第9話 異世界事情
王の間に招待されて、そのまま王様の前に案内される。
(ゲームで見たような王様だ…すげぇ)
王様の威厳に圧倒されていると、向こうから話しかけてくる。
「よくぞ参られた、異界の召喚師よ」
「は、はい!」
王様への礼儀作法とか心配しかないけど、大丈夫だろうか?
「そう緊張しなくてもよい。まだこの世界に馴染んでおらぬだろうから、自然体でかまわぬ」
「え…あ、わかりました」
王様も俺が別世界から来たって知っているということは、女神様のお告げだろうか?しかし、これはこれで助かった…
「して、名はなんという?」
「俺の名前は勝谷秀平といいます。それでこっちはゴリディアとニナです」
「ニナと申します。お初にお目にかかります、王様」
ニナに続いてゴリディアも頭を下げる。
「二人もそこまでかしこまらなくとも大丈夫だ。そして、歓迎するぞ四人目の召喚師秀平よ」
(…え?四人目の召喚師?)
「王様!?俺以外にも召喚師っているんですか!?」
「ああ、いるとも。しかし二人ほど連絡が取れなくなってしまっているがな」
他にも召喚師がいることにも驚いたが、連絡が取れなくなっているだと?いったいどういうことだろうか…
「だが、まずはお主がこの世界に呼ばれた訳を話さなければなるまい。聞いてくれるか?」
「はい、わかりました」
確かにそれがわからないと目的も何もないから、そっちを優先だな。
「感謝する。実は今、邪神のとある行動により世の中は大いに乱れておるのだ」
「とある行動?」
「うむ、それは異界の魂を呼び寄せる禁忌の術。それにより、邪悪な魂を集めて悪意ある生物を生み出すことを繰り返しておるのだ」
つまり、悪人を魔物にしてこの世界に送りこんでいるってことか?確かにそれはやばそうだな…
「強大な力と悪意を持つそやつらは、周りの生物も悪意に染めてしまうほどの力を持っている。我ら王国も各地への侵略に抵抗はしているが、それもいつまで持つかわからぬ状況となっている…しかし、女神様は邪神が世の理を破ったことを逆手にとり、その先に光を見出したのだ」
「…もしかしてそれが」
「そう、それこそが召喚師である。召喚師はこの世界で命を落とした勇敢な人々や生物にもう一度だけ命を授ける力を持つと女神様は言っていた」
(…えーと、なんか壮絶な理由が出てきたんだけど、疑問は一つ。何で俺が召喚師になれたんだ?)
「えっと、王様。一つだけ質問してもよろしいですか」
「申してみよ」
「なんで俺が召喚師に選ばれたのでしょうか…?」
だって俺普通の大学生だよ!?特筆するようなことは特に無いし、選ばれる理由がわからねぇ!
その質問に王様はゆっくりとこう続ける。
「確かに、お主にとってそれは気になる部分だろう。それについては女神様はこう言っていた…相手は悪意ある生物を生み出すが、こちらにはそのような力はない。だがこの世界を守りたいという意思を持つ者の力を借りる術は見つけた。こちらから支援はあまり出来そうにないが、その者達と共に成長し苦難を乗り越えられるような人物を探して呼び込んでくる…とな」
…つまり要約すると、どんなに渋い運営でも頑張ってゲームを続ける。いくら敵が強くてもキャラクターを頑張って強化して戦える。必要な時は自分よりこっちを優先する精神(課金魂)を持っている…そんな人物を探していたと。なるほど、俺だな。
(…ちくしょぉぉぉぉぉ!!なんてハードモードに放り込んでくれたんだあの女神ぃぃ!)
でもちょっとわくわくしている自分もいるから悔しい…ぐぬぬ。
「な、なるほど。それが自分だったと」
「うむ。まあ最初に召喚師を呼んだ理由とは少し変わっているかもしれぬが…消息不明になってしまったから仕方ないか」
「ちなみに、どうして消息不明になってしまったんです?」
「それが、どちらもふらりといなくなってしまってな。理由はわからぬままなのだ…申し訳ない」
「いえ、大丈夫です!ちょっと気になったくらいなので!」
「それなら助かる。何か他にも質問はないか?」
質問か…思い返してみて気になるのは、リザードマン達と戦ったときのあれだろう。
「では、王様。このスマホのシンクロという機能はご存知ですか?」
「シンクロ?ふむ……聞いたことがないな。すまない」
王様でも知らないのか。謎は深まるばかりだな…
「いえ、大丈夫です。聞きたいことはそれぐらいですね。ご説明ありがとうございました、王様」
「礼はいらぬ。だが最後に、これだけは伝えておこう。召喚師は様々な者達にもう一度命を与えるといったが、不死ではない。その命尽きるときが別れだと、どうか忘れないでくれ」
…まじかよ。つまりはHPが0でロストするってことか。
「…わかりました。肝に命じておきます」
「それなら良い。おお、そういえばこの国にはお主の先輩にあたる人物がまだ残っているはず。一度挨拶に伺うと良いだろう。名は確か幡手育生と言ったはずだ」
「わかりました。早速会いに行ってみますね」
長い会話の後、王の間を出る。入り口まで近衛兵の人に案内されて、そのまま城の外に出た。王国の地図も貰ったことだし育生って人のところにでも向かうか。
「さて、ニナ、ゴリディア。早速育生さんの場所に…」
ぐぅぅぅぅ~。
どこからかそんな感じの情けない音が聞こえる。そして顔を真っ赤にしているニナ。よくみると耳まで赤くなっている。かわいい。
「あの、えっと、これはですね、ええっと…」
「…先に飯にするか!」
「うう…すみません召喚師さん…」
「いいっていいって。ゴリディアも腹へっただろ?」
俺の言葉に静かに頷くゴリディア。
「な?ニナの食べたがっていた魚料理でも食べようぜ!」
「あ…ありがとうございます!じゃあ早速向かいましょう!さっきのお店がずっと気になっていたんです!」
さっきまでの様子はどこへやら。跳び跳ねながらこっちこっちと呼んでくる。かわいい。
その後、魚料理を食べたけれどもこれが案外美味しかった。すこし変わった味付けだったけど、案外馴染めるものだ。それとゴリディアが魚を食べたことにも驚いた。こっちのゴリラは雑食性なのか…?
飯の後に代金を支払って店を出る。ただ、ゴリディアの出費が結構痛いな…体が大きいからしかたないけども。どこかでお金稼がないとまずそうだ。
「ふー美味しかった!今も昔もお魚は美味しいですね!」
「お、おう。そうだな。それじゃあ腹ごしらえもすんだことだし、育生さんの所にでも向かうか」
「了解です!」
地図につけられた印を目指して街中を進んでいく。するとだんだんと周りの建物が少なくなっていき、自然が多くなってくる。
そしてたどり着いたのは、大きな牧場。
「…育生さんって召喚師だよな?酪農家がいそうなんだけども…」
「うーん?酪農家兼、召喚師かもですよ?」
なるほど、確かにそういうのもありそうだ。ニナとそのような会話していると、褐色の獣人お姉さんが話しかけてくる。
(おお、なかなかのスタイル…)
「あなた達、どうしたの?ハタテ牧場に何か用事かしら?」
「えっと、そうですね。俺、召喚師なんですけど育生さんに挨拶しようかなと思いまして」
すると、獣人のお姉さんは目をパチクリさせて、
「あら本当!?ちょっと待っててね、今イクオを呼んでくるから!」
と言って牧場の奥に走っていく。
しばらくして、朗らかそうなおじさんが奥から小走りで向かってきた。
「えっほ、えっほ…いやぁ待たせちゃったかな?はじめまして、僕は育生っていうんだ。君が新しい召喚師かい?」
これが異世界で初めての、自分以外の召喚師との遭遇だった。