プロローグ Regain Ego
プロローグ
家の中でも依然として変わらない夏の暑さに、セミの鳴く声。陽炎で揺らめく窓から見える景色。そんな日本の夏を気が滅入るほどに身体で感じる。冷たいアイスを舐め終えた木の棒を口に咥え、ゲームコントローラを軽く持ち手に添えながら、テレビ画面を眺めていた。液晶板には、一面真っ暗な背景が映し出されている。しばらく経つと、黒一色の画面の中央にゲームのタイトルが浮かび上がってきた。
『R e g a i n E g o』
「りが、りがいんえご?何だそれ」
英語は得意ではなかった為、透かさずスマホを右手で持ち、検索を架ける。
「ええと、意味は……『自我を取り戻す』?ググってみても訳分かんねえなあ」
そう言うと彼はスマホを床に置き、また右手をコントローラに戻した。少し混乱したまま、ふと画面を見上げると、先程とは違う画面に移っていた。その画面にも文が出ていた。
『あなたが、この世界に入り、悪者を倒してセカイを救いましょう!』
「あれ、いつの間にかボタンを押してしまったか?まあ、いいや。それで、このゲームはRPGなのかな?あのサイトには何も書いていなかったからなあ」
夏の暑さに頭をやられたせいか、次々と画面に表示される文を眺めながら、ボタンを適当に押していた。
『次に、神経操縦装置の設定に移ります。附属された神経操縦装置を首の後ろに本機を固定し、喉元でベルトの両先部分を差し込んでください。側面の調節部分でできるだけ強く締めてください。』
見慣れない装置の名称を前にし、軽やかな指の連打は停止した。
「神経操縦装置?そんなもの付いてたっけ、ああ、あの黒い箱の中かな」
立ち上がって、目的の物を探す。
「おっと、あったあった。これか……で、箱の中身は何だろなっ」
恐る恐る中を覗くと、そこには皆が口を揃えて精密機械と言わざるを得ない代物があった。太めのチョーカーの様なベルトの中央には鋼鉄の四角い装置が取り付けられ、その表面の端には、メーターが二つ、目盛りの単位が書かれていたが高校生では流石に習わないであろう未知の単位であった。
「え、こんなモノを着けるのか。大丈夫かコレ?」
疑心暗鬼になり不安になるも、未知との遭遇により、彼の好奇心の方が勝った。
『コネクト……しばらくお待ち下さい。設定が完了しました、そのまま装着した状態で待機してください』
「今のところ違和感とか感じないな、やっぱ最新の機械はすごいんだな」
『…質問、アナタは…ワタシ……達…世界…セカイを救ってくれまスカ?』
突如、画面が切り替わり、不可解な内容だが読み取れる文が表示された。ただ、その文からは言葉で言い表すことのできない悲しみを読み取ることができた。
「あれ?これもシステムなのか?というかもう始まってるのか?良いね、予測できないゲームは好きだよ」
夏の暑さで、彼のやる気は変にエンジンがかかったようだ。
「…もちろん、俺は、キミ達を救ってみせるよ」
画面が切り替わった。切り替わった画面には、薄く淡い流れ星の様な光が下へ流れ落ちるのが映った。
「これで、初期設定は完了しまし…、したよ。じゃあ……待ってるね、進藤日向君!」
その肉声は、確かに部屋から聴こえた気がした。その後、日向は夏の暑さと床の汗を部屋へ残したまま姿を消した。
ナレーション
『地球:日本』から『???:ゴートの村』へ移動しました。
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