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黒焔の帝は存命中  作者: ピッコロん
一章 唯一の生き残り
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2  町一番の冒険者

遠くから駆け足でマルクのもとに戻っていったオリントラ。その肩には壮絶な最期を遂げたであろうイノススが担がれていた。オリントラはマルクに向かってウインクをする。



オリントラとマルクがギルドに戻ると周りから大きな拍手が次々と浴びせられた。みんなマルクとオリントラがこの町一番の冒険者になったということで祝福してくれているのだ。


冒険者ギルドは仕事の依頼の手続きや報酬の受け取り、冒険者たちの情報交換の場である。冒険者たちはどの程度活躍したかで順位が決まる。オリントラとマルクはイノススの依頼をこなしたことで活躍度が一番になったのだ。


「よお、お二人組。すげえな!イノススをこんな短時間で狩っちまうなんて。さすがだぜ!」


「一番の冒険者おめでとう!」


「ついこの前ギルドに入会してきたと思ったらもうこの町一番だとか、やばすぎっすよ!」


オリントラだけではなくマルクにも賞賛が浴びせられる。

僕なんか何もしていないのに、マルクはそう思った。ギルドの仲間はマルクがまだ 成長途中 であることをしらないのか。


それを見たオリントラはマルクに

「お前のそのタフさだけは誰にも真似できないぜ。」

いった。


マルクは小さく「ありがとう……?」と返す。


二人は受付のところまで行き仕事の完了を告げ、報酬をもらう。元の報酬とともにイノススの売却費も上乗せされ結構な額になった。



「さあて一息ついたことだけど、休んじゃいられない。次の仕事はないか。」


オリントラは仕事の依頼板に目を向ける。基本的に仕事は早い者勝ちなので一番最初に完了したものが報酬をもらえる。だからほかの冒険者と競争になることも多い。より有利になるためにはこまめに見て、いち早く仕事を始めなければならない。


「いい条件の仕事、ないね。」


マルクも掲示板に目を向ける。

そこには[逃げ出した子猫をつかまえて!30G]や[広大な庭の草むしり 50G]などの割に合わない仕事ばかりだった。


そこへ

「おやおや一番の冒険者になったのに早速仕事の相談かい?偉いな。確かにここ最近魔獣退治などのいい仕事が少なくなったもの。」


と横から一人の男が入ってくる。20代の若い男で身長は普通、金髪に白い肌が目立った男だ。


「どう思う?オリントラ君。」


その男はオリントラの方を向き手を顎に当て聞いてきた。

オリントラはその男を見てこういった。


「さあな。魔獣が狩つくされたんじゃねえか、…たしか、ゼリー?だったっけ。」


それを聞いた男は口を膨らまし


「違う違う、何回聞いたら覚えるんだ、私の名前はジョニーです!もう、これだから最近の若者は…。」


と怒りながら言った。


「ああ?なんでお前が年上みたいなんだよ。俺の方がずっと年上だからな?」



「ええ、うそをついちゃいけませんよ。君はどう見ても18,19歳じゃないか!私は28歳!年上には敬意を払いましょう!」


「むかつく口をききやがって…。でもこの見た目だもんな…。やっぱそんくらいの年に見えんのか、はぁ。」


と小さくため息をつくオリントラ。

「まぁまぁ兄貴。」とマルクがなだめる。


「そんなことより話を戻そう。どうしてここ最近依頼が減ったのかという話に。」


何を言っているかという顔になった後、急にまじめな顔つきになるジョニー。


「ああ、そんなの魔獣をみなが狩まくったからだろ。」


この町にはたくさんの冒険者がいる。上級から下級までたくさんの冒険者がいるわけで仕事の取り合いなど日常茶飯事だ。そんななか高収入な魔獣案件など食いつかない人などいない。仕事はむさぼりつくされるように処理されていく。事実イノススの件もオリントラとマルクがだれよりも早く見つけ誰より早く仕留めたのだ。いつまでも残っている仕事といえば難易度が高すぎるものか雑用くらいだ。


「まあ確かにそうとも考えられるけどそんな単純じゃないんだ。魔獣がいなくなったわけではない。どんなに討伐してもどんどんわいてくる魔獣の怖さは君も知っているだろう?」


オリントラは昔の仕事を思い出す。ウーウーモンキーという魔獣を全滅させるというものでどんなに倒しても無限に湧き出てくる奴らに疲れ、あきらめたのだ。


「なるほどな。じゃあなんでなんだ?魔獣がいい子になったのか?」


「面白い冗談をいうね、君は!魔獣が人や農作物を襲わない、いい子になっただなんて考えるだけでも笑っちゃう!」


ジョニーは腹を掲げて笑い転げる。


「バカにすんな。」


「そうだったらいいんだけどそんな単純な理由じゃない。これを聞いたら君もアッと驚くぞ。」


「じゃあ何なんだ、早く教えろよ。」


もったいぶるジョニーに苛立ちを覚えるオリントラ。


まあまてとゆっくりジョニーは話し始めた。

「いまから二月三月ほど前からこの町に異変が起き始めていることに気付いているものも少なくないだろう。」


ジョニーは大きな声で話し始めた。どうやら周りの冒険者も会話の輪の中に誘っているようだ。


「森の中から聞こえる魔獣の断末魔、木々がなぎ倒された跡、魔力の乱れ。」


周りの冒険者が次々と集まってきた。ジョニーがする話はたいてい面白いとみんな知っている。興味深い情報を持っているし、なりより話し上手だ。


「さらには森の中で大きな羽をもった飛行する魔獣がいるとか。」


「そいつは俺も見たぞ!」

聴衆の中から声が上がる。


「遠くの森で果物狩りをしていたら頭上に影が現れてすごいスピードで飛んで行ったんだ。あんな速度で飛ぶ魔獣なんて見たことない。」


話し終えたことを確認するとジョニーは続ける。


「何やらこの町に不吉なことが起こる前兆じゃないか、と私は思った。そこで知り合いの占い師に占ってもらった。すると彼女はこの町の中に強大な魔力をもつものが潜んでいるといった。そこで僕は確信した。何かがこの町に居るとね。」


「その魔術師信用できんのか?でたらめ言っているかもしれないぞ。」

オリントラが指摘する。


「大丈夫さ。100発100中、そこら辺のインチキ野郎と違って彼女は本物だって知っている。それに実際私もなにか邪悪な雰囲気が、このルージェの町に漂っていることに気付いていたから。」


ジョニーは続ける。


「そこで私は調査を始めた。森に入り痕跡を探した。まず最初に見つけたのは大きくなぎ倒された木たちだ。倒れた木は近く一か所にまとまっていた。その木を調べると木の表面が削られているんだ。何かに引っかかれたように。私は最初何かの魔獣による爪とぎ跡だと思った。でも爪とぎをしただけで木が倒れるような力を持った獣なんてそうそういない。いたとしても誰かに気付かれるはずだ。その魔力のオーラに。」


周りの聴衆たちは彼の話に聞き入っている。

「次に見つけたのは無残に死んでいる魔獣の死骸だ。一匹だけではない。何匹もだ。冒険者が魔獣を倒したとしてもその死骸が高く売れるから捨てていくはずはない。その死骸は全部何者かによって食べられているのだ。普通魔獣同士で捕食が行われたときはその体は骨までしゃぶりつくされるはずだ。食欲旺盛だから。しかしその死骸は全部一部分だけ食べられていた。それも同じ部位だけ。これは捕食者が好き好んでその部位を食べていることになる。」

ジョニーは周りを見渡す。ギルドにいる人全員が彼の話に耳を傾けていた。


「最後に見つけたのは、足跡だ。これは見てもらった方が早いかもしれない。」


そういうと彼は魔法を壁に向かって放った。すると壁の色が変わり何かがそこに描かれる。そこには土が大きくえぐられている足跡が映し出された。


すると周りがわっとどよめく。


「これをみて気づいた人もいるかもしれない。この形、大きなかぎづめの跡。皆さん知っているよね。謎の飛行魔獣やなぎ倒される木、無残にも捕食された魔獣。そう、わたしはこの町にドラゴンがいるんだと結論付ける。」


そういった瞬間周りの聴衆がざっとどよめく。


「ありえない!」


そのなかで一番大きな声を上げたのはオリントラだ。


「ドラゴンがいるだと?ふざけるな!奴らは死んだんだぞ、全員まとめて皆殺しにされたはずだ!竜戦で!」


「なにをそんなに口をあらげているんだ。 僕も最初はそう思っていたんだよ。ドラゴンはこの世界から消えたと。でもこんな跡足を残すのはドラゴンしかあてはまらない。

この結論は私の憶測にすぎないけど。」


周りから声が上がる。「たしかにそうかもしれない。」や「違うと思うなあ」など賛否は両論のようだ。賛成派と反対派で続々と討論を始めている。


「ドラゴンはいない。竜戦で皆殺しにしたんだ。いいか、やつらはいない。いるかもしれないだなんて…考えたくも、ない…。」


オリントラは消え入るような声で言った。


マルクは話を聞いてから一言もしゃべらない。


二人のそんな様子をみてジョニーは謝った。

「あ、この話で嫌な思い出とか思い出してしてまったならすまない、あやまろう。でも私だってこの町を失いたくはないんだ。このままにすると取り返しのつかない事態が起こりそうな気がする。だから私はこの得体のしれない気配を突き止めたい。私はただいつも通りみんなで仕事を競いながらこなしていきたいだけなんだ。そのためだったらなんだってするつもりさ。」

ジョニーはこの町と仲間を人一倍大切に思うやつだった。


「いや、いいんだ。もうこの話はやめよう。あと、このことこのギルド内だけの秘密にしとけ。変にでも広がったら…取り返しのつかないことになるかもしれないから。いいな、みんな!」


オリントラはギルドの全員に言う。「そうだな」「そのほうがいいな」などと大半が同意してくれたみたいだ。


「マルク、いこう。」


オリントラはマルクを連れギルドの外へでる。ギルドにはまだまだその話題が尽きそうにない。


「下手にこの町一番の冒険者だなんてものにならなければよかったな。」


とオリントラは小さく悪態をついた。


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