9 攻撃
各国でも同じ様な事が起きていただろう。
国の代表者は国民を納得させなければならない。
しかし数多くの国民の意志は通常、まとまることはない。今までは。
偶然、軍事衛星が取った写真が世界の国民の感情を統一してしまった。
殺人現場を押さえたのだ。
奇跡なのか、それとも人類は『幼年期』を終える寸前なのだろうか?
自衛隊の全イージス艦が有事指令を受け、日本海に向かった。北日本の自衛隊基地からジェット戦闘機が飛び立った。
沖縄、横田に米軍機が集まり、空中給油で欧州のNATO軍の戦闘機が飛来した。
韓国以外の各国は空軍のみを送った。
これは『義』のための戦争であり、占領は必要なかったからだ。全て空からの軍事基地破壊を目指した。米国は詳細な軍事施設の情報を提供した。独裁者を排除し国民の手に主権を戻すのだ。
『プルガサリ』の発射基地は北朝鮮の内部にある。そこまで行き着くには何十もの対空火砲や迎撃ミサイルの網をくぐり抜けなければならない。
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アメリカ空軍のトップガンのトムは愛機のF22で沖縄を飛び立った。
『ラプター』と呼ばれるに相応しい勇猛な機体をしているスティルス戦闘機である。
彼の役目は超音速で『プルガサリ』まで一直線に飛び、そこまでの軍事施設の写真と必要ならば攻撃をして無事帰って来ることだ。
彼が逐一衛星を通して送る情報をもとに後方部隊が一つ一つ基地を潰していく。
勿論、F22が三機チームを組み、お互いを守りながら航行する。
上官の部屋に呼ばれた時、トム以下三名はガムをくちゃくちゃ噛みながら、命令をにんまりして聞いていた。三名とも独身で暴れ者として有名なパイロット達だ。
(へへ・・・これで俺も英雄だぜ!)
死ぬ危険など屁にも思わない連中だった。
雲の中を疾風の様に飛ぶのはいつも爽快だ。
「こちら、ラプター・イーター。そろそろ降下する」
三機は首を揃えて高度を下げた。
独裁国家の黒く広がる土地が見えてきた。山野が広がる。畑や細い道が繋がる草原の上を飛んだ。
農夫が何事かと見上げた。
有事とは思えないのどかな風景だ。
「この国、何もないぜ・・・」
トムが呟いた直後、
「ラプター・イータ1、前方に敵機」
相棒の無線が飛び込んだ。
「旧型中国製戦闘機確認!」
「戦闘態勢に移れ!」
「散開せよ」
次々と指令が飛ぶ。
トム達のF22は速度を緩めることなく敵戦闘機に向かった。標準機は敵機の一つにロックした。トムの親指が機銃の安全キャップを押し上げた。
どどんどどんと身体を震わす機銃の反動。赤い弾幕が敵機に吸い込まれていく。
最初の敵機が火を噴いた。
二機目の翼が吹き飛んだ。きりもみしながら落ちていく。
三機目は方向を転換して逃げようとした。
トムが後ろにぴたりと付いてボタンを押した。
(何てあっけない空中戦だ・・・)
トムは拍子抜けした様に航路を元に戻した。
「前方十キロに陸軍基地!」
コンピュータが目標を告げる。
「巡航ミサイル目標5−22−2、発射」
トムの機体から下に釣り下がって行ったミサイルが点火され、もの凄いスピードで飛び去る。
「巡航ミサイル目標3−55−66,発射」
2番機のマットが発射した。
彼らは戦火を見るために高度を上げ機体を斜めにした。
ミサイルが遠くで着弾し、格納庫に火柱が上がった。
黒煙を吹く最初の軍事基地の上をトム達は飛び去った。
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「総統閣下!ピンインの陸軍基地が襲撃されました!アメリカ軍の戦闘機らしいです!『プルガサリ』に向かっているようです!」
ボクちゃんは頭に来た!
「ストレンジラブ!発射だ!奴ら目に物をみせてくれる!」
「ぐっぐっぐ・・・閣下!任せて下さい!立派に打ち上げますよ!」
ストレンジラブは机の電話を引ったくると、どもる様に怒鳴った。・・・どうも何もかもが演技臭い。
「い、いいか!は・・・『白馬の王子様』、は、発射コード・・・ぶぶぶ・・・B−O−K−UーC−H−A−Nだ!」
怒鳴り終わるとゆっくりと身体をひくつかせながら電話を置き、車椅子の背にもたれて機械人形の様にその気味悪く笑った顔をボクに向けて肩をすぼめた。口からは涎を流していた。