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第1話 異世界転移は突然に

 10000と5000。それは後も見越しての選択か、一時凌ぎか。


(…5000にするか、今月危ないし)


 いける、自分なら5000円分で引ける。そう思いながらカードを手に取り、レジに向かう。


「ありがとうございましたー」


 また買っちまったぜ。今日から始まったの夏ガチャの準備には心細いかもしれないが、俺には無料分という貯蓄がある。いけるいける。


「にしても、あっちぃな…」


 昨日も猛暑、今日も猛暑。いったい地球はどうなっちまうんだ。


(…ま、俺はガチャを引ければそれでいいんだけどな)


 家に帰ったら正座でチャージ、そして流れを読み、回す。そして当てるはSSR!そんな妄想をしながら駅に向かう際に、赤信号で立ち止まる。


(赤信号かよ…さっさと電車に乗り込んで体を冷やしてぇな)

 

 そんな苛立ちを沈めようと鞄から5000円分のカードを取り出す。そしてやることは、さっきと同じ妄想。正直この時間もガチャの醍醐味だと俺は思っている。


(爆死しませんようにっと)


 軽く祈ってからカードを戻そうとした、次の瞬間。軽いめまいが俺を襲い、思わず膝を着く。


(…あーくそ、あんまり水分とってなかったっけ)


「大丈夫ですか?」


 そんな俺に、近くにいたOLらしき人が話しかけてくる。


「あ…はい。ちょっとめまいがして…」


「最近猛暑が続いてますからね、水分補給はこまめにですよ」


「はい…気を付けます」


 心配をかけちゃって申し訳ない、というよりちょっと恥ずかしい。立ち上がる際にそんなことを思う。


(…ん?あれは…)


 立ち上がった俺の目に映ったのは、横断歩道に落ちている一枚のカード。そのカードの値段は…5000。


「…俺のカード!」


 暑さで頭が回らなかったのか、すぐに俺はカードを取りに行ってしまう。


(…あ、やべ。赤じゃん)


 気づいた時にはもう遅かった。横からものすごい衝撃にはね飛ばされ、俺はそのまま意識を失った。






 薄れ行く意識の中、俺は青空を向いていた。しかし起き上がろうとしても、起き上がれない。回りからざわざわとした声も聞こえる。


「大丈夫ですか、しっかりしてください!もうすぐ救急車が到着しますから!」


 そんな言葉が俺にかけられる。そうか…俺、はねられたのか。カードを拾おうとして…


(…カードを拾おうとして死ぬなんて、笑い者確定じゃねえか…)


 また意識が薄れていく。次に目覚めたら、俺はどこにいるのだろうか。腕が動かないのだけは勘弁してほしいな…ガチャが引けないから。


 そんなことを思っていたら、また意識を失った。






「…目覚めなさい。目覚めなさい、秀平。」


 声が聞こえる。俺、一命はとりとめたのか?でも病院かと思ったら、なんかゲームみたいな起こしかただな。

 そう思いながら目を開けると、そこは空の上。


「……え?」


 下を向くと、病院らしき建物が見える…けどこれはどういうことだ?なんで俺は空を飛んでいるの?

 混乱していると、再びあの声が聞こえる。


「目覚めましたか、秀平」


(なんだ、この女神みたいな声?上から聞こえてくるな)


 声の主が気になり、声の聞こえる方向を見てみる。

 すると、そこにはどこからどう見ても女神らしき人物?神様?がいた。


(わーお、女神じゃん。まじかよ)


 あまりの衝撃に、小学生並みの感想しか出てこない。女神って本当にいたのか。


「どうやら混乱しているみたいですね。それでは簡潔に今の状況を説明しますと、あなたは生と死の狭間にいます」


「え?」


「ですから、選んでください。このまま病院で目覚めるか、私と共に異世界に向かうかを」


 なに言ってんだ、この人。異世界ってゲームでよくあるあの異世界?とりあえず、まず聞きたいことは一つだ。


「えっと、なんで選択肢に異世界があるんですか?」


「それはあなたの精神が私の世界にとても合っているからです。あなたは、ガチャが好きなんでしょう?」


 やべ、女神に知られてるとか恥ずかしい。でも事実だから言い返せない。


「…好きですね、ガチャ」


「でしょう?ならとても良い場所だと思いますよ?なにせ、今ならこれを差し上げますからね」


 渡されたのは、俺のスマホより少しでかい端末型機械。もしやこれは…?


「なんとこれでガチャが引けます」


 まじかよ!…って言いたいけど、驚けないって!こっちで散々回してきたよ!


「召喚した存在が、リアルで現れる優れものです」


 ………まじかよ。


「リアルって、目の前に現れる的なやつですか?」


「はい、その通りですよ」


 それってもしかして、あんな娘やこんな娘がリアルで目の前に?そう考えたら、すげぇそっちに行きたい。でも大学とか両親とか、今までのデータとかを全部切り捨てるってことだよな…


「そうだ!俺の体は無事なんですか!?」


 こっちに留まるとしたら、そこが重要だ。元気なままなら、俺には楽しみにしていた夏ガチャが待っているんだ!


「…残念ですが、あなたは下半身不随みたいですね」



 俺の夏ガチャ、終わっちまったよ…嘘だろ…バイト続けられねぇじゃん…


 下半身不随でこの世界に残りガチャを回すか、異世界で元気にガチャを回すか。その二択なら、俺は…


「どうしますか?もちろん女性の召喚の可能だと思いますが」


「…決めました。俺、そっちに行きたいです」


 父さん、母さん、ごめん。さらに迷惑かけることになるなら、俺は異世界とやらに行くよ。

 後、これはあくまでも迷惑をかけるのならであって、やらしい気持ちは一切ないと誓うよ。


「わかりました。それでは私の手を取ってください」


 俺に向かって手が伸ばされる。この手を取ったら、俺は異世界に行くんだ。

 手を伸ばし、女神に触れる。次の瞬間、体が空高く上がっていく。


(…さようなら、地球。さようなら、俺のデータ達)


 俺の体は雲を超え、やがて宇宙へと旅立とうとする。そして俺は光に包まれて、意識を失った。

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