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「てか、黒香に頼めばよくね?」
今は昼休み。いつも、同じ場所、屋上の階段で昼ご飯を食べている。
「んー、俺は別にそれでもいいけど、チョコパフェは無くなるぞ」
「いや、やっぱり俺が行かさせていただきます」
詩呂が「ハハハ、相変わらずだな」とサンドイッチを食べながら言う。
「でもさー本当は最初に九絽瀬に頼んだんだよ」
「え、そうなの?」
「けどなんか、めっちゃ嫌がられたって言うか、断られたんだよな」
「へぇー、女子とか好きそうだけどな」
「だよなー」
女子とかファッション雑誌?みたいなやつで、結構キャーキャー騒いでたけどな。あ、それは着てるモデルさんじゃなくて、服を見てたのかな?うーん、よく分からん。
「まぁ、とにかくサイン頼んだぞ!それと手の感触教えてくれよな」
「いや、俺握手する気ないぞ」
別に興味ある訳でもないし。それに、俺より前に人が握手してる手に触りたくないし。あ、でもこれ言っちゃうとアイドルの人に失礼か。
「はぁ!?嘘だろ?」
「いや、まじ」
「もったいなさすぎだろ。まぁ俺は行けないからサイン貰えれるだけ有難いけどな」
「そう言ってもらえて助かるわ」
「おう」
※
「おい、黒香」
いつものメンバーと楽しく喋っている黒香に話しかける。
最初は中々周りの視線が気になって話かけにくかったけど、今はもう慣れた。
「ん?なに?」
「今日部活やってくのか?」
あー、と言ってた顔の前で手を合わせる。
「ごめん!もう少し話したら帰るつもり」
「最近ずっとそうだな」
「ちょっと忙しくて。ごめん!」
「そうか……まぁ、疲れて倒れる前にちゃんと休めよ」
「うん!ありがと!」
じゃあ今日もあいつと二人か。あいつめっちゃバスケ上手いから1on1勝てないんだよな。女子なのに。
女子だからやりにくいってこともあると思う。うん、実力だけの差じゃないよな。
「はぁー、明後日……」
俺が自分の席に戻ろうとした時に、また黒香が何か言った気がする。俺もしかして難聴?耳鼻科行ってこようかな。
とりあえず部活行こ。女子トイレから女とは思えないほどのデカブツが出てくる。これはあいつだな。
「あ、柊やっほ!」
「おう」
こいつは碧山青奈。
身長180センチの化け物。これが勝てない一つの理由。シュートを打ってもブロックされる。2点取るだけでも一苦労だ。
顔は街中を歩くとしょっちゅう、スカウトやナンパをされるくらい可愛い。
前、部活の用品を一緒に買いに行ったとき、ナンパと勧誘合わせて15回されていた。でも、貧乳。
それと、学校ではドジっ娘すぎて、裏でドジ山って男子に言われてた。もうただの悪口にしか聞こえない。
「柊、今貧乳とか言わなかった?」
「さすが貧乳だな。心の中の声も聞こえるのか」
「しね!この、ポンコツなすび!」
すると、彼女がたまたま?持っていた雑誌のような本を投げられる。
「危な!当たったらどうするんだよ!……って、ん?」
「あ!」
「なになに?これで安心!貧乳を解決するマッサージ方法?あー、そのうん頑張れよ」
「っっ!!死ねー!!!」
こちらに、猛ダッシュで突進してくる。あ、揺れてない。
これ黒香だったら、結構揺れてるんだよな。
って、そんなこと考えてる暇じゃない。俺の命の危機だ。
あいつ足速いからもう目の前にいるんだよな。でもドジだからなぁ。
「あ、」
ほら、つまずいた。でも、その勢いが殺されることはなく、突進の形は変わらず飛びついてくる。
「うお!」
「ご、ごめん!」
「い、いや大丈夫」
背中に背負っていた、リュックのおかけで頭を打つことはなかった。
これ、他人から見たら自分より大きい女子に襲われてるって思われるな。でも、貧乳だから興奮もくそも無いけどね。とにかく早くどいてもらおう。
「ほら、早くどいてくれよ」
「むぅー、そこは少しくらいはドキドキするところじゃないの?」
「だって、ひん」
そこで、青奈の拳が振り上げられる。
「わかった!やめろ流石に死ぬ」
「わかったならよろしい」
何か満足気に立ち上がり俺を見下ろす。うぜぇー。この貧乳が!
「そんなに死にたいの?」
「遠慮させていただきます」
「私も黒香みたいに大きければなー」
「無い物ねだりしてもな」
「はいはい分かりましたー」
小さいものは大きいものに負けるんだよ。やっと分かったか。この……ゴホン。やめとこ。
「あ、そういえば俺日曜日俺部活これないから」
「え?なんで?」
「いや、頼まれごとがあってさ」
「ふーんそか」
「おう」
青奈は「なら、仕方ないか」と言って体育館の方に歩き出して言った。後ろから見たらすげースタイルがいい美人に見えるんだけど、とか思っていると「ほら、柊はやくしなよー」と言って手をブンブン振る。俺は「はいよー」と言って青奈のところに駆け寄る。これ姉と弟みたいに見られるやつじゃん。




