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3 夢と恐怖

 とっくんとっくん・・・


 くくっ


 とくとく・・・


 ボクちゃんは夢を見ていた。ケーブルの中を伝ってアレがタンクに入って行く。


 くふ


 ボクちゃんは寝ながら笑った。横には夜通しボクを喜ばそうと一心に奉仕していた女が疲れ切って寝ている。糖尿病に腎不全、ありとあらゆる成人病を持つボクちゃんがそう簡単に満足するわけがない。


「同志閣下!」


 無粋な大声でボクは目覚めた。いつもならこんな無礼者はすぐ銃殺だが、今朝はボクは機嫌が良い。


「そう、ボクは君たち人民の同志だ」

 いつもの儀礼の取り交わした。おとうちゃまが始めたつまらない習慣だが今朝は別。

「常に人民を想い、人民のために命を掛けて下さる総統閣下!万歳!」

 彼が上を向いて唾を飛ばしながら暗唱するのを辛抱して、そして聞いた。そう威厳を持ってね。


「終わったか?」

 ボクのお気に入りの貧民の息子、近衛兵のサム・ゲタンが自信有りそうに言った。彼もボクちゃんを喜ばせる情報を持ってきたので得意満面だ。

「は!燃料を注入が終わりました!」


 くく・・・ようやく飛ばせる!アレを!ボクちゃんの子供の頃からの夢!


 何故、貧民の子がボクの衛兵かって?

 ボクは高官の息子を側に置いたりしない。クーデターが恐いからね。だから彼らと張り合わせる様に貧乏人からボクが引き上げた若者を置いてるのさ。言ったでしょ!帝王学の成果、一石二鳥政策ってね!


 ****


 そのころ、カリフォルニアのデズニーランドのシンデレラ城の地下には一人の若者が収監されていた。

 この世界最大の遊園地に特別に作られたCIAの支部だ。


 若者は青くなったり赤くなったり、何もない広い部屋の尋問室の真ん中の大きなテーブルの前に一人座らされている。その前を如何にも残忍そうな背広姿の大男が腕組みをして立っている。


「ぼ・・・僕を誰か知ってるんだろうな?僕を自由にしたほうが身のためだぞ!CIAめ!」

 ふてぶてしさを装いながら、だらしなく太った無精髭の若者が言った。

 だが背広の男は感情のない目でじろと若者を睨んだ。彼の肉体を見て、故国では側近に囲まれて親分風を吹かせている若者は、自分がいかに貧弱な肉体をしているか感じていた。

「俺はCIAじゃない」

 抑揚のない声で男は答えた。

「残念だが、ここにCIAはいない。俺はNSA(国家安全保障局)から来た!お前をこの世から消し去ってもいいんだぜ!」


 ああ・・・NSA・・・国家保安のためなら殺人も許される組織・・・!


 若者はびくっとしたが、必死の勇気を振り絞って言った。・・・ああ、やっぱりお遊びなんかで来なきゃ良かった・・・殺されるのはいやだが、帰ってからパパに怒られるのも恐い・・・


「僕はただの旅行者だ!」

 NSAの男は、言い分を変えた若者ににやっと笑いながら、テーブルの上に置いてある数々の書類の一つを取り上げて言った。


「偽造ビザで入ってきた奴がただのトラベラーかい?」

 そのビザを二つに破いてぽんと若者の目も前に投げる。


「このドライバーライセンスも下手な細工をしたもんだ・・・こんな低品質の材質をどこで見つけたんだ?」

 男の怪力はプラスティックの板を難なく引き千切った。


「べ・・・弁護士に電話させてくれ!」


 男は若者が所持していた紙幣を取り上げると、突然鬼の様な表情に変わった。凄い力で手の平と一緒に机に叩き付けた!

 そして大音声で怒鳴った。

「合衆国の偽札を持って女を買いに来たのか!」


「ひっ」


 若者は、こんな恐怖を覚えたことは生まれてこの方初めてだった。ミッキーの金文字が印刷してあるTシャツは汗でぐっしょりだ。

 若者は危うく失禁するのをようやく堪えた。だが身体の震えが止まらなかった。


「お前のホテルの部屋から麻薬も見つかった・・・南米産じゃない、北朝鮮製のな」

 若者の身体はぶるぶると無意識に震えだし止まらなくなった。


「お前はこの国ではひき臼で粉々にされても誰も文句は言わない」


 高官の息子である若者は、国民には禁止しているアメリカの漫画を溺愛していた。全く同じ場面が確かあった。シン・シティとかいうピカレスクバイオレンスコミックだ。その漫画ではその悪人は本当に粉々にされてしまう!



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