第6話 新たな仲間
世界が青く包まれる。ゴリディアとリザードマン達の動きは止まっており、スマホには残り16秒と表示されたタイマーと指示を三つ入力する画面が映っている。
(…なるほどな、そういうことかよ!)
急いでアースクエイクの情報を見る。効果は範囲小ダメージとよろめきだ。
(これは…いける!)
タイマーは残り12秒。入力するのはアースクエイク、メガトンパンチ、メガトンパンチ。
指示を入力した直後、タイマーの時間が0になる。そして、止まっていた時が動き出す。
次の瞬間、ゴリディアがキングより素早く動く。まずは全力で地面を叩き、衝撃波を発生させる。それにより体勢を崩したクイーンの詠唱は止まり、キングには隙が生まれた。
そして、硬直をキャンセルしたかのような素早い動きでキングの隙をつき、メガトンパンチを繰り出して空中に打ち上げる。止めにゴリディアがジャンプしてメガトンパンチを打ち込み、キングは地面に叩きつけられた。
そのゴリディアの渾身の攻撃を食らったキングは、目を回して気絶していた。
(…すげえ。これが、シンクロ…!)
残されたのはクイーンのみ。しかし、キングが倒されたことによりもう戦う意思は無いようだった。
「普通だったら経験値はほしいところだけど、敵意がないならちょっとな…ゴリディア、クイーンに話はできるか?」
俺がそういうとゴリディアはゆっくりとクイーンに近づき、ウホウホする。あれは会話をしている…のか?
しばらくして、ゴリディアが戻ってくる。
「どうだったゴリディア?もう村の人達に迷惑はかけないって言ってたか?」
その言葉に小さく頷く。それなら安心だ。お宝らしいお宝が見当たらなかったのは、少し残念だけども。
「よし、それならこれで一件落着だな!早速村に帰って、皆に報告しようぜ!」
俺が意気揚々と戻ろうとすると、ゴリディアに肩を捕まれる。そして、何か紙のような物を渡してきた。
「ん、なんだ?紙?」
それは、SR以上確定とかかれている紙だった。
「え!?ゴリディア、これをどこで手にいれたんだ!?」
すると、クイーンを指差す。これをお詫びとしてくれたのか?でもなんでクイーンがこんな物を持っていたんだ…?
「…まあいっか!村に帰ったら早速回すぞー!」
とにもかくにも、ガチャを回せる喜びで細かいことは気にすることはできない。
こうして俺達はリザードマン達を懲らしめて、無事に村に帰るのだった。
村
俺達が村に帰ってくると、村人達が出迎えてくれた。
「おお、召喚師様!無事に戻られてよかった!して、リザードマン達はどうなりましたか…?」
「バッチリ懲らしめてやりましたよ。これでもう迷惑をかけることはないでしょう」
「さすがは召喚師様だ!」
「あのリザードマン達を二人だけで倒してしまうなんて!」
「宴だ、今夜は宴だ!」
まあ、ほとんどゴリディアのおかげだけどな。俺はシンクロしかしてないし。
その日、俺とゴリディアは村人が開いてくれた宴を満喫した。バナナはなかったけれどリンゴはあったから、ゴリディアも美味しそうにそれを食べていた。
やがて夜も更け、部屋に戻る。そして、お楽しみのあの時間がやってきた。
部屋の中央で、一人正座をする。スマホに映されてあるのは回すの文字。
(心眼で流れを読むんだ、俺。俺なら二連続でSSRを引ける)
極限まで精神を研ぎ澄まして、意識を集中させる。
イメージしろ…美女を当てる自分…美少女を当てる自分を…
月明かりが差し込む部屋で、待つ。そして、この時は突然やってきた。
「…今だっ!!」
感覚を信じて運命のボタンをタップする。展開される魔方陣。その色が青、赤と変化する。
(にーじいろ!にーじいろ!)
心で声援を飛ばす。しかし、虹色にはならずに光が大きくなってゆく。
(SRか…だがまだ美少女の確率は残っている!)
光はさらに大きくなり部屋を呑み込む。
そして次に俺がみたのは、クリーム色の長い髪の毛と大きな青い瞳。服装は…なんというか神官+巫女みたいな格好で杖を持っている。そして、ケモミミ。なんと言ってもケモミミ。そうそれはまさに…
―――ケモミミ美少女そのものだった。
(ありがとう、神様。ありがとう、女神様)
天に拳を突き上げながら、感謝を伝える。これが俺の夢が叶った瞬間だった。
だが、俺は重要なことを失念していた。女の子と話した経験がそんなになかった影響か、どう声をかければ良いのかまったくわからない。というか美少女に話しかける正解ってなんだ?
おろおろしている俺の様子に見かねたのか、女の子ほうから話しかけてくる。
「あ、あの…あなたは?」
「え!?えーと、俺は勝谷秀平!し、召喚師です!」
「召喚師…?あなたが?」
「はい、多分!おそらく!」
考えてみれば女の子を召喚したい召喚師って怪しさしかねぇ!目的がそれだったから呼んだ後のことを全然考えてなかった!
いきなり好感度マックスはゲームだけだ、リアルでは成り立たない!第一印象が悪かったら俺の冒険はおしまいだ!
ぐるぐると思考を巡らせる中、ゴリディアに挨拶させることを思いつく。これならなんとか話題を繋げられるはずだ。
「あ、そうだ!俺には他にも仲間がいるから、挨拶とかどうですか?」
「お仲間さん?」
「そうそう。ちょっと待っていてくださいね…」
スマホを操作してゴリディアの召喚ボタンを押す。しかし、画面に表示されたのは『召喚限界です』という文字だった。
(…召喚できるのは一人までなのかよ!)
いや待て俺。こういう時は俺がパワーアップするとかそういうのがあるのでは?今度は俺の名前をタップしてみる。
すると、画面に勝谷秀平Lv12とpsp1という文字が表示された。
(おっしビンゴ!pspはプレイヤースキルポイントみたいな感じか?)
画面をスクロールすると俺自身のスキルツリーが表示される。どうやら最初から選べるのは、召喚上限1アップ、回復時間短縮小、スキャンボーナス+2%だけのようだ。
(本当だったらじっくり考えたいけど、今はこれ一択だな)
俺はpspを1消費して召喚上限1アップを解放する。これでゴリディアを呼び出せるはずだ。
「お待たせしました。それでは、俺の相棒をご覧にいれましょう!」
続けてゴリディアの召喚ボタンをもう一度押し、魔方陣を展開する。程なくして、ゴリディアが召喚された。
「そう、こいつこそが俺の最初の相棒…」
説明しようとした瞬間、女の子は持っていた杖を落とす。
「…嘘…ゴリディア…なの…?」
(あれ、なんだか様子が?)
その言葉にゴリディアは優しく頷く。
「…ゴリディアっ!」
そして、女の子は泣きながらゴリディアの胸に飛び込む。これは一体全体どういうことなの…?
女の子の背中を優しくさするゴリディア。俺はただただ、女の子が泣き止むのを見守るしかなかった。