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11 また逢う日まで

 アメリカの軍事衛星はミサイルの発射を感知した。

 中国のそれも液体燃料の燃焼を確認した。


「大変だ!間に合わなかった!ミサイルが発射された!」


 国際会議室は大騒ぎになった。

「北陸、北海道、イージスのパトリオットの発射用意だ!」

 粗相は力無く命令を下した。遅かった。しかしやることはやった。

 この後、世界が滅びるとしたら、せっかく歴史に刻んだ名前がどうなるか気がかりだ。


「首相、各国の迎撃ミサイルが発射されます!」

 彼はミネラルウオータをがぶと飲んで、椅子に深々ともたれ込んだ。

「アラッソ」


 ****


「各国の迎撃ミサイルが飛んできます!」


 まだ世界中に張り巡らせたスパイ網は生きている様だ。

 ボクはストレンジラブに言った。


「ボクちゃんのミサイル、落とされないよね?」

 ボクは本来の口調に戻っていた。閣僚はびっっくりして隣の者と目を見合わせているが、ボクの持った拳銃がいつそちらを向くか心配の様だ。


 イスラエルとイラクの戦争でパトリオットがかなり使えるということを知っている。迎撃ミサイルも沢山来れば当たる確立は高い!


「総統閣下!ご安心を」


 この男は本当に頼もしい天才だ。ボクなんかがこの後、何千年生きても巡り会えないかも知れない。邂逅だ!


「ボクのミサイル、凄いんだよね?ストレンジラブ君が作ったんだから!」

 彼は誇らしげに微笑んで、ピエロがやるような、手を広げてお辞儀する様な仕草を車椅子の上でした。


「で・・・どうして奴らのミサイルをまくんだ?」

 ストレンジラブは鼻をひくひくさせて答えた。


「『白馬の王子様』には特別の推進装置が付けてあります」

「へえーっ!・・・何、それ?」

 ボクちゃん大はしゃぎだ。こんな可愛い笑顔を閣僚に見せるのは始めただろう。


「推進エンジンに水爆を使うのです」

「え・・・?」

 ボクや官僚達は吃驚して彼を見た。


「総統閣下、『光子ロケット』って分かりますか?」

「こうし・・・ロケット?」

「水爆を利用して推進し、理論的には光速のちょっと手前まで速度が上がります」

「うわっ!SM・・・じゃないSFの世界みたいだ!」

 周りの皆がぱちぱちと手を叩く。


 ストレンジラブは得意満面で続けた。

「水爆をロケットの後方で爆発することにより、迎撃ミサイルなど寄せ付けません。後ろから来るものは跡形もなく熔けてしまうでしょう」

「わはは!愉快愉快!・・・いつ点火するの!?」


 ストレンジラブは腕時計を見た。そして笑って、

「丁度我々の上です・・・そろそろ・・・」


 その場の空気が超低温になった。そして気のせいか、ごごごという振動が床を伝ってくる様な感じが・・・

「うわーっ!」

 全閣僚達が先を争って会議室から逃げ出そうとした。馬鹿め!どこに逃げたって同じだ!


 ボクは数発、ボクに背を向けて逃げ出す閣僚達に向かって拳銃を打った。数人の閣僚の背中に当たった筈だが、そのまま走り出てしまった。


 その場に残ったのは、ボクと・・・ストレンジラブの二人だけだった。

 ストレンジラブは相変わらず口の端を押し開けて笑った顔を作っている。いや、本当に笑っているのだろう。



 上空では『白馬の王子様』が光子エンジンの点火を始めていた。迎撃ミサイルがすぐ後ろに迫っている。

 しかし『白馬の王子』のお尻がぴかっと光ると、その閃光は徐々に大きくなり、後方に伸びた。ぐんぐんとスピードを増し、迎撃ミサイルは熔けて落ちていく。


 閃光がボクちゃんがいる総統官邸の上に届いた。衝撃波が次ぎに来る。


 ボクちゃんのおうちは核攻撃に耐える様に頑丈に作ってある・・・でもこの間、手抜き工事が発覚して工事に関わった全ての連中を縛り首にしたばかりだった。この国の連中は・・・指導者のためにさえまともな仕事が出来ないのだ。

 ほんの数秒、この地下会議室は持ちこたえるかも知れない・・・


 凄い地鳴りの様な衝撃が会議室を襲った。調度品が倒れ、硝子が割れる。そして天井の建材が剥がれ、瓦礫となって落ちてきた。


 円卓が天井から落ちたコンクリートの塊で潰れた。真っ暗になり、バッテリー駆動の補助電源が通路灯を付けた。ボクは建材の出す埃に咽せた。


 もうもうとする埃の中で、ストレンジラブが車椅子からすくっと立った。


 そしてボクに向かって右手を斜め上に上げ、ブーツの踵をかちんと付けて敬礼した。

「ハイル!総統閣下!」


 ストレンジラブの顔と言ったら、夢を叶えた子供の様に嬉々としていた。これがやりたかったと言わんばかりに。

 そして建物が崩れ落ちる轟音の中でボクに言った。

「総統閣下・・・愛してました・・・」


 彼の上に大きな瓦礫が落ちて、彼はぐしゃぐしゃになった。

 酸素不足で意識が朦朧としてきたけど、ボクはやることは分かっていた。

 拳銃を持ち上げて・・・何て重いんだ・・・自分のこめかみに付けた。



 ****


 その後、世界各国の首都に水爆が落ちていった。議事堂を目掛けて寸分違わぬ正確さで。


 ボクちゃんのお話はこれで終わりだよ。

 また逢う日まで。




 この物語がいつの日か現実になりません様に。



引用

「博士の異常な愛情」

「ターミネータ」

「羊たちの沈黙」

「ハンニバル」

「孫子」


イメージ

「プルガサリ」

「世界大戦争」(東宝)

「トップガン」

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