10 偽物
トム達の乗る超音速のF22を、北朝鮮の対空砲は捕らえることが出来なかった。
弾丸の発射の間隔が前時代的に長かったのだ。砲台を回すのも人力だった。
ともかくも北朝鮮軍は、トム達の様に早く飛ぶ戦闘機は始めて見たのだ。
後続の戦闘機も殆ど被害はなかった。
たまに偶然に機関砲の玉に当たるぐらいだった。
後続部隊は絨毯的に爆撃し基地を壊滅していった。
敵の対空ミサイルも役に立たなかった。へろへろと飛んだり、お互いにぶつかったり、どういう半導体を使っているのか?ひょっとすると真空管かも知れないと、爆撃隊員は笑い合った。
兵器が役に立たないと分かると、北朝鮮軍兵士達はちりじりに逃げ出した。
総統閣下への忠誠心などどこかに飛んでいた。食うために軍隊に入った連中が多かった。
農民に助けを求めた。しかし憎しみに満ちた農民達に囲まれ、銃を取られ、石や棒で叩き殺された。
農民達は辛うじて仕える一石ラジオで韓国の放送を聞いている者がいた。全世界を総統は相手に回したことを口々に伝えた。
朝鮮は古代から義民の国である。それを知る権力者は、様々な手を使って人民の気力を奪ってきた。今、農民達は生まれて初めての『希望』を懐いた。長い間忘れ去っていた感覚を。
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トム達は遂に、『プルガサリ』が発射を待つチョンドン基地に近づいていた。
コンピュータが衛星のデータを解析しミサイルの着弾地をロックした。
『プルガサリ』が破壊された後、この地は長く放射能汚染され立ち入ることは出来なくなる。ここに棲んでいる農民は悲惨な目に合うだろう。
しかし、今は仕方がないのだ。許してくれ!
三機から最後の巡航ミサイルが打ち出された。このミサイルは特別製だ。
美しい曳光を引きながら、降魔の兵器は巨大なロケット目指して飛んだ。
急上昇するトムのヘルメットに映ったものは、小さな太陽であった。
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「『プルガサリ』が・・・破壊されました!核ミサイルの様です!」
悲痛な報告が電信室から走ってきた通信兵によって行われた。
金前日は青くなり拳を握りしめぶるぶると震えだした。
何と言うことだ!ボクちゃんの夢が!どうして突然、世界中がボクを虐めに来たんだ!今まで腫れものに触る様だったのに!
「総統!ここは降伏を・・・」
ボクは、運動音痴に見える姿態から想像もつかないぐらいの早業でポケットの小型拳銃を抜き、そいつの額を打ち抜いた!
「ああ!軍事大臣!・・・」
「降伏!ボクに降伏しろと!そう言いたい奴は前に出ろ!」
ボクは気が違った様に吼えた。そうでもしないとボクを裏切ろうとする奴が出る!
「総統閣下!」
「何!」
ボクは声のする方に拳銃を向けた。そこにはあの車椅子のストレンジラブがいた。
「な・・・何が言いたい?お前はしくじった!ロケットを、・・・原子爆弾を飛ばせなかったな!」
ボクが拳銃を彼の額に向けても彼はにやにや笑ったままだ。そして首を竦め、手の平を返した。
「え・・・じゃ、あれは・・・」
「ぐっぐっぐ・・・総統閣下。ミサイルの名前は『プルガサリ』じゃなくて、『白馬の王子様』ですよ」
閣僚達がおおっとどよめいた。
「丁度今、隣の基地から『王子様』は発射しました」
「ストレンジラブ君!君は・・・やっぱり天才だ!」
ボクは彼をぎゅうっと抱きしめてしまった。