から離れさせられていった。オリントラは最初からここに探している人がいるとは思っていなかったので別に尋ねることを拒否されてもよかったのだが。


そのとき、

「お前ら、やめな。」


オリントラ一行の後ろから声がかかる。


「こ、これは失礼しました、ボス。」

そのゴーストたちはオリントラとマルクを開放する。マルクは緊張から解き放たれてへなへなと座り込んだ。


見るとそこには一人の女ゴーストがいた。その女ゴーストはその屋敷の主であり、ここポイポイ地区のボスでもあるのだ。


「あなたが、ボスか。」


オリントラは聞く。


「そうだ。すまないな。部下が手荒な真似を。」


女ゴーストは部下のゴーストたちをにらみつけた。


「屋敷のなかからアンタラの話を聞いていたらどうやら金になりそうだったのでね。もしかしたら私の持っている情報とやらが高く売れるかもしれない。」


女ゴーストはそういうと、オリントラに目を向ける。どうやら要件を言えと言っているようだ。


「マーズについて知っている人がいると聞いてここにきたんだ。」


とオリントラは簡潔に述べた。


「なるほど。ここに住んでいるのは私だけだからその情報を持つ人は私であるな。マーズね。知っての通りこの町は唯一マーズから独立している町だからマーズについての情報なんて集まってきやしないさ。でも私が思うに、ただの首都の帝国組織だね。普通に税金を取って兵隊を雇って各国の王を統治する。それだけさ。」


「なんかほかに情報はないのか?それぐらいのことは誰でも知ってる。」


「うーん、ないね。竜戦によって帝国組織がマーズに変わってから15年特に変なことはないね。でもそういえばここ最近このルージェの町が物騒になっているな。この町に潜む邪悪な気配に、あちこちで発見される謎な痕跡たち。この町になにか邪悪な獣が潜んでいることは間違いないとわたしはふんでいる。」


ここポイポイ地区の人々もこの町の異変に気付いているだなんてオリントラは心底驚いた。

この町の大半の人々が異変にきづいているのだ。


「なるほどな。ありがとう。どうやらあんたは人違いのようだ。時間をとって悪かったな。」


そう言い残しオリントラとマルクはボスの前から立ち去ろうとした。


「おい、まちな。何か忘れてるんじゃないのか?」


「なんだ?」


「まったく、最近の若者は。情報を提供したんだからきっちりお金を払ってもらわないと、ね?」


なんだか嫌な予感がするなとオリントラは勘づく。


「いやいや、情報なんて何ももらっちゃいないぜ?ただの世間話をしただけだ。」


「ええ?たくさん話したじゃないか。マーズのことも、この町のことも。」


「たった、二言三言じゃないか。しかも全部一般常識で誰もが知っているような内容だったけど。」


「あんたが何を知っちゃあろうが知らんよ。こちとらあんたのために貴重な時間を割いたんだ。あんたも言ってただろ、時間をとって悪かったなって。それ相応の見返りが必要なのは当たり前だよ。」


女ゴーストはにやりと笑う。

オリントラあきれる。こんな屁理屈に付き合っている暇はない。


オリントラはポケットから多めに500Gを出して女に乱雑に渡す。


それを受け取った女ゴーストはさらににやりとしてこういった。

「こんなはした金じゃたりんよ。15000Gくらいはいただかないと。」


「高っ!」


それを聞いたオリントラは憤慨した。

マルクも思わず声を張り上げた。


「なんだお前、俺が屁理屈に折れて多めに渡してやったというのになんだその法外な値段は?金銭感覚いかれてんのか?もう俺はこれ以上払わないからな。」


それを聞いた女ゴーストはにやりとする。

「そうかい、そうかい。そっちがその気ならこちらも仕方ない。乱雑な手をつかうとするかね。」


去ろうとするオリントラとマルクの先に立ちはだかるのは部下の4人のガタイの良いゴーストたち。


「お前たち、やりな。」


女ゴーストのかけ声とともに一斉に襲い掛かかってきた。


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