ダサい
この世の中で、これまでの人生の中で、一度も「死にたい」と思わなかった人はいるのだろうか。一度もその言葉を、口にせずに死んでいった人は、いるのだろうか。
「うわ、恥ずかし。死にてえ」
原口祐生は股下中央部が汚れた制服を見てそう口走った。
小声だったので誰にも届かなかったが。
「すみません!クリーニング代出しますので許してください!」
慌てて言うのは、アイスクリームを祐生の股間に落としてしまった子どもの、母親である。
祐生はかっこつけてこう言った。
「すまんな、俺のズボンがアイス食っちまった」
どこかで聞いたことのある言葉で、もしそんなことがあったら使ってみたいと思っていた言葉でもあった。そして小銭を渡し、
「これででかいの買ってきな」
と続ける…つもりだったが小銭がなかった。仕方なく1000円札を取り出して渡す。
それを受取ろうとする少年を、母親が許さなかった。
「悪いですし」
と逆に1万円を渡されることになった。
「はぁ・・・上手くいかんもんだな」
アイスの付いたズボンをクリーニングに出し、家に向かう。財布に残っていた最後の1000円がなくならずに済んでよかったと安心している自分の器に嫌気がさした。
服を着替えベッドに寝転がる。そこに電話が鳴るが、無視する。一体いつからバイトに行っていないのかも分からないくらいだが、いまだにバイト先から電話がかかってくる。どこの店も手一杯なのだろう。
「はぁ・・・」
一体俺は何をしているのだろうか。なぜこうなってしまったのだろうか。
小さかった頃の眼の輝きは、いつからなくなっていたのだろうか・・・・
考えるうちに、日が暮れてしまった。
きっかけは些細なことだったのかもしれない。「仮面ライダーになりたかったら、ベルトがないとなれないんだぜ」の時に、すでに変わっていたのだろうか?それともあの時の「ごめんなさい」か・・・。
原因を探してみても、何もわからなかった。