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4 長官への電話

 若者は明かりを消された尋問室で椅子に座り一人で嗚咽を漏らしていた。


 確かに密かに中国から中東を回ってアメリカに遊びに来た。誰にも知らせずに。賄賂にものを言わせてここまで来た。

 それが却ってこの若者のアメリカでの存在を否定する事になっていた。

 帰って、同じ高官の息子である友人達に自慢しようと、誰にも分からない様に行方を眩ませた筈だ・・・

 世の中を甘く見ていた・・・いや、それを教えてくれなかった教師が悪い!無事に帰ったら死刑にしてやる!


 NSAは彼が入国した形跡など跡形もなく消し去るだろう。我が儘で知性が乏しく育った若者は、自分と同じ荒涼とした心風景を持った人間に敏感だった。


 あの男はただ者じゃない。

 故国の軍隊の中にある暗殺隊の連中をよく知っている。あんな男ばかりだった。感情の全くない、機械の様な刺客。

 もう終わりだ・・・ママ・・・ご免。


 若者が鼻汁をすすり上げているとNSAの男が入ってきた。若者の携帯を持って。


 ****


 国家情報局第二部(秘密組織)の長官、チエ・ナムルは朝のコーヒーを長官室でゆっくりと味わっていた。机の電話が鳴る。秘書が無機質な声で告げた。

「息子様からお電話が入ってます」

 ナムルは驚いて、

「秘話にしてつないでくれ」

「でー(はい)」


 ナムルの耳には、泣き咽びながら叫ぶ様にしゃべる男の声が飛び込んできた。

「パパ!ひっく」

 ナムルはぎくっとして、ドアに飛んで行き、開けると秘書に命令した。

「ちょっとどこかで休んでいてくれ。1時間ほどな。誰も入れない様に鍵を掛けて」


 秘書が出て行くのを確認すると、電話に戻り、ボリュームを少し絞って、電話に口を近づけて囁くように言った。

「クッパ!どこにいる!何故黙って旅行に行った!」

「ひ・・・パパ・・・ご免なさい・・・助けて・・・」

「何!」


 するとがさがさとノイズが入り、低い男の声が電話から流れた。流暢な高句麗方言だ。

「チエ長官ですね?」

「誰だ!お前は!息子を出せ!」

 低い声は暫く沈黙するとまた話し出した。

「ここはアメリカです。息子さんは不法入国、麻薬所持、偽造金券の罪で当局に拘束されました」

「貴様!・・・これは外交問題になるぞ!」


 低い電話の声はちっちっちと舌を鳴らした。

「政府は知りませんよ。息子さんの入国記録もありません。息子さんはここでは誰でもないのです」


 ナムルは声に詰まった。浅く刈り込んだ髪の額から汗が一筋垂れ、制服の襟に落ちた。


「どうすれば良いんだ?どうすれば息子を解放してくれる?」

「あることを教えて貰いたい」

「な・・・何だ?儂にも知らないことはある!」

「知らなければあんたの息子は生きながら寸刻みになるだけだよ。国民がやる事じゃない。農場の豚たちかな?『羊たちの沈黙』を知ってるだろう?」

「それがアメリカのやることか!恥を知れ!」


 電話の声は笑った。

「あんた達に言われたくないね。我が国には色々な人種がいるが、お前達のような国盗人くにぬすっとの下品な心を持っている人は一人もいない!」

 チエは黙った。儂だってそんなつもりで若い頃から生きてきたつもりじゃない・・・


 男の声がまた流れた。今度はうって変わって優しい声色になっていた。


「・・・貴方もやり直せるようにしよう。アメリカに渡って息子さんと再会出来るようにしよう。1ミリオンダラー(1億円)の資産を用意する。一族みんなで来るが良い。戸籍もキャリアも全て新しい良い物を上げるよ。必要なら顔も全員整形してね」

 チエは苦しい声で言った。

「・・・何が知りたいんだ?」


「今打ち上げようとしているミサイル、いや・・・北朝鮮初めての偉業、通信衛星の中身だ」



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