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「青奈はくーちゃんって知ってるか?」
俺が聞くと「うん。知ってるけど。それがどうかしたの?」とボールをつきながら聞き返してくる。
「ほら、日曜に用事あるって言ってただろ」
「うん」
「それの、握手会行くんだよ」
「え!?そうなの?」
「うん。詩呂に頼まれてさ」
この反応から見ると青奈もくーちゃんが好きなのだろう。
恐るべしアイドル。若者の心をぐっと掴んでる。
俺はテレビで見ている限り別になんとも思わなかったけど。
「いいなー。くーちゃんと握手したかったなー」
「握手ってそんなに需要あるか?」
「言われたらそうかもだけど……ま、なんとなくって感じ?」
疑問形に言われても……でも今よくよく考えると握手会で握手しなかったらファンの人にもアイドルの人にも失礼なのかな?行きたくても行けない人たちだっているだろうし。
「まぁ、そんなもんか」
「うん、そんなもんだよ。ということでジュースかけて1on1しよ」
「望むとろだ」
結果俺の惨敗で5点先取の2点も取れなかった。
「柊はまだまだだねー」とジュースを飲みながら馬鹿にされた。ジュース飲んでいる時にボールを顔にぶつけてやりたくなった。
☆
「ただいまー」
部活も終え無事帰宅する。無事といっても日本だし危ないことは大して起きないのだが。
「兄さんお帰り」
「おう、ただいま」
玄関で迎えてくれたのは俺の妹、冬華だ。誰譲りか分からない綺麗な茶髪にはいつも天使の輪っかと言われるものがあり、くりっとした目が可愛らしい。そしてモデルバリのプロポーション。だからといって妹なんかに興奮するはずもなく、普通に接している。
「あ、兄さん日曜日空いてる?」
「なんで?」
「服見に行きたくて」
行ってやりたいのは山々なのだが、生憎もうその日の予定は決まっている。
「いや、すまん。予定あるんだわ」
「えー、最悪ー」
「お前友達とかと行けよ。いないわけじゃないんだし」
「友達と行ったらナンパとかされた時に流せないじゃん」
「俺と行っても変わらないと思うけど」
「なんで?」
なんで?って言われても、別に身長とかも高いわけじゃないし、強面でもないし寧ろ弱面だし。喧嘩とかも全然だし。
「お前を守れる自信がないからな」
「あははは、大丈夫だよ。兄さんは私の兄さんだからね」
「どういう事だよ」
‘「さぁー?」
「はぁ?ま、いいや。とにかく日曜は無理だからな」
「はいはい。じゃあ男の子誘って行くからいいよ」
「それは兄さんが許しません」
いやいや、どこの馬の骨か分からない男なんかに冬華を任されるわけないだろ。それに絶対その男子やましいこと考えてるから。
「はぁー、だから兄さん誘ったんじゃん」
「来週じゃダメなのか?」
「ま、それでもいいか。じゃあ来週ね」
「はいよ」
これで二週間連続で俺の日曜日が潰れたと。土曜日は部活があるし。全然休めないな。こうなったらとことん学校で寝るしかないな。うん。そうしよ。
さて、部屋に帰って調べ物をしないと。
握手会のルールとかあるかもしれないし、場所もちゃんと知っておかないと。これも全てチョコパフェのためだ。
それにしても気になるのは黒香のことだ。くーちゃんの事を話すとあからさまに反応が変わる。女子なら好きだと思うんだけど。もしかして好きすぎて変な自分が出ないように抑えてるとか?直接黒香に聞けばいいのだが、教えてくれなさそうだし。
そして日曜日。まさかそんな事があるなんてな。




