最終章 世界X
日本の紳士服売り場に、ボロボロのスーツを着た男が来店した。男のスーツは埃だらけで、裾や袖がビリビリに破れている。店員は何があったかは聞かず、驚き顔で「いらっしゃいませ?」と言った。
男はポケットからありったけの金を取り出した。全てしわくちゃだ。
「これで買えるスーツを一式頼む」
店員は、お金を受け取り、数えた。かなりの大金で、いちばん高級なスーツが揃えられる額だった。男にスーツの種類を聞くと「動きやすいもの」と答えたので、とりあえず、ビジネススーツを進めることにした。
男は勧められたスーツを一発で気に入り、それにすると決定した。あまりこだわりがないのだろう。店員は男に試着を勧めた。
男は試着室に入り、鏡を見た。鏡に映った自分は本当にボロボロだった。スーツも酷いが、髪も酷かった。全ての髪が違う方向を向いていて、埃がまとわりつき、灰色がかっていた。男は髪をわしゃわしゃとかき混ぜ、埃を落とした。
ボロボロのスーツを脱ぎ、下着姿になった。さて、新しいズボンを履こう、という時に、なにかが一瞬光った。鏡が光ったようだった。
男はまさかと思い、鏡を見た。
鏡に映っていたのは、ホワイト、グリーン、メリ、ティム、ヒゲ、その後ろにトニー、アーノルド、カイル、パドック、メントスだった。隙間から、カホとメアリーがこちらを見ようと頭を動かしている。グリーンが気を利かせ、カホとメアリーを奥に追いやった。
フロードは急いで、ズボンを上げた。そして、大きく咳をした。
ホワイトはうつむいて目を隠し、ため息を吐いた。
「なにしてるんですか……」もう一つため息をつくホワイト。
「いや、服があまりにもボロボロだったんでな。お前らも、タイミング考えろ」
「連絡しないから悪いんでしょ?」ホワイトが横目でフロードの服装を確かめた。もうズボンを履き終え、ワイシャツに取り掛かっている。ホワイトは目隠しをやめた。
「なぜか壊れたんだよ」フロードはポケットからスマホを取り出し、ゆらゆらと見せびらかした。
ティムとヒゲとパドックは大笑いし、トニーは涙混じりに笑っていた。
スーツを着終えたフロードは、両手を広げ「どうだ?」と確認した。
ティムは口笛を鳴らし、ホワイトはうなづいた。トニーは親指を立て、グッドサインを出した。メリは、ホワイトの肩辺りから、背伸びをして顔を出していた。フロードの姿に、ニヤニヤ顔をむけている。
フロードは靴下のまま鏡へ歩き出した。ボロボロの靴は試着室の前に置いたままだ。鏡を抜けると、そこにいた全員が道を開けた。その先にはカホとメアリーが待っていた。
カホとメアリーの笑顔は、シャイニングよりも輝き、それでいて眩しくなく、フロードの心を満たした。
フロードは、二人を抱きしめた。
その瞬間に、パンッと音がした。
ティムがシャンパンを開けたのだ。片腕が折れているというのに、やらずにはいられなかった様だ。
セカイトメントは夜明けを迎えた。地球人に襲われることの無い、新たな夜明けだった。
終了
道端にスマホが落ちていた。シャイニングがホワイトから奪ったものだ。通行人のいない、早朝の静かな通りに、呼び鈴が鳴る。
スマホのビデオ通話が起動した。その画面には男の顔が映っている。
「あの〜……ホワイトさん? ティムの拠点についたんですけど、誰もいなくて……。どうすればいいですかね?」
ジンマ(人名)だった。
これにて終了です。
駄文失礼しました。




